第1369話 屋敷内の案内が始まりました



「「「「「レオ様、リーザお嬢様、おかえりなさいませ!!」」」」」

「ワフ!」

「わぁ~」


 続いて、俺とクレアの後ろから中へと入るレオとその背中に乗ったリーザが、全員から声を揃えて迎えられる。

 先に俺達が入ったからわかっていたのか、レオは特に驚く様子はなく力強く鳴くくらいだけど、リーザは面白そうに眼を輝かせて簡単の声を上げていた。


「はっはっは! タクミ殿は驚いたようだな。クレアは……そうでもないか」

「新しい屋敷に入る際の作法のようなものですから。エルミーネ達が先に行ったのでわかっていました」

「そ、そうなんだ……」


 驚いたのは俺だけで、クレアはやっぱりわかっていたらしい。

 詳しく聞くと、新しい家や屋敷に主人を迎えるための作法とか儀式みたいな事らしい。

 絶対必要というわけではないらしいけど、ライラさんを始めとした使用人さん達としても、大事な事だとか。

 それなら教えておいてと思ったが、まぁエッケンハルトさんが楽しそうに笑っているからいいか。


 何はともあれ、これからはここが俺……だけでなく、レオやリーザ、それにクレアや使用人さん達と暮らす、新しい場所だ。

 新鮮な気持ちでホールを見渡すと、なんとなく屋敷その物にも歓迎されているような気分になった。

 気のせいだろうけど、これも使用人さん達が迎えてくれたからかもしれない。

 そういう意味では、驚いたけど意味があったんだろうなと思う――。



 ――運び込んだ荷物、まだ荷馬車に積んである荷物などを運び込み、屋敷内を整えるため忙しなく動いてくれる使用人さん達。

 それとは別に、俺やクレア、レオとリーザは、屋敷の部屋へと案内される。

 エッケンハルトさんやユートさん達は、客間の方だ。

 新しい屋敷だから、まず先に屋敷の主人である俺やクレアを案内するのが優先らしい。


「タクミ様の寝室はこちらになります」


 俺の部屋と言われて案内されたのは、屋敷の二階。

 玄関を入った正面にある階段を上って、廊下を進んだ奥まった場所……位置的には屋敷の右側だ。

 部屋に入ると、ハインさんの雑貨屋で注文した家具が既に配置されていた。

 さすがにベッドは、シーツなどのベッドメイキングまでされていないけど。


「家具の配置など、設置はしておりますがご不便があればお申し付けください。また、お部屋の右隣がタクミ様の執務室となっております。部屋とも繋がっておりますので、直接そちらへ行く事もできます」

「あぁ、あれですね」


 模様替えをしたいなら、ライラさん達に頼めばいいわけか……まぁ、特にこだわりがあるわけじゃないからこのままでもいいんだけど。

 と思いつつ、ライラさんに示された方を見ると、人一人が通れる扉が隅にあった。

 扉と言っても、壁に溶け込んでいて扉そのものはあまり目立たないようになっているみたいだ。

 言われなければ、しばらく気付かなかったかもしれない……というか、予想以上に大きかった屋敷の中で、あまり大きくない扉は少しだけ俺を安心させてくれた。


 こじんまりとしているというか、日本でも見慣れたくらいの大きさだからだろう。

 ちなみに、部屋に入って真ん中に大きく鎮座するのがベッド、執務室に続くらしい扉のある方の壁際に机や椅子、それから棚などが配置されている。

 ベッドの左側には、向かい合うソファーの間にテーブルなどの応接セットっぽい物がある……基本的には、そちらを使う事になりそうだ。

 応接セットがある方にも棚があり、そこにはカップなどのお茶セットが入れられているのが見えた。


 大きな部屋は、ベッドが中央にあっても狭いという感覚は一切なく、家具の間も余裕を持ったスペースがあってレオも動き回れそうだな。

 さすがに、走ったりはできないだろうけど。

 広さは別邸で使わせてもらっていた客間の倍はあるか……正直、広すぎて落ち着けるかは疑問だけど、住めば都の言葉がある通りしばらくすれば慣れると思う、慣れるといいなぁ。


「左隣は、クレアお嬢様の寝室、執務室となります」

「え!?」

「少し恥ずかしい気もしますけど、タクミさんの近くにいられるのは嬉しいわ」


 俺とクレアさんの寝室、隣同士なのか……いやまぁ、一つ屋根の下だから隣だろうと離れていようとあまり関係ないのかもしれないけど。

 でも、広い屋敷で端から端まで行くのに時間がかかりそうな場所では、大きな影響があるかな?

 別邸では当然ながら離れていたのが、急に隣となって少し驚いたけど……いや、嬉しくないわけじゃないんだが、それでもドギマギしてしまうのは許して欲しい。


「……残念ながら、タクミ様の部屋とクレアお嬢様の部屋は、直接扉で繋がってはいないのですが」

「そこを残念がらないで下さい!」


 壁を見ながらほんのり頬を染めるクレアを見てか、セバスチャンさんやエッケンハルトさんのような事を言うライラさん。

 残念もなにも、男女の部屋が内部で繋がっているのは色々とまずいだろうと思う……


「……そうよね、それはまだ早いわよね」

「まだって言うのはちょっと……」


 頬に手を当てて、何やら妙な納得をするクレア。

 いや、まだってこれからも部屋が繋がる事は……もしかして、段階が進めばそういう事もあるのだろうか?

 段階というのが何を意味しているのか、自分で考えてよくわからないが。


「ワゥ……スンスン、スンスン」

「レオ様?」


 部屋を見渡す俺達とは別に、レオがのっそりと部屋の中を歩いて回りつつ、床やベッド、壁など色んな場所に鼻を近付けて匂いを嗅ぐ。


「スンスン……ワフン」

「んー、スンスン……リーザにはちょっとわかんないけど、なんとなく安心する感じがするかな? 多分だけど」


 あらゆる箇所の匂いを嗅いで、何やら納得した様子で頷くレオ。

 レオの真似をするように、リーザも匂いを嗅いでいたけど首を傾げている……さすがにはっきりとはわからなかったみたいだ。

 まぁ、リーザは狐耳の聴力がいいのは間違いないと思うけど、鼻は人間と同じっぽいからな。


「ははは、レオも気に入ったみたいだ。リーザはまぁ、これから慣れればってところかな」

「急に匂いを嗅いで、レオ様はどうしたのでしょうか?」


 レオやリーザの様子に笑う俺に対し、不思議そうにしているクレアから聞かれる。

 ライラさんも首を傾げていた――。



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