第1295話 レンガ街道は順調に整備されているようでした



「クレアお嬢様は、窮屈で一日くらいならともかくずっとは着たくない……とこれまで散々言っておりましたのに。まぁ、慕っている男性によく見られるためなら、という気持ちはよくわかりますが」

「あれ……もしかして俺、口に出していました?」

「ワフ」


 溜め息交じりのエルミーネさんはともかくとして、周りにいる人に聞いて見るとコクコクと頷かれた……レオまで頷いている。

 ……やっぱり、無意識のうちに声が出ていたようだ。

 考えていた事全部じゃないだろうけど、本心が駄々洩れなのは恥ずかしい。

 意識的に口に出すのでも恥ずかしいのに……。


「それじゃ、行こうか。クレア、リーザ、レオ」

「はい、行きましょう」

「はーい」

「ワフー!」


 全員の準備が終えたのを確認し、俺はリーザやクレアと一緒にレオの背中に乗り、出発するため声を掛ける。

 本当は馬車に乗ろうとしたんだけど、リーザが俺達も一緒にとせがんだからだ……まぁ、ここまで一緒に乗れていなかったからな。

 リーザを膝に乗せるようにクレアが乗り、それを後ろから俺が支える形だ。

 食料などがたっぷり入った唐草模様の風呂敷が、レオの首に括りつけられているので、それを掴んでいればクレアやリーザが落ちる事はないだろうけど。


 ちなみに、出発と言っても東門を出て少しだけ街道を進むだけだったりする。

 フェンリル達やラーレと合流しなきゃいけないからな。

 ティルラちゃんは、ニックが恐る恐る乗ったフェンの隣、フェリーに乗ってまだ話しをしているようだ……アロシャイスさんが一緒にいるからあっちは大丈夫だろう。


「「「「皆ー! さようならー! 元気で―!」」」」


 走り始める俺達の後ろから、子供達の大きな声。

 それは、孤児院から見送りに来た子供達と職員さん達だ……アンナさんもそちらにいる。

 幌馬車の中から、ランジ村に行く子供達、カイ君やメンティアちゃん、カールラさんが見送りに来た子供達に大きく手を振っていた。

 他にも、数台ある幌馬車に乗っているのは、エメラダさん、ガルグイユさん、リアネアさん、コリントさんの他に、フォイゲさんとウラさんもいる。


 フォイゲさんとウラさんは、薬草畑の責任者に近い立場になると言ってあるので、できるだけ早めにランジ村に行って土地を見ておきたいらしい。

 フォイゲさんはカイ君達、ウラさんは孤児院の子供達の近くにいて、面倒見が良さそうなのは助かる。

 ウラさんとか特に、大家族の肝っ玉お母さんみたいな雰囲気を醸し出しているからなぁ……俺の勝手な想像だけど。


「へぇ~、ちゃんと道が整備してあるんだなぁ」

「ワフワフ」

「ママも走りやすいってー」

「レオ様が走りやすいのなら、馬や馬車もそうなのでしょうね。確か今は、ランジ村に向かう街道の半ばまで進んでいるみたいです」

「それなら、直にランジ村と街道が繋がって便利になりそうだ」


 東門を出てさらに東へと延びる街道、整備はされていたけどそこからさらに綺麗になっていて、全部がレンガ敷きに変えられている。

 レオに乗っているからあまり変わりは感じないけど、それでも見渡すと今までの景色と違って壮観だ。

 見慣れた赤茶色のレンガから、グレーやホワイトなど、様々なレンガがミックスされて敷き詰められている。

 赤茶色だけでも壮観だっただろうけど、様々な色が混ざる事で飽きさせないようになっている……狙ってそうしたのかはわからないが。


「今までは、ラクトスを出てすぐは石畳だったのですが、こうして見ると随分変わったように見えますね」

「道だけでもこれだけ違うんだと、俺も少し驚いたよ。レンガの道は、このままランジ村まで?」

「お父様からも許可を得て、繋げる予定です。ブレイユ村や他の村……ゆくゆくはラクトスの西側にもですね。ですがこれは、あくまで駅馬を始める前段階ですね」


 ラクトスから延びる街道の多くが、レンガを敷き詰めた物になるようだ。

 クレアの言っているように、駅馬を開始したうえでさらに移動時間を短縮するのが一番の目的だからな。

 これまでの石畳や砂利道より、馬車が走りやすくなって……どれだけの時間短縮ができるかはわからないけど、多少人や馬、馬車の行き来がしやすくなればいいなと思う。

 あと、レンガ敷きは見る分にも楽しいと感じる人もいそうで、ラクトス周辺の景観が良くなるのは間違いないだろう……魔物や、レンガが割れた時のメンテナンスが大変かもしれないけど。


「フェンリル達なら、馬車が走りやすくなれば駅馬の間隔が広くてもいいかもしれないけど、馬も扱うとなると、ちょっと難しいか……」

「そうですね。それに、今馬車の改良をして駅馬用の物を作っているようですので、その完成を待たなければいけません。駅馬の間隔については、セバスチャンが試算しています。おそらく、ランジ村とラクトスの間には最低でも一つ作られるかと」

「そうだね、ラクトスからランジ村まで約三日と考えたら、一つは欲しいね。フェンリル達なら、丈夫な馬車で一日だろうけど……乗っている人も含めて途中で休む場所は欲しいし」


 馬車の改良は、馬以上の速度でフェンリルが曳いた場合、壊れてしまう可能性があるために必要な事だ。

 以前、レオやフェリー達に試しに曳いてもらって競争の真似事をやった時、馬車が悲鳴を上げていた。

 走っている途中に馬車が壊れてしまったら大変だからな……これまでと同様に、馬に曳いてもらうのなら現状の馬車でいいんだろうけど。


「併設する宿も作らなければいけませんし、ランジ村に行ってからも考える事ややる事が多そうです」

「ははは、やれる事があるっていうのはいい事かもしれないけどね。でも、無理はしないように……俺も、薬草や薬を作るので忙しくなりそうだけど」


 日本にいた時の俺みたいに、仕事に追われてまともに休めない……という状態になって欲しくない。

 けど、何もなくて暇をするよりはいいのかも? まぁ、のんびりとできる時間も確保したいなと思うのが本音でもあるが。

 クレアに関しては、別の村や街への販売網の促進……というか営業周りみたいな事もしなきゃいけないし、大変だと思う。


 ……疲労回復薬草と、安眠薬草はクレアのために切らさないようにしておこう。

 体調管理は、エルミーネさん達使用人さんが見てくれるとは思うけど。

 あと、エッケンハルトさんも、いかに国や公爵領のためとはいえ、クレアが無理をするのは望んでいないはずなので、休めない程に多くの仕事を任せるなんて事もしないだろう――。


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