第1317話 ギフトとお酒の関係を聞きました



「お酒を飲んだら体内でアルコールが吸収されて、分解されて……みたいな事は、タクミ君もわかると思うんだけど?」

「まぁそれくらいは、えっと……」


 お酒に含まれるアルコールが、胃や小腸で吸収されて肝臓で分解される。

 その経過で、血中にアルコールが移行して濃度によって酔いなど体調に変化が起こる……だったはず。

 本か何かで読んだ、誰かから聞いたんだったかな? そんな知識を思い出しながら、ユートさんに話す。


「……いや、そこまで専門的というか、詳しく確かめるために聞いたんじゃないんだけど」


 何故か若干引き気味のユートさん。

 聞かれたから、知っている限りで答えたのに……解せぬ。

 って、俺もユートさんに引きずられて、ちょっとおかしなテンションになって来ているのかもしれない。

 エッケンハルトさんやユートさんと話していると、頭の中で余計な事を考える癖がついているのかもしれない。


「とにかく、そのアルコールがね、吸収……はされているんだろうけど、酔う作用になる前にギフトを使うための力になるんだよ」

「アルコールがギフトの力に……?」


 それはえっと、血中に混ざる前にアルコールが何かに変換されるとかそういう?

 いや、血液に混じって全身を巡る過程でギフトの力に分解されて行くとか?

 ……不思議能力だから、そういう事もあると言われたらそうなんだろうな、という感想しか出ないな。


「僕もね、最初はギフトってなんの力が使われているんだろう? って疑問だったんだ。それで、お酒を飲みながらギフト……という僕の場合は魔法だけど、使い続けていたらあら不思議! いつもならぶっ倒れていてもおかしくないくらい使っても、一切その気配はなかったんだ。その後も、同じようにお酒を飲んでギフトを使ってとか、その逆でも同じ事があってね」

「何度も試した結果って事ですね」

「うん。僕以外にも、ギフトを持っている人と会った時に、同じようにお酒を飲んでもらってギフトを使って試しもしたから、間違いないよ。僕だけじゃなく、皆同じ結論だったし僕に会う前からその答えに辿り着いていた人もいた」



 ちゃんとした試行回数を経ての結論ってわけか。

 なら、本当かどうかの真偽を確かめるまでもなく、真実なんだろう。

 適当な発言をするユートさんでも、ギフトに関してここで嘘を言う理由はないからな。

 それに実際、初めてランジ村のワインを飲んだ時は、日本にいた頃の俺なら確実に酔うどころか、エンジェルフォールしていただろう量を飲んでもなんともなかったわけで……二日酔いとも無縁だ。


「酔わないってのは、いい事か悪い事か……人によって考えは別れるところだけど、とにかくそういう事。なんでそうなるのかは、さすがにわからないけどね」

「俺にとってはいい事かな。悪酔いする事が多くて、ランジ村のワインを飲むまでお酒自体があまり好きじゃなかったから。まぁ、飲み方にも原因があるとは思うけど……日本にいた頃は、上司に無理矢理ビールを延々と飲まされたり、余ったお酒をちゃんぽんでのまされてたりとか……今思い出しても、悪酔いしそうだ……」


 記憶をなくす程の事がなかっただけで、酔った時にいい思い出はない。

 気分よく酔う、という経験がなかったんだから当然だけど、俺は酔えない事の方が利点を感じる。

 職場で上司に付き合わされた飲み会は、今でも思い出したくない記憶だ……色々と汚したし、匂いがきつかったからかレオには吠えられたし。


「それは……確かにお酒を飲みたくなくなるね。僕は大学でだったけど、先輩に無理矢理飲まされてって経験だったかな……問題になってコール禁止なんて、僕の通っていた大学ではどこ吹く風だったよ。長く生きていても、あの頃の事は忘れられないなぁ。幸い、病院のお世話にはならなかったけど」


 大学かぁ……ユートさんの言っているような事は、定期的に問題になっていたような気がする。

 俺はまだ小さかったからよくわからなかったけど、伯父さんがそんなニュースを見ていて、溜め息を吐いていたっけ。

 あれは多分、馬鹿な事をする若者達だ……みたいな感情だったんだと思う。

 一気飲み、危ないから駄目絶対。


「ははは、ユートさんもそんな経験があるんだ……」

「「はぁ……」」


 お互い、お酒に関していい思い出がなかったとちょっとした仲間意識が芽生えたけど、話している内容がないようのため、同時に重い溜め息を吐いてしまった。

 こんな話しで暗い雰囲気を醸し出していたらいけないな……周囲はフェンリル達を筆頭に皆楽しそうな雰囲気なんだから。


「ま、まぁ以前の事は置いておいて……つまりギフトを多く使いたければ、お酒を飲んだ方がいいってわけなんだ」

「そ、そういう事だね。でもお酒さえ飲めば延々使えるわけじゃなくて、どちらにせよ限界があるから、やっぱり使い過ぎには注意だよ」


 暗くなってしまった雰囲気を変えるため、わざと明るめの声を出して確認。


「それに、液体を飲み続ける事には変わりないからね。トイレが近くなったり、お腹を壊したり……飲み過ぎも良くないって事だね。んぐ、んぐ……ぷはー! こっちの世界に来て酔えなくなって、ようやくお酒が美味しく飲めるようになったよ!」

「……それは、まぁ当然か」


 というか、ゴクゴクとワインを飲むユートさんはお酒じゃなくても、短時間で飲み過ぎにはならないのだろうか?

 合流する時なども含めて、移動中にも魔法を使っていたみたいだから、ギフトのための力を補給するためなのかもしれないけど。

 もう、樽ジョッキの半分以上なくなっているし……夜中、トイレが近くなっても俺は関知しない。


「あ、でも……ギフトの力がお酒だって言うなら、飲まないと補給されない……ってわけじゃないよね?」

「もちろん。多分だけど、ある程度は他の栄養素とかで補えるんだと思うよ。だから、使い過ぎなければお酒を飲まなくても通常の生活をしていて大丈夫」


 ある程度は食べ物を摂取した時の栄養でなんとかなるのか。

 あまり頼り過ぎるのは良くないけど、いざって時にお酒の力でギフトを使えると考えれば、教えてもらえて良かった。

 お酒の力っていうと、なんかあまりイメージは良くないけど……。



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