第1331話 昨夜の事を褒めました



「グル、グルルゥ」

「ワフ。ワッフワフ!」

「わー、ママの尻尾がすごーい!」

「おぉ~、すっごく揺れるのよう……!」

「レオ、無理を言っちゃだめだぞ? まぁ今回は朝食後だから、フェリーがお腹いっぱいで助かったな」


 首を振るフェリーに、再び尻尾をブンブン振って喜ぶレオ。

 後ろにいたリーザに先っぽが直撃していた……痛いとかじゃなく楽しそうだからいいか。

 フェヤリネッテに至っては、その尻尾にくっ付いて一緒に振られていた、酔ったりしないのかな?

 ともあれ、フェリーへの圧のようなものを注意しつつ、ソーセージを一つライラさんに預け、開いた手で撫でて落ち着かせる。


「ワウ!」


 レオからはものすごくいい返事が返ってきた。


「よしよし、ちょっと遠慮して欲しそうにしていたのはあれだけど、フェリーにも聞いて偉かったなー」

「ワウー、ワッフ。ワフ?」

「おっと、そうだな。そろそろ……って、レオも朝食を食べたばかりだろう? お腹は大丈夫なのか?」


 レオを褒めつつ、話しばかりでもせっかくヘレーナさんが温めてくれたソーセージがさめてはいけないと気付く。

 ただお腹を壊したり、この後の移動に差支えがないかは聞いておかないとな。


「ワウ、ワフワフ、ワウー」


 ソーセージは別腹とか、そのような感じの事を言っているようだ。

 いや、あれは甘い物ん対してで……そもそも、本当に別腹なわけじゃないし、牛じゃないんだから本当にに胃がいくつもあったりしないだろうに。

 とにかくソーセージならどれだけでも食べられる、って伝えたいみたいだな。

 まぁ……多分大丈夫そうか。


「そうか……まぁ、レオがそういうなら。お腹が痛くなったりはしないな? 無理はするなよ?」

「ワウン!」

「それじゃ、昨夜はユートさんの邪魔をしてくれてありがとうな。おかげで、レオもそうだしクレア達とも楽しく過ごせたよ。ほら」

「ワッフ! ガフガフ……!」


 念を押して確認して大きく頷くレオを見てから、手に持っていた大きなソーセージを食べさせてやる。

 と言っても、金串を刺したままだと危ないので、褒めながら別で持って来ていたお皿に入れてだけど。

 ……最初からお皿に載せて持ってきたら良かったと、今更気付いたのは内緒だ。


「レオ様を褒めると言っていたのは、そのような事があったのですか。クレアお嬢様と一緒に過ごされていたのは知っていましたが……」

「ははは、朝ルグレッタさんに吊るされていたのは、そのせいだったみたいです。まぁそんなわけで、俺やクレアにも気付かれずにユートさんを阻止してくれたレオを褒めておこうと思って」


 もしユートさんが乱入して来たら、落ち着いて話ができなかった以外にもリーザやシェリーが起こされていただろうからな。

 まぁリーザは、話しの最後に起きてしまったが。


「ガフガブワウガブブ……!!」

「ママの勢いすごい……リーザも、あんな風にしたいなぁ」

「いや、あれは真似しちゃだめだぞ? できればよく噛んで飲み込まないと、体に悪いからな」


 一分も経っていないくらいなのに、もう半分くらい食べ進めているレオ。

 その凄まじい勢いを見て、感心どころか自分もと言うリーザにはできれば真似しないで欲しい。

 獣人だから人間とは違う部分はあるかもしれないけど、さすがに食べ物の消化に関しては大きな違いはないと思うし。

 歯や顎のためにも、よく噛んで食べた方がいいと思う……レオは特別として。


「ワフゥ……」

「お、満足したかレオ?」


 そうしているうちに、ソーセージを一つ食べ終わったレオ、本当に早いな。

 満足そうな鳴き声を漏らしていたので、お腹いっぱいになったかな?


「ワウ、ワッフワッフ!」

「まだまだってか。ふむふむ……」


 一つ目が食べ終わったレオの視線は、先程渡したライラさんへと注がれて外れない。

 まだ食べられるようだし、あっちも食べてもらうか……もしレオが満足なら、残った方のソーセージはフェリーにあげるか他のフェンリル達で食べられそうなのに、あげようかと思っていたけど。


「持たせてしまってすみません、ライラさん」

「いえ」


 持ってもらっていたソーセージを受け取り、レオが食べ終わったお皿に金串を外して載せる。


「ワーフ……」

「レオ、待て!」

「ワフ!?」


 一つ目程ではないけど、大きく口を開けてお皿のソーセージに食いつこうとするレオに手をかざし、待てをする。

 驚いて固まるレオ……よしよし、ちゃんと止まったな。

 以前、ラクトスの街で屋台で売られている食べ物に飛びつかないよう、エッケンハルトさんの前で待てを覚えさせた甲斐があったな。

 シェリーの方も一緒にやったけど、あっちは覚えているだろうか?


「そのまま、待てだぞレオ……」

「ワ、ワウ……」

「ママ、足も固まってるー。面白ーい!」


レオに向ける手を二つに増やし、我慢させる。

 驚いた拍子なのか、右前足が口の高さまで上がってピタリと止まっているのは、リーザも言っているように面白い。

 だるまさんが転んだをやっている気分になるな、別に動いてもいいんだけど。


「グルゥ?」

「尻尾が動かなくなったのよう……」


 フェリーは何をしているのか疑問なようで首を傾げ、レオの尻尾付近をフワフワと飛んでいたフェヤリネッテは、つまらなそうに呟いた。


「よしよし……そのままそのまま……」


 両手をかざしたまま後ろに下がって、レオと地面に置いたお皿から少しずつ距離を離す。


「リーザ、ちょっとこっちに。ライラさんも少し離れていて下さい」

「うん!」

「畏まりました」

「ワ、ワウゥ……」


 リーザを呼んで、ライラさんもレオから離す。

 段々と我慢の限界が近付いて来たのか、情けない鳴き声を漏らすレオ。

 ちゃんと我慢してて偉いぞーレオ。


「よ……じゃない。レオ、ジャンプだ!」


 よし! と言ったら、食べる許可のコマンドになってしまうので、言いかけて途中でやめ、代わりにジャンプを指示してみる。

 コマンドとしては教えていないけど、ちょっと変化させてどういう反応をするかを試してみたかった。

 こういう時、短いコマンドを教え込むのと違って、ちゃんと言葉が通じるって楽だなぁ。

 実際に動けるかはともかくだけどな――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る