第1376話 大広間に集まりました



 エッケンハルトさんにからかわれたり、ユートさんへ突っ込んだりしている間に、ヘレーナさん達が準備してくれていた料理ができ上がり、フェンリル達は敷地の外で集まって、俺達はティルラちゃんも合流して新しい食堂で昼食を取る。

 その際、ある程度慣れたけど使用人さん達や従業員さん達も別室で、俺達の食事が終わるのを待っていたらしいのが気になった。

 まぁ優先順位というか、決まった順番みたいなのがあるんだろうけど……これは後で誰かと相談してみるべきか。

 やっぱり俺としては、フェンリル達だけじゃなく他の皆とも一緒に食事をした方が楽しいと思うから。


 俺の考えはともかくとして、食事の後は大広間へと全員が集まる。

 俺やクレア、エッケンハルトさんとユートさんだけでなく、一部を除いた使用人さんや護衛さん、それから従業員さんと孤児院から預かった子供達もだ。

 あ、ハンネスさんやロザリーちゃんもいるな……ロザリーちゃんは、ミリナちゃんやティルラちゃんと一緒に、シェリーやレオとじゃれ合っているけど。

 予想通り、百人を越える人達が集まってさらに体の大きなレオもいるのに、大広間は狭いとは一切感じないな。


「では、タクミ様、クレアお嬢様」

「はい」

「えぇ」


 ライラさんに促されて、皆の前に立った俺とクレアが集まった人達に話し掛ける。

 とはいっても、就任というか新しい屋敷にこれから住むので、皆よろしくといった挨拶をするだけだ。

 俺やクレアの話を終えて、向かい合った皆からの拍手が起こる。


 人数が多いので、拍手だけでも圧倒されるなぁ……と思う俺の横では、にこやかな様子のクレア。

 俺と違って、やっぱりこういうのに慣れているんだろうな。


「ガラグリオさん、これからよろしくお願いします。リアネアさんも」

「はい! 粉骨砕身、タクミ様のために頑張らせて頂きます!」

「お任せ下さい! タクミ様のためならばどんな事でも!」


 全体への挨拶の後は、従業員さんへ個別に挨拶。

 相変わらず、力が入り過ぎているガラグリオさんとリアネアさんの二人に苦笑しつつ、孤児院出身組のカールラさん、メンティアさん、カイ君にも声を掛けた。


「エメラダ、よろしくお願いね」

「クレア様、タクミ様、そしてレオ様にお力添えができるよう、精進して参ります!」


 クレアの方も、エメラダさんを始めとした数人に話し掛けている。

 こちらは俺が雇った人達へ、あちらはクレアが雇った人達へだな。

 それぞれ声を掛けて、何か要望や問題があれば言うようにと伝えて、従業員さん達は孤児院の子供達も連れて大広間を退出。


 屋敷に住む人は屋敷で、村の方に住む人はそちらへ使用人さんの案内で向かってもらう……俺達だけじゃなくて、皆にも住み始めるための準備があるからな。

 一応、夕食は村の広場で宴会になるだろうというのは伝えてあるし、屋敷にいる人は俺達と、村の方では村の人達が案内してくれるはずだ。

 当然ながら騒がしくなるので、案内がなくても気付くとは思うけど。


「では……私からでよろしいですかな?」

「うん。僕のはまた後の方が……多分タクミ君にとっていいと思うから」

「ん?」

「なんでしょう?」


 従業員さん達がいなくなって、さらに広く感じるようになった大広間で、エッケンハルトさんとユートさんが何やら、小声で話している。

 というか、後の方がいいってユートさんは俺に何をするつもりなのだろう?

 俺とクレアが首を傾げ、どうしたのかと視線を向けると、それに気付いたらしくエッケンハルトさんが咳払い。


「……新居建設、そして移住完了、おめでとう。タクミ殿、クレア」

「ありがとうございます、エッケンハルトさん」


 一歩前に出ての祝辞。

 俺とクレアでお礼を返す。

 ただ、おめでとうと言いたかっただけかな?


「うむ。そして……セバスチャン、例の物を」

「畏まりました」


 俺達の返礼に頷いたエッケンハルトさんは、セバスチャンさんに言って何かを持って来させる。

 それは、三つの布に包まれた細長い何かだった。

 一メートル近くの長めの物が一つと、三十センチそこらの短めの物が二つ……布に包まれているからわからないけど、形状からは剣のように見える。


「旦那様、こちらに」

「うむ……」

「お父様、それは? 剣のように見えますけど……」


 セバスチャンさんから包まれた物を受け取り、別の使用人さんが丸テーブルを用意してそこにゆっくりとエッケンハルトさんが置く。

 クレアさんはそれらを見て、不思議そうにしている。


「まぁ、見た通りだな。私からの祝いの品だ。見ての通り剣と……ダガーだな」

「綺麗ですね……」

「立派な装飾です」


 包んでいた布を外し、その姿を見せるエッケンハルトさん。

 形状からの予想通り、長めの物がショートソードで、二本ある短めの物がダガーだった。

 その柄や鞘には装飾が施されていて、ものすごく立派な物に見える……けど宝石が散りばめられてもいるのに、派手過ぎず趣味が悪くも見えないのは作った人のセンスの良さか。


「この剣とダガーは、別邸から送られてきたシェリーの牙を使っているのだ」

「シェリーの?」

「キャゥ?」


 ショートソードを手に取り、鞘から抜きながら話すエッケンハルトさん。

 そういえば、シェリーが歯というか牙の生えかわりがあり、抜けた後の牙を何かの素材として使う……みたいな話があったっけ。

 呼ばれたと思ったのか、自分の名が出たシェリーがこちらを見て首を傾げた。


「確かに、シェリーの抜けた後の牙はお父様の所にも送りましたけど……」

「ラクトスは鍛冶が盛んなわけではないので、シェリーの牙を加工できる者がおりませんからな。旦那様の方でとお送りしました」


 剣を見ながら話すクレアと、セバスチャンさん。

 常に濃密なフェンリルの魔力を受けていた牙……単純に抜けた乳歯ではあるけど。

 加工するとそこらの金属で作る物よりも、良い物ができるのではという話ではあった。

 だから、加工技術がありそうなエッケンハルトさんの所に送ったんだろう。


「うむ。本邸のある街にはそういった鍛冶技術に優れた者もいる。その者に渡して加工させたのだ」

「それがこの剣とダガーなんですね」


 すらりと、なんの引っかかりもなくエッケンハルトさんが抜いた剣身は、シェリーの牙や毛と同じく真っ白で照明を反射してとても綺麗だ。

 鞘や柄などに施されている装飾よりも、その剣身の方が綺麗だとすら思える程だ。

 抜かれていないけど、同じ物が使われているのなら、ダガーの方もそうなんだろうな――。



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