第1305話 クイズの答えは不届きな集団でした



 考えるついでにヴォルグラウの事をユートさんにも話したけど、それ自体はほとんど知っていたようだ。

 デウルゴとヴォルグラウ、事細かにはわからなくとも街の一部では噂になっていたとか……俺がヴォルグラウを引き取る事も含めてだ。


 まぁ、かわいそうなウルフがいて、それをシルバーフェンリルを連れた公爵家の関係者が引き取ったとか、その程度だけど。

 あ、俺の名前は知られていたらしい……シルバーフェンリルという時点で、ユートさんなら俺だとわかるだろうけど、ラクトスではある意味有名人になってしまっているらしいからな。


「あ、もしかして……?」

「タクミさん?」

「ほらクレア、イザベルさんが言っていた、街の噂だよ」

「イザベルが……あ!」

「段々とわかってきたかな?」


 わざわざ問題として問いかける必要性はない気がするけど、先程一瞬見せた真剣な表情はなんだったのかと思う程、ニヤニヤしているユートさん。

 それを横目に、クレアとイザベルさんが言っていた噂話を思い出す。

 曰く、ウルフを集めている集団がいるとか……。

 それと直接は関係ないらしいけど、確かデウルゴはヴォルグラウを従魔にする際、何者かに協力してもらった。


 それから、ウルフを従魔にしていずれフェンリルを……というデウルゴの考え等々。

 さらに言うなら、さっきユートさんもラクトスでの噂で森の中を調べにというような事を言っていた。

 つまり……。


「森の中に、フェンリルを従魔に……なんて考えている集団がいた、かな?」

「うーん、ちょっとだけ惜しい。確かにそう考えている集団はいたんだけどね……」

「……では、フェンリルを従魔にしたい集団が、ヴォルグラウのようなウルフを従えていた、というのはどうでしょう?」

「完全な正解! と言いたいけど、ほんの少しだけ違うかなー」


 俺の答えが惜しく、それを踏まえたクレアの答えがほぼ正解に近いらしい。

 なんだかクイズゲームみたいになっているけど、それはほぼユートさんが面白がっているせいだろう。

 ……ちょっとだけ日本が懐かしくて、俺も面白かったりするけど……今にも溜め息を吐きそうなルグレッタさんを見て、表情には出さないように気を付けた。


「ユート様、そろそろよろしいのでは?」

「おっと、お楽しみはここまでみたいだね。それじゃ、答え合わせ……というか答えだ。正解は、ウルフを捕まえて強制的に従魔にして、訓練をさせていた集団がいた、だね」

「ウルフを……」

「なんて事を……いえ、訓練をさせるという事だけなら、わからなくもないですが……」


 デウルゴがやっていた事と、ほぼ同じ事を森の中では集団で行われていたってわけだ。

 訓練をさせるという部分だけなら、悪い事じゃない。

 シェリーも以前レオから訓練させられていたし……あれは痩せるためだったけど。

 母親のリルルからも、訓練とは言わずともある程度魔物の狩り方を教わったりもしていたからな。


 けどそれは、シェリーの同意あっての事だ……レオのは別として。

 ウルフを強制的に従魔に、という時点でウルフ側の自由意思なんてものはない。

 つまり、従魔が強制なら訓練も強制って事だ。


「魔物を従魔にする事は悪い事じゃない。そして、いずれフェンリルをなんて思う事も。でもね、やり方が強引だった。多分、街だと目立つし衛兵がいるからだろうけど……商隊を襲う事もあったみたいでね」

「商隊を……それは、ウルフにですか?」

「ほとんどウルフだと思う。場合によってはその集団の人間達もやっていただろうけど。そうして、ウルフを訓練しつつ利用し、ゆくゆくはフェンリルを狙っていたわけだ」


 ウルフを捕まえられる程の集団だ、ウルフがいなくても相当な手練れなのだろう。

 商隊に関しては、ラクトスは人の出入りが多く通り道にもなる街だから、待っていれば必ず街道を通る。

 衛兵さんを含み、見回りの人がいない時を狙って商隊を襲っていたんだろう……やっている事は完全に盗賊だ。


「そんな事にウルフを利用だなんて……」


 俯き、膝の上の手を握り締めるクレア……ヴォルグラウの事もあって、いやシェリーやレオ、フェンリル達と接していて穏やかで優しい皆の事を思って怒りが込み上げているんだろう。

 かく言う俺も、顔をしかめている自覚はあるし、歯を噛みしめている。


「クレア様、落ち着いて下さい。憤る気持ちは……一緒に走っているフェンリル達の穏やかな気性を見れば、よくわかります」

「えぇ……」


 ルグレッタさんが向かいから手を伸ばし、握られているクレアの手を包み込む。

 少しだけ落ち着いたのか、クレアが大きく息を吐いた。

 ……ルグレッタさん、フェンリル達には少し及び腰だったようだけど、それでも嫌っているわけじゃないんだな。

 むしろ、親しみを持ってくれている様子に見えた。


「まぁ自分の意思で人を襲うウルフならまだしも、利用されてだからね。利用した集団をそのままにしておくわけにも行かないし……だから、僕が行ったってわけ。まぁ、誰かを行かせる……この場合は衛兵隊かな? でも良かったんだけど僕が行った方が早いし、訓練しているウルフだったら衛兵にも被害が出るかもしれないからね」

「手っ取り早く解決するなら、確かにユートさんが行った方が確実ってわけだ」

「そういう事」


 クレアとルグレッタさんの方へ視線をやりつつも、話を続けるユートさん。

 大量のフェンリルに魔法をぶちかまそうとしたり、戦闘向きなギフトを持っているユートさんなら、衛兵隊よりも早く、そして被害を少なくできるからって事か。


「私、知りませんでした……屋敷の近く、ラクトスの南の森でそんな事が行われていたなんて……」


 悔しそうに呟くクレア。

 セバスチャンさんもそうだけど、ラクトスも含めて屋敷周辺の事を任されていた部分もあるのだから、早期に発見する事ができずに悔しいんだろうな。

 そっと、手を伸ばしてクレアの背中に当てる。

 撫でるとかではなく、同じ気持ちだよって事を伝えたくて。


 俺だって、レオやフェンリル達、ヴォルグラウを見ていてウルフに対してそんな事に利用するなんて……って気持ちがある。

 襲われた商隊の人達も、何の罪もない人たちだったはずなのにって気持ちも。

 それに、ラクトスにも出入りしていたうえに、少し前フェンリル達を森に向かわせたりもした……あの時点ではもう手遅れだったのかもしれないけど、何かできなかったのかと思う事は、驕りだろうか――。



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