第1330話 遠くからでもレオは好物の匂いがわかるようでした



「ワッフー!!」

「パパー!」

「うぉ!? レオ、リーザ!?」


 野営地から少し森に向けて歩き、フェンリル達が集まって待機している場所に少し近付いたあたりで、レオが鳴き声を上げて現れた。

 正確には、遠くからすごい勢いで走ってきたんだけど……レオが見えたと思ったらもう目の前にいたくらいの感覚で現れた。

 背中にはリーザを乗せている、というかしがみ付いているという方が近いか。


「ハッハッハッハ……! ワフ、ワフッ!」


 俺の正面でお座りし、舌を出してパンティングしつつ口角を上げて目を細め、尻尾をブンブン振っている。

 しがみ付いていたリーザが背中からずり落ちているけど……ちゃんと足を地面に付けて立ったから、大丈夫そうだ。


「もしかしなくても、これか?」

「ワウー!」

「ママ嬉しそー」


 持っているレオ用ソーセージを示すと、空に向かって大きめに吠えた。

 ……かなり距離があったはずで、匂いなんて早々届きそうになかったんだけど……さすがレオと言うべきか?

 犬の嗅覚は、嗅ぐ対象によっては一億倍とも言われているが、距離は数メートル程度のはずなのに。

 まぁ、シルバーフェンリルになった事で、遠くでも嗅ぎ分けられるようになったのかもな、嗅覚そのものも強化されていそうだし。


「あら? フェリーもこちらに向かっていますね?」

「そうみたいですね。もしかしてフェリーも匂いを嗅ぎつけたのかな……」

「ワフゥ……?」


 一緒にいたライラさんの言葉に、レオの向こう側を見てみると、森の方からのんびりと駆けて来るフェリーが見えた。

 レオは不満そうな声を漏らして……表情も不満そうだな、自分の取り分が減るって思ったのだろうか。

 それにしてもライラさん、パッと見は似ている他のフェンリルとフェリーの見分けが付くんだな、他の使用人さんもだけど、フェリーは長く屋敷にいて皆と接している機会が多いからかも。


 ちなみに、ユートさんとルグレッタさん、孤児院からのメンティアちゃん達やラクトスで合流した、ガラグリオさん達などは、接する機会が少なくてまだ見分けられないらしい。

 単純に慣れの問題っぽいな。


「グルゥ……」

「ちょっと、置いて行かないでよう!」

「あれ、フェヤリネッテ?」

「ワフ?」


 少し待って、合流したフェリーの頭にはモコモコした物体に手足と顔が生えた妖精、フェヤリネッテがくっ付いていた。

 レオと一緒にその姿を見て首を傾げた。

 何やら、レオに対して怒っているようだけど?


「いきなりレオ様が走り出して驚いたのよう……子供達と楽しく遊んでいたのに、一体なんなのよう?」

「グルゥ、グルルゥ?」

「ワ、ワフ……」


 孤児院の子供達は、フェンリル達やレオと遊んでいたのか。

 レオの前にふわりと浮かんで、抗議するように言うフェヤリネッテ。

 フェリーの方は、一体何があったのかと聞いているようだが、レオはそっぽを向いてとぼけている様子……ソーセージを取られたくないから、話したくないって感じだな。

 俺が手に持っていて目立つから、すぐバレるのに……。


「フェヤリネッテを連れて来てくれたんだね、フェリーよしよし」

「グルルゥ。グル、グルル」

「私がお願いしたのよう。遠かったのよう。まったくレオ様は……」

「ワ、ワフゥ……」


 褒めるリーザに、嬉しそうに尻尾を振りながらも何やら言っているフェリー……通訳とフェヤリネッテの口ぶりから、大体状況がわかった。

 リーザは最初から背中に乗っていたらしいけど、フェヤリネッテはいつもレオの毛の中に紛れているのが、子供達と遊んでいて離れていたらしい。

 その時レオがソーセージを匂いで察知して、急にこちらに走り出したために置いて行かれたと。

 それなら子供達と一緒にまだ遊んでいれば……と思ったけど、レオの毛に紛れるのが最近のアイデンティティになっていると主張していた。


 レオの毛が格別気持ちいいから、いつでも潜り込めるようにしておきたいのだとか……それはアイデンティティなのだろうか?。

 というか、フェヤリネッテは妖精というだけで十分アイデンティティが保たれているのに。

 俺とクレアの事を観察すると言っておきながら、実はレオの毛に包まれるのが一番の目的じゃなかろうかと……。

 レオの毛が気持ちいいってのには同意だけど。


 まぁとにかく、フェリーはフェヤリネッテを連れてきただけで、ソーセージの匂いを嗅ぎつけたわけじゃなかったようだ。

 あの距離で察知できるレオは、さすがシルバーフェンリルと言うべきか、さすが好物と言うべきか……。

 ちなみに時折、ゲルダさんとフェヤリネッテが仲良く話しているのを何度か見かけているので、そちらはそちらでわだかまりなく過ごせているようだ。


「スンスン……グルゥ?」

「美味しそうな匂いがするけど、ハンバーグじゃないのかってー」

「ははは、フェリーは相変わらずハンバーグが好きだなぁ。すまないけど、今回はレオを褒めようと思ったから、ソーセージなんだ。ハンバーグもレオは好きだけど、やっぱりレオと言ったらこれだからな」


 鼻を鳴らして、俺の持っているソーセージの匂いを嗅ぐフェリー。

 何度か屋敷で食べていたし、レオが食べるところも見ているから、ソーセージ自体は知っているけど興味としてはハンバーグの方がやっぱり強いみたいだ。


「グルゥ……」

「そんな残念そうにしなくても……ハンバーグは作るのに少し時間がかかるからなぁ」


 作る時間だけならソーセージの方が少しかかりそうだけど、今は移動中。

 保存に適したソーセージを持って来ているだけで、ハンバーグは仕込んでいないようだ。

 まぁ、フェンリル達のおかげで食糧にも余裕が出たから、お肉が余っているようならハンバーグにするのもいいかもしれないな……後でヘレーナさんに頼んでおくか。

 リーザも楽しんで手伝ってくれそうだし。


 今回はレオにだけど、フェリー含めてフェンリル達にもご褒美は上げないとな。

 荷物を一部とはいえ運んでもらっているし。


「……ワウゥ?」


 ハンバーグに対する並々ならぬフェリーの興味はともかく、仕方なさそうに、残念そうにしながらもフェリーに問いかけたレオ。

 ちょっとだけ、断って! と願っているような雰囲気というか圧のようなものを感じる。

 けど、ちゃんと自分だけで独占しようとせず、聞くのは偉いな――。



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