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第1361話 交通事故には注意しなければいけませんでした
第1361話 交通事故には注意しなければいけませんでした
「クレア―! ティルラ―! タクミ殿ー! レオ様ー!」
こちらに向かうエッケンハルトさん、お互いの顔もはっきり見える程の距離になり、叫んでいた声もはっきり聞こえるようになった。
クレア達はまだしも、俺やレオの事も呼んでいたのか。
「お父様ったら……はぁ」
「クレア―! ティルラ―! タクミ殿ー! レオ様ー!」
顔に手を当てて溜め息を吐くクレア。
エッケンハルトさんはまだ大きく叫んで呼びかけている……これ、答えてあげなきゃ目の前に来るまで続くんじゃないか?
あと、俺達の事はもう見えて認識しているだろうけど、残念ながらティルラちゃんはラーレと一緒に空の上なんだけど……。
「クレア―! ティルラ―! タクミ殿ー! レオ様ー!」
「もう……お父さ……!」
「キィー!」
「父様ー!……あれ?」
「げぶはっ!!」
「グルゥ!?」
何度目かわからないエッケンハルトさんからの呼びかけ、それに仕方なく答えようと……いや、叱ろうとして声を上げたクレアの言葉
それを途中で遮り、ラーレの鳴き声とティルラちゃんの声が割って入ってきた。
と思った瞬間、急降下したラーレが横からエッケンハルトさんに激突。
勢い良く跳ね飛ばされたエッケンハルトさんは、お手本のような軌道と声を残し、俺達の斜め前を走っていたフェリーにぶつかった。
そのまま、フェリーが驚いて急ブレーキをかけて止まり、後ろに連れていたフェンリル達も全てが止まる。
ズザー、というフェンリル達の肉球が少しだけ心配になる程の、地面を滑る音の合唱が響き、沈黙。
エッケンハルトさんは、飛ばされた格好のままフェリーの体に張り付いていた。
一連の流れの中で、他の馬車も御者を務める使用人さん達が止め、護衛さんも馬を止めてどうしたらいいのか、という雰囲気が流れる。
コントとか、ギャグ漫画の一ページを見ているような気分だ……。
「……ワフ?」
「あれ、父様?」
「キィ?」
首を傾げるレオ。
同じく首を傾げて不思議そうな声を上げるのは、地面に降りたラーレとその背中に乗るティルラちゃん……仲がいいなぁ。
「はぁ……レオ様、申し訳ありません。一旦下ろしてもらえますか?」
「ワフ」
「あ、リーザもー」
溜め息を吐いて、レオに伏せてもらい背中から降りるクレアは、エッケンハルトさんの所に……ではなく、ラーレとティルラちゃんの所へ向かった。
リーザも一緒について行ったけど、そっちにはいかない方がいいと思うけどなぁ。
妙な沈黙が訪れているせいで、止められなかった俺の不甲斐なさを許してくれリーザ。
「えーっと……大丈夫かな? レオ、エッケンハルトさんとフェリーの所に向かってくれ。一応、ロエを用意しておこう……」
「ワウ」
とりあえず俺は、エッケンハルトさんの様子を見るためフェリーのいる方へ。
跳ね飛ばしたのがラーレで、飛ばされて当たったのがフェリーだから、両方の柔らかな羽毛と毛に受け止められているので大丈夫だとは思うが……。
念のため、荷物の中から持って来ていたロエを探しておこう。
「ティルラ! ラーレに乗って横から飛んで来たら危ないでしょう! お父様、弾き飛ばされたのよ!? まぁ、お父様なら大丈夫でしょうけど……それでも危険なのよ!?」
「ぴゃっ!?」
「ご、ごめんなさい、姉様」
「キィ……」
後ろから、クレアの怒号とリーザの驚く声。
さらにティルラちゃんとラーレの謝る声が聞こえてくる。
クレア……危険だって事を伝えたいんだろうけど、エッケンハルトさんだから大丈夫はちょっとかわいそうな気がするぞ?
確かに丈夫そうな人だし、今もフェリーに張り付いて落ちない様子を見ていると、心配しなくてもいい気はして来るけども。
「あのー、エッケンハルトさん? だ、大丈夫ですか?」
「ワフゥ?」
「グルゥ……」
エッケンハルトさんの近くまで来て、レオから降りつつそっと声を掛けてみる。
レオも、心配しているようでしてないような……微妙な鳴き声で問いかけていた。
フェリーは、どうしたらいいのか困っている様子だな。
まぁ、突然人間が飛んで来てその後もずっと張り付いていたら、困るのも当然か……むしろ、何かの攻撃と勘違いして反撃しなかったのを褒めてやりたいくらいだ。
「ぬ、この声はタクミ殿とレオ様! うむ、大丈夫だ。少し体の左側が痛むくらいだな」
「さ、さいですか……」
「ワッフゥ……」
俺達の声に反応し、張り付いたまま以前と変わらず剛毅な声を出すエッケンハルトさん。
一瞬で数十メートルは跳ね飛ばされたのに、左側が痛む程度で済むって……本当に丈夫だなぁ、鍛えているからだろうか?
「くふっ! はっはっはっは! あーっはっはっは!」
突如あたりに響く笑い声……我慢しきれなかったという風に笑い出したけど、この状況で笑えるのは一人しかいない。
「あ、ユートさん……」
状況もそうだし、エッケンハルトさん相手にこれだけ爆笑できるのは、ユートさんしかいないよなぁ。
「あっはっはっは! あっはっはっは! くぅー……お腹が……くふ、あははははは!!」
笑いつつお腹を抑え、俺達の方へ寄ってきたユートさん……フェンに乗っていたからな、一番近くで見ていたんだろう。
笑い過ぎてお腹が痛むようだけど、まさに腹を抱えて笑うといった姿にしか見えない。
「ぬぬ、この笑い声は間違いなく閣下! 宿を抜け出して、先にタクミ殿達に会いに行ったと聞いた時は、追いかけるべきかと悩みましたぞ! 他の者達に止められましたがっ!」
「あはははは! そうなんだ! まぁ、僕と違ってハルトは目立つからね、くふっ、護衛も付けずにふらふらと……くっふっ……街になんていけない、ぷっ! ぶはははは! よね! ひーっ! だめだ、止められない!」
ユートさんの声だとわかっても、フェリーに張り付いているのを止めないエッケンハルトさん。
いい加減にしないと、怖い目でクレアがこっちを見ているんだけどなぁ……。
それはともかく、笑い袋と化したユートさんをどうしたらいいのか。
右手でお腹を押さえて、左手で地面に手を突いているユートさんを、俺は止められそうにない……というか、立てなくなっているんじゃないよと――。
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