第1337話 あくまで参考意見としました



「苦しい時、辛い時に一緒にいて分かち合う事で、苦しみや辛さが半分に。逆に嬉しい時や楽しい時は、一緒に喜んでくれる事で倍になるとか、そんな感じのつもりだったんです。まぁ、嬉しい時はともかく、苦しみや辛さを押し付けるようにも感じるかもしれませんけど」


 見方によっては、そう感じる人もいる……のかな?

 わからないけど、一緒にいて苦楽を共にしてくれる人であれば、その先もずっと一緒にいたいと思う気持ちが強くなるんじゃないかなって。

 ……結婚どころか、これまでまともに女性と付き合う事がほとんどなく、しかも今クレアと付き合い始めたばかりなのにそう考えるのは、理想を語っているように思われるかもしれないけど。

 あと、鈍感なユートさんに気持ちを気付かせる……というのとは少し趣旨がズレて来てもいる気がするな。


「一緒に……辛い事も楽しい事も分かち合って。タクミさんと一緒に……」


 両手を頬に当てて、何やらぼんやりし始めたクレア。


「おーい、クレア? 戻って来てー」

「はっ! そんな、私はタクミさんと二人で仲睦まじく過ごしている未来像なんて……想像していませんヨ?」


 俺が支えてはいるけど、ルグレッタさんみたいなバランス感覚がないと、落ちる危険があるので正気に戻ってもらうために声を掛ける。

 ハッと目を大きく開いたクレアが、俺を見て明後日の方向を見て……視線をさまよわせながら、弁解する。

 けど、ほとんど内容を言ってしまっているし、語尾がいつもと違う。

 途中で誤魔化すのを諦めたのかな?


「語尾が怪しくなっているから。ここ最近、クレアがよくそうしているのを見ているから、何を考えていたのかはなんとなくわかるけどね。ま、まぁ、そういった事はこれからのお楽しみというか、ゆっくりやって行こう」

「は、はい……」


 照れながらも、クレアにそういうと恥ずかしそうにしながらも笑ってくれる。

 それはともかく、ここ最近の事でわかったけど……クレアって結構想像力や妄想力? が豊かなんだなぁ。

 結構誰の前でもお構いなしに、想像と妄想を羽ばたかせていってしまうのを何度も見た。

 俺の前でだけならともかく、ぼんやりしていると危険な事もあるかもしれないから、あまり想像力を刺激しないように気を付けよう……できるかはともかく、気を付けるくらいはしておかないとな。


「な、成る程……嫌な事は分かち合って半分に、良い事は一緒に喜んで倍に……わかる気がします」


 俺とクレアのやり取りを、どこか羨ましそうに見ていたルグレッタさんが、神妙に頷く。

 今のは、あまり苦楽を共にとは違う気がするけど……仲が良く見えたからかもしれない。


「あくまで今のは俺の意見で……クレア達のもそうですけど、ユ……じゃない、その知人の想い人は別の考えを持っているかもしれません」

「そ、そうなのですか?」

「女性にも、男性にこうして欲しいとか、好みがあると思うんですけど、それは男性でも同じですから」


 誰かの意見を参考にするのはいいと思うけど、それが正しいと信じ込むのは危ない。

 ユートさんが俺とは違う意見の持ち主だったら、好みが全然違ったらそれこそ逆効果になりかねないからなぁ。


「な、成る程……」

「わ、私はタクミさんの考えが、凄く心に響いたので……そうなれるように頑張りたい、です……はい」


 クレアは心に響いたというより、妄想力を刺激されたのではないだろうか。

 まぁ、その気持ちは俺も嬉しいし、こちらもクレアから嫌われないよう努力するつもりだけど。


「……そろそろ、昼食のための休憩みたいですね」

「あ、そのようですね」


 先頭を走る馬達が、次々と街道予定の場所から離れ、森に近い場所へと方向を変え始めた。

 昼食のための準備や馬の休憩のためだろう。

 フェンリル達は大丈夫でもお腹は減るし、馬も疲れてしまうから、適度に休憩するためその場合は森の近くに行く事になっている。

 とは言っても、人が通る可能性のある街道から離れるのが目的で、森には入らないしすぐ近くという程でもないんだけど。


「とりあえずルグレッタさんは、今の話を一応参考にする程度にしておいて下さい。それとは別に、俺からも色々と意見を収集しておきますから。特に一部の人からは念入りに」

「く、くれぐれも私の事は……」

「もちろんです。ルグレッタさんの知人の事でしょうけど、ルグレッタさんの名前は出さないように気を付けますから」

「は、そうでした。はい、知人、知り合いの事ですね。よろしくお願いします」


 言外に、ユートさんから話を聞くと伝えたつもりだけど、伝わっただろうか? 伝わりにくい言い方だったかもしれない。

 けど、ユートさんの名前を出すと、またルグレッタさんが慌て始めちゃいけないからな……これから昼食で休憩だし、ユートさんとルグレッタさんも顔を合わせるわけで。

 直前に慌てられたら、ユートさんも変に思うだろう。

 とりあえず、知人の事とルグレッタさんに関する事だとは出さないと約束した。


 ただ、ユートさんから話しを聞くというのはクレアにはちゃんと伝わったようで、また相手をしてもらえないと少し拗ねてしまった。

 なので、話をするなら夜に寝る直前にする事とした。

 まぁその方が、ユートさんをルグレッタさんが見張らずにゆっくり休めそうでもあるからな。


「では、ルグレッタさんはライラやジェーン、それから……エルミーネと一緒に、私と同じテントですね」

「え、私がですか?」

「えぇ。私ももっとそういうはお話をしたいですし……ジェーンやエルミーネからは、経験豊富な話が効けそうですよ? ね、タクミさん?」

「まぁ、ジェーンさんはアルフレットさんと結婚しているわけだし、そうだね」

「ぜ、是非ともお聞かせ願いたく!」


 俺が男子会を寝る前に開こうとしている事からか、クレアの方はクレアの方で女子会を開く事にしたようだ。

 ルグレッタさんは女子会の誘いを、最初は戸惑っていようだけど、ジェーンさんという既婚者が参加すると聞いて乗り気になった様子。

 男同士だと盛り上がっても、長く続かないイメージがあるけど、女子会はなぁ。

 内容が内容だけに、盛り上がり過ぎて今夜は賑やかになりそうだ……明日、クレア達が寝不足にならないといいけど――。



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