第1374話 屋敷内の案内を終えました



 屋敷一階にある地下室は二つで、片方は食糧などの備蓄のためともう片方は酒類の保管庫だな……ちょっとしたワインセラーみたいな場所ってとこか。

 屋敷に来たばかりで、備蓄などはほとんどなくがらんとしていたけど、さすがに地下にレオは入れなかった。

 狭かったから仕方ない。


「ワフゥ……」


 そのレオはちょっと残念そうにしていたけど、遊び場じゃないし、暑い時の避難場所でもないからな?

 保管庫などの他に、客間もいくつかこちら側にある。

 別邸で俺達が使っていた客間よりも、少し狭いが……それでも十分過ぎるくらいに広い。

 まだ家具が運び込まれていないのもあるかもしれないけど。


 今のところ、お客さんが来る予定もないからとりあえず客間に関しては後回しらしい。

 そして屋敷一階右側の案内を終えて、逆側へ向かう途中……。


「そういえば、いつの間にかリーザの事をお嬢様って呼んでいますけど……?」


 屋敷に入って最初に迎えられた時もそうだけど、ライラさんを含めて使用人さん達が皆、リーザにお嬢様を付けて呼んでいた。

 今も、忙しそうに行き交う使用人さん達とすれ違う際、リーザが手を振ると「リーザお嬢様」と声を掛けてくれている。


「リーザお嬢様はタクミ様のお子様、という位置づけになりますので」

「成る程、クレアやティルラちゃんと同じ、というわけですね」


 一応の主人で、使用人さんの半分は俺が雇っているわけだから、娘のようになっているリーザは別邸や本邸でいうところのクレアやティルラちゃんと同じってわけか。

 これまでは客人としての扱いだったが、それが正式に変わったという事だろう。


「えへへ、クレアお姉ちゃんやティルラお姉ちゃんと同じー」

「ふふ、そうね。リーザお嬢様」

「キャウキャウ~」


 お嬢様と言われてご満悦、というよりクレア達と同じ事を喜ぶリーザに、微笑みかけるクレア。

 シェリーは羨ましそうに鳴いたけど……お嬢様って呼ばれたいのかな? シェリーお嬢様……呼び方としてはなくはないと思うけど、フェンリルの子供と考えるとどうなんだろう。

 まぁ、シェリー自信お嬢様だとかではなく、リーザと同じようにクレアやティルラちゃんと同じ、という部分を羨ましく思ったんだろう。

 そんな風に話しながらホールから屋敷の左側、エッケンハルトさん達が寛いでいるはずの客間を通り過ぎて奥へ。


「……楽しそうですね」


 客間の前を通る際、中からユートさんとエッケンハルトさんの笑い声が聞こえた。

 楽しく過ごしているのはいいと思うけど、一緒にいるはずのルグレッタさんが困っていないかだけが、心配だ。

 ルグレッタさんは、ユートさんとの付き合いも長いし、大丈夫だとは思うけど。


「食堂、大広間、それから……」


 屋敷の左側はよく人が集まる場所が多く、客間や食堂だけでなく大広間や応接室があった。

 食堂が別邸よりも広いのは、レオがいると最初からわかっているからだけど、フェンリル達もいるから最近は別邸でも裏庭で食べる事が多かったため、使用頻度が高いかはこれから次第だな。

 大広間や応接室は別邸になかった……と思っていたら、実はあったらしい。

 俺が使わなかっただけか。


 大広間は百人入っても大丈夫! と言えるくらいの広さと、華々しい調度品などがあり、パーティ用と言った風だ。

 パーティをするのかはともかく、多くの人が集まる場合はここだな。

 応接室の方はあまり広くなく、レオにとっては窮屈そうな場所でソファーとテーブルがあるくらいだ。

 さらに廊下を進んだ奥には、こちらにも客間があって間取りは右側と特に変わらない。


「大雑把にですが、屋敷内はこんなところでしょうか」

「案内、ありがとうございます」


 奥まで行って案内を追えるライラさんに、リーザ達と一緒にお礼を言って頭を下げる。

 少しだけ入り組んでいる場所もあるけど……大体使うのは寝室と執務室、客間やしぉyくどうだろうから、あまり迷う事はないと思う。

 配置や広さは別邸と違う部分もあるけど、そこまで大きく変わっているという程でもないからな。


「外には、護衛兵が詰める場所、従業員のための部屋、その他にも……」


 屋敷内だけでなく、敷地内にはまだ他にもあるようだ。

 護衛兵……フィリップさん達がいる場所や暮らす部屋、住み込みの従業員さん達が生活する部屋などだな。

 あとは、倉庫や武器庫とか。

 武器庫と言っても、護衛さん達用の装備を置く場所だけど……その辺りは追々かな。


 屋敷内で護衛さん達や使用人さん達が使う部屋など、細々としたのはまだまだいっぱいあったから。

 とりあえず地味に嬉しいのは、トイレが水洗だった事か……魔法具の便利さが凄い。


「ふふふ……」

「ん、どうかした? クレア」


 案内が終わったので、とりあえずエッケンハルトさん達と合流するため、客間へ向かっている途中、笑い声を漏らすクレア。

 特に笑うような話をしていなかったと思うけど……なんだか楽しそうではある。


「いえ、ここでタクミさんやレオ様、リーザちゃんと新しく暮らすのだなと思うと……」

「あぁ、そうだね。ちょっとだけ実感が湧いてきたよ」

「ちょっとだけですか? 私はこんなに、タクミさんと暮らせる事を嬉しく思っているのに?」

「いやまぁ……クレアといる事は嬉しいんだけど、この屋敷の大きさにまだ少し圧倒されているみたいだから」


 悪戯っぽく笑うクレアに、鼻の頭を指先でかきながら答える。

 新しい屋敷はまだまだ新品感が拭えないし、こんな豪邸が自分の持ち家だとかっていう実感がまだ薄いからなぁ。

 使用人さん達に迎えられた時、屋敷にも受け入れてもらえたような感じはしたけど、やっぱりまだまだ現実感がない……とまでは言わないけどそれに近い感じだ。

 別邸も使用人さん達の努力のおかげで、掃除が行き届いていて綺麗だったんだけど、こちらは新しいという意味で綺麗なのもあるのかもしれない。


 これからだからだろうか、まだ誰も住んでいなかった事での冷たい感じもある。

 別邸の方は、クレアを始めとした皆が迎えてくれたのもあって、温かみのようなものを感じたのだけど、ここにはまだそれがない。


「そうなのですか? 別邸や本邸よりは小さくて、圧倒されるという程の規模ではないと思うのですけれど……」

「ははは……クレアはそうかもしれないけどね」


 俺が大きな屋敷に圧倒されていると聞いて、キョトンとしているクレア。

 生まれてからずっと、大きなお屋敷で暮らしてきたクレアと違って、俺は日本人としての一般的な暮らししかしていない。

 伯父さんの家は少し広めだったけど、それでもこの屋敷の大広間程じゃないし。

 それこそ、一人暮らしを始めてから住んでいた場所なんて、さっき見た応接室より狭かったからなぁ――。



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