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第1381話 思わぬ品が運ばれてきました
第1381話 思わぬ品が運ばれてきました
「さて、ハルトの引っ越し祝いでちょっと色々あり過ぎたけど、次は僕の番だね」
「も、申し訳ありません、閣下」
ユートさんが視線を送りながら言うと、頭を下げるエッケンハルトさん。
変わった趣味で、気軽に話す間柄になっているユートさんだけど、こうして見ていると本当にエッケンハルトさんより身分が上なんだなぁと実感する。
まぁ、現在の身分だけじゃなくこれまでの事を聞いたら、当然なんだけど。
「いやいや、気にしていないから。珍しい物が見られて、僕も楽しかったし」
ひらひらと手を振って話すユートさんは、確かに楽しそうだ。
「それじゃ、次は僕からタクミ君への引っ越し祝いだね。用意は済んでいるかな?」
「はい」
声を掛けると、恭しく礼をするセバスチャンさん。
何を用意してくれたのか知らないけど、セバスチャンさんは知っているのか。
これまでの言動を考えると、ちょっと怖いような気もするけど興味もある。
「じゃ、持って来てくれるかな?」
「畏まりました……」
ユートさんに言われて、セバスチャンさんと数人の使用人さんと護衛さん達が大広間を出ていく。
エッケンハルトさんの時は、既にこの場にあったけどユートさんのはこれから持って来るのか。
というか、持って来るのに結構な人数が行ったけど、大きな物とか量があったりなのかな?
「ユートさん、一体どんな物なんだ?」
「それは見てのお楽しみってね。多分……いや、間違いなくタクミ君は喜ぶと思うよ。他の人達、というかクレアちゃん達はどうかわからないけど」
「クレアが喜ぶかはわからない……?」
「私は、お祝いという事でしたら気持ちだけでもありがたいと思うのですけど」
気になって聞いて見ても、まずは物を見てからという事みたいだ。
俺は喜ぶけどクレア達はどうなのかはわからないか……。
首を傾げる俺に、キョトンとしているクレア。
まぁ、確かにクレアの言う通り、祝ってくれるという気持ちがありがたいな。
「あぁいや、多分クレアちゃん達も喜べると思うんだけど、物を見てすぐかは微妙かなって」
そう言うユートさんに、再び首を傾げて待つ事少し……数分くらいか。
セバスチャンさんを始めとした、数人の使用人さんがそれぞれ大きな荷物を抱えて戻ってきた。
使用人さんはそれぞれ円筒状の物を抱えており、護衛さんは同じ物を両肩に一つずつ抱えていて、それを持っていない使用人さんやセバスチャンさんは、何やら縦横三十センチくらいの木箱を持っている。
かなり重そうだ……中身が詰まっているのだとしたら、大きさ的に三十キロくらいってところかな? 重い物を運ぶから、護衛さんを連れて行ったのか。
「まさか、これって……」
ドスンドスンと、俺の近くまで運んで円筒状の物を積んでいく使用人さんと護衛さん達。
セバスチャンさん達木箱を持った組は、別の場所に置いている。
それを見て、重そうだとかそういう感想は何処かへと行き、声を漏らしながら目は置かれている円筒状の物に釘付けになった。
「タクミさん……?」
「ふっふー」
俺の様子を窺うクレアに、イタズラが成功した子供のような表情になって鼻息を出すユートさん。
「もしかして……なんて考えるまでもないかもしれないけど、中身が別物とかじゃなければ……!」
「うん、タクミ君の考えている通りだよ」
震えているのを自覚しながら、積まれた円筒状のそれに手を伸ばす俺。
ユートさんが頷き、俺の考えを肯定した。
その円筒状に積まれた物……それは藁でできた保存のための、袋といったところか。
実際に目にするのは初めてだけど、日本人ならよく知っているその形……それは、米俵だった。
「これ一つ当たり一俵……とこちらでは数えているみたいだけど、タクミ君が知っているのはこの倍の大きさの物かな。半俵ってところ」
「言われてみれば、確かに少し小さい気もするけど……でも、本当に?」
米俵、実物を目の前で見る機会はほとんどない、というかこれまでなかったけど……それでも何かしらで見る機会は多い。
ポンポンと軽く米俵を叩くユートさんに言われて、思っていたより小さいと気付くくらいだけど、そうかぁ。
一俵は大体六十キロだったはずだから、半俵なら三十キロ。
使用人さん達が抱えて大広間に入ってきた時、それくらいの重さかな? と考えていたのは正しかったようだ……いや、そんな事はもうどうでもいいか。
「米……米が食べられる!!」
「タ、タクミさん?」
思わず、握った両手を天井に向けて突き上げ、喜びに任せて大きな声を出す。
そんな俺の様子に、目を見張るクレアと首を傾げるレオ。
そうか……そうだよな……クレアはこれが日本人の主食だって知らないし、こういう反応をすると驚いてしまうよな。
「ワウ……スンスン。ワウゥ?」
俺と違い、レオは鼻先を近付けて米俵の匂いを嗅いで、なんでそんなに喜ぶのかわからないといった様子で首を傾げた。
まぁ、レオはあまり白米が好きじゃなかったからな。
「うんうん、そうだよね。そういう反応になるよね~」
「うぅむ、私は閣下との関係で食べた事はあるし知っていましたが、ここまでの反応になるものなのですか……?」
エッケンハルトさんは食べた事があるのか……いいなぁ。
いや、目の前にあるんだからこれから俺も食べられるはずだし、羨ましく思う必要はないのかもしれないけど。
俺の様子と米俵を見比べて、首を傾げるエッケンハルトさんにユートさんがしたり顔になる。
「僕……はともかくタクミ君はね、仕方ないよ。懐かしの食べ物というか、体と心に刻み込まれた魂の味というか……」
いや、さすがにそこまで大袈裟じゃないけど……パン食も多かったし。
でも懐かしいと言うのは間違いないし、この世界に来てから一度も口にした事はない。
オートミールのリゾットみたいな物とか、食感としてはお粥に近い食べ物はヘレーナさんが作ってくれた事はあるけど、でもそれは米じゃない。
まったくの別物なんだ!
「タクミさん、これはそれほど喜ぶ物なのでしょうか? いえ、お祝いの品であり、頂いた物なのですから喜ぶのもわかるのですが……」
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