第1370話 リーザの部屋も用意していました



「えっと、初めての場所だから匂いを覚えてとか、そういう感じだと思う。縄張りを調べるとかにも近いかな?」

「ワフ!」

「成る程、そういう事でしたか。そういえば、シェリーも初めて私の部屋で目を覚ました時、同じような事をしていました」


 俺の答えに頷くレオ。

 納得したクレアは、シェリーを別邸に連れて帰った時の事を思い出したようだ。

 あの時は確か、馬車の中で寝ていたシェリーを抱いて、クレアが部屋に連れて行ったんだったか。

 部屋で目を覚ましてたら、知らない場所にいたからだろう。


「嗅覚が鋭いから、レオ達は俺達人間とは違って、目で見るよりも匂いを嗅いで調べる事が多いんだ」


 リーザはともかく、レオやシェリーは目からの情報よりも匂いや音からの方を重視する。

 まぁ、犬の視力はあまり良くないらしいし、鋭い嗅覚を頼りにするのも当然なのかもしれないけど……シルバーフェンリルになってから、マルチーズの頃よりも視力は良くなっているっぽいが。

 服などの見た目を多少変わった人に対して、匂いを嗅いだり声を聞いたりしなくても、わかっているみたいだからな。

 主に、リーザに怖がられたのが原因で、髭を綺麗に剃ったエッケンハルトさんとか。


「そういえば以前……まだレオが小さかった頃だけど、恰好を変えて帰ったらレオに吠えられたっけなぁ……」 


 高校の文化祭だったか、ちょうど季節的にハロウィンと重なった事があって、仮装したまま家に帰ったらレオに思いっ切り吠えられた事があった。

 手を伸ばしたら歯を剥き出しにして、噛み付かれそうにもなったし……声を掛けてゆっくり近づいたら気付いたみたいだけど。

 あれはレオなりに知らない人が勝手に入ってきた! と頑張って追い出そうとしていたのかもしれない。

 人懐っこいけど、ちゃんと番犬してくれていたんだなぁ。

 

「ワフ!? ワウワフワフ!」

「あはは、あの時はわからなかったからって? まぁ、そうなんだろうけど、ちょっと傷付いたんだぞ?」


 その時の事を覚えていたのか、レオはあの時は仕方がなかった! と言うように鳴いて焦っていた。

 本当に傷付いたわけじゃないが、それでも吠えられて怒っていたのはちょっとショックだった。

 後から考えれば、仮装したままで不審者だったからレオでなくても警戒して当然だけど。

 ……あの時の仮装、何故か赤ずきんちゃんだったし……ただ服を着ただけの、男子高校生がする女装なんて完全な不審者以外の何物でもない。


 今思えば、家に帰るまでに通報されなかったのが不思議なくらいだ……。

 も、もちろん自分から望んでやったわけではない、と言い訳しておこう、誰に言い訳しているのかわからないけど。


「ワウゥ……」

「ふふふ、レオ様も間違った事があるのですね」

「今でこそ、シルバーフェンリルになったからか間違いや失敗は減ったけど、以前はよく失敗してたんだよ」

「ワフ、ワウゥ!」


 しょんぼりするレオを見て、微笑ましそうに笑うクレア。

 まだ屋敷内を見て回らないといけないので、ライラさんに案内されながらレオとの思い出と抗議する鳴き声を聞きながら移動。

 レオの失敗は色々ある……椅子の上に登ろうとしてジャンプ失敗とか、フローリングの廊下で走ろうとして足がから回っていたとか滑ったりとか。

 まぁ、フローリングは爪のせいで滑るから、レオの失敗という程ではないんだけど……後々、レオの行動範囲内では基本的にカーペットなどを敷くようにした。


 他にも、眠気に負けて食べている途中のご飯に顔を突っ込ませたとかもあるか。

 さすがに今すぐ全部を語り尽くせる時間はないけど、いくつかは話すとクレアもライラさんも楽しそうだった。

 リーザは、小さい頃のレオと言うのがあまり想像できなかったらしく、不思議そうにしていたけども。


「……こちらが、リーザお嬢様のお部屋になります」

「リーザの、部屋?」

「えぇ。以前も客室の一室に用意しておりましたが、こちらでも必要になるだろうと」


 俺の寝室から右隣の執務室、さらにその隣にリーザの部屋。

 中に入ってキョトンとしているリーザ……レオは早速とばかりに、失敗談を話された気分を変えようとしているのか、部屋のあちこちに鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めている。

 そういえば、別邸ではずっと俺の部屋で一緒にいたから忘れていたけど、一応リーザの部屋も用意してくれていたんだよな。

 結局使わなかったのは申し訳ない。


 ちなみにリーザの部屋は、別邸で使っていた客室に近い広さで、こちらも既にベッドなどの必要な家具は配置されていた。

 俺の寝室にあったような椅子と机はなかったけど、余裕はあるから必要なら買ってきて置けばいいか。

 気になるのは、左隣の執務室とは逆の右側の壁にある鏡台、そこには高さが違って背もたれのない丸い椅子が三つ程並んでいる事か……テーブルとソファーはあるのに、なぜあれだけ椅子があるのだろうか?

 いや、椅子は使用人さんや従業員さん達が使う以外にも、余裕をもって多めに買っていたんだけど。


「リーザ、部屋なんていらないよ? パパやママと一緒に入られたらそれだけでいいから」


 カクンと首を横に倒し、不思議そうにそういうリーザ。

 少しだけ寂しがっている様子に見えるのは、俺と別々にと考えているからだろうか?


「もちろん俺もレオは、これからもリーザと一緒にいるけど、自分の部屋は一応あった方がいいぞ? 使うかどうかはともかくとして」

「んー、そうなのかなぁ?」

「今はいいかもしれないけど、リーザがもっと大きくなった時とかな」


 リーザも女の子だからな……年齢はともかく、身体的にはティルラちゃんより女性と言える状態になっているみたいだし、ずっと俺と一緒にというわけにもいかないだろう。

 少しだけ、いや物凄く寂しい事だけど。


「リーザ様がお部屋を気に入る要素として、あちらをご覧下さい」

「んー? ドアがあるよ?」

「あれって、俺の部屋と執務室を繋げていたのと同じ?」


 俺の言葉を聞いても、まだちょっとだけ納得していない様子のリーザを見て、ライラさんがススっと右側の壁に移動。

 さらに手で示したのは、壁に溶け込むようにしてある扉……横の部屋と繋がっているって事だろう。

 あちらの部屋は確か……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る