第1338話 移動を助けてくれているレオ達を労いました



「ほぉらレオ、こんな感じか~?」

「ワフ~」

「いいなぁママ。次は私だよパパ!」

「ははは、わかっているって。ちょっと待っててな~」


 ルグレッタさんからの思わぬ相談を切り抜け、フェンリルや馬の休憩時間中、荷物からブラシを取り出した俺は、レオのブラッシングをしている。

 本当は汚れを落としてからの方がいいんだけど、乗って走っている時に毛が絡まっているのを発見したからな。

 乗り心地は変わらないけど、レオを労う意味も込めてブラッシングする事にした。


 馬用くらいある大きなブラシで、レオの毛を頭から背中、お尻に向けて優しくブラッシングしてやると、レオは気持ち良さそうな声を漏らす。

 実際に気持ちいいんだろう。

 それを見たリーザは、真似をして俺と同じくレオのブラッシングをしたがるのかと思いきや、俺に背中を向けて尻尾をフリフリ、自分もやって欲しいとおねだりした。

 成る程、気持ち良さそうなレオを見ていたら、自分もと思ったんだろうな……耳も尻尾も期待するように忙しなく動いている。


「ワウ~、ワフ~」

「本当に気持ち良さそうですね。これは私達にもできるのでしょうか?」

「できますけど……嫌がられなければ、ですかね? あと、フェンリルは数が多いので大変だと思いますよ?」

「頑張ります! それに、エメラダさんもいますし、子供達もいますから」

「ははは、そうですか。頑張ってください」

「はい!」


 気持ち良さそうなレオの声を聞いて、様子を見ていたチタさん。

 フェンリル達にもという事で、俺がブラッシングするのを手本にしたいと見ていたわけだけど……数が多いから全てをこの休憩中にできないだろう。

 けどまぁ、順番にやるのもいいし、子供達にもいい経験になるかもしれない。

 早速とばかりに、馬用ブラシを取りに行くチタさんを見送った。


「キャゥ~、キャゥキャゥ~」

「ふふふ、気持ちいいのね」

「キャゥ。キュウ~」

「あら、シェリーはお腹の方がいいの? わかったわ」


 俺とは別の場所からは、シェリーの気持ち良さそうな可愛らしい声が響く。

 そちらの方では、人間用よりも少し小さめのブラシを持ったクレアが、シェリーのブラッシングをしていた。

 屋敷でもやっていたんだろう、手慣れた様子だから心配はなさそうだ……へそ天になったシェリーが、おねだりとばかりに、クイクイと前足を動かしていたし。


「よし、それじゃあとは……ゲルダさん、ミリナちゃん。レオをよろしく頼みます」

「はい!」

「畏まりました、師匠!」


 ある程度レオの毛をブラッシングしてやった後は、チタさんと同じく様子を見ていたゲルダさんやミリナちゃんと交代。

 体の大きなレオは、俺一人じゃ全身のブラッシングが大変だからだけど、リーザからもおねだりされたからな。


「あまり力を入れずに……そうそう。お風呂に入れて洗う時と同じ感じで……」

「ワウ~…ワフ!?」

「ははは、レオ。お風呂には入れないから、今はブラッシングだけだよ」

「ワフゥ……」


 お風呂、というワードに気持ち良さそうな声を出していたレオが反応。

 体をビクッとさせていたけど、笑いかけて今はそうじゃないと教えてやる。

 相変わらずの風呂嫌いのせいで、ついつい反応してしまったんだろう……最近は以前ほど嫌がらなくなっては来ているけど、突然言われたら驚くものなのかもしれない。


「んっ……」

「あ、ミリナちゃん。ブラシが引っかかったら力を入れるんじゃなくて、何度も撫でるようにして、絡まった毛を梳かしてやるといいよ。自分の髪を梳かす時と同じようにね」

「んー……ちょっと加減が難しいです。私の髪が絡まった時は、痛いのを我慢してやっていましたから」

「……それは、髪や頭皮が痛んじゃう可能性があるから、今度から気を付けようね」


 ミリナちゃん、自分の髪に対しては結構力業だったんだ。

 初めて孤児院で会った時は、病が治った直後だったから髪の毛もボサボサだったけど、今はちゃんと身だしなみが整っているのに。

 痛いのを我慢して梳かすのは、あまりお勧めしないので気を付けるように言っておいた。


「あっ!」

「ちょっとゲルダちゃん、痛いのよう!」

「ご、ごめん。フェヤリネッテちゃん」

「……ブラッシングしているのはわかっているのに、まだレオの毛の中にいるフェヤリネッテが悪いんだろうに」


 ゲルダさんの方は何度もレオを風呂に入れた事もあるし、その後も担当してくれていたので滞りなく……と思っていたら、ブラシが毛の中に潜んでいたフェヤリネッテにぶつかったらしい。

 毛を梳かしているのに、気にせず潜んだままだったフェヤリネッテが悪いなこれは……ブラッシング開始前に、一応声をかけておいたし。


「あ、ちょ、ま……絡まったのよう! 抜けられないのよう!」

「た、大変! すぐに解くから、ちょ、ちょっとおとなしくしてフェヤリネッテちゃん!」

「いた、痛いのよう! あまり引っ張らないでゲルダちゃん!」

「ワフゥ~」


 モコモコとした毛を持つフェヤリネッテに、レオの毛が絡まったらしく、自力では抜け出せなくなったようだ。 

 ブラシが当たった時、ついでに巻き込んでしまったんだろう。

 慌てているフェヤリネッテとゲルダさんを余所に、ミリナちゃんがコツを掴んだのか丁寧にブラッシングするのに、声を漏らすレオ。

 レオの毛も引っ張られているけど、あまり気にならないみたいだ。

 結構荒っぽくしても大丈夫なのかもしれない……まぁ、気持ち良さは損なわれそうだから、丁寧にブラッシングするに越した事はないんだろうけど。


「タクミ様、こちらをどうぞ」

「ありがとうございます、ライラさん。――さ、リーザ。尻尾のブラッシングをやるぞー!」

「うん、パパお願い!」


 ライラさんが持って来てくれた、クレアがシェリーに使っているのと同じブラシを受け取り、リーザにの尻尾へ。

 待ち遠しかったのか、声を掛けるとブンブン上下左右に振られる二本の尻尾。


「こらこら、あんまり尻尾を動かしていたらブラッシングできないだろう?」

「ごめんなさい……つい」

「まぁ、こういうのは勝手に動いてしまうものなのかもしれないけど、もう少し落ち着いてな?」

「はーい!」


 忙しなく動いたままだと、落ち着いてブラッシングができない。

 レオも気持ち良さそうにしながら、尻尾の動きは緩やかだから、ある程度動き過ぎないようにしているんだろう……それを真似て欲しいところだ――。



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