第1247話 魔物を狩った報酬をもらいました



「ライラお姉さん、大丈夫?」

「リーザ様……申し訳ありません、タクミ様、リーザ様。事切れているとはいえ、ゴブリンを見て少々感情的になってしまいました」

「いえ、話を聞いていたら確かにライラさんが、嫌だと思うのもわかりますから」


 ライラさんの様子がいつもと違うのに気付いた、優しいリーザがそっと近寄って見上げる。

 それで自分がいつもと違うと気付いたのか、ライラさんは元のポーカーフェイスに戻って、俺やリーザに謝った。

 まぁ、見た目もあまり気持ちいい物じゃないし……そもそも仕留めた後で死んでいるし、ゴブリンの性質を考えたら嫌悪感を出すのも無理はないと思う。


「はい……孤児院の者達の中でも、ゴブリンに親をという子供がいましたので……」

「そうですか……」


 孤児になる理由は様々だけど、この世界だと魔物に襲われて親が……という理由もそれなりにあるらしい。

 自分達が楽しむためだけに人を襲うゴブリンだから、ライラさんの言っているような例も少なくないんだと思えた。

 孤児になる理由か……それこそ千差万別で、孤児の数だけ理由があるだろうけど、これだけ近くでお世話になっておきながらライラさん達の事は孤児院にいる時の話を少し聞いたくらいだ。

 ……もし、聞けるのならそういった個々人の事情っていうのも、一度聞いておきたい。


 興味とかではなく、俺も伯父さん達に引き取られなかったら施設に入れられていたであろう、孤児みたいなものだったから。

 慰めるとか励ますとか、それこそ傷のなめ合いとか……おこがましい事を言うつもりもやるつもりもないけど、近しい人の事情くらいは知っておかないといけない気がした――。



「ガウ、ガウガウ~」

「ガフガフガフ……!」

「喉に詰まらせないように、落ち着いて食べるんだぞー?」


 積み上げられた魔物を、衛兵さん達に引き渡したくらいで、ご褒美の食べ物をお願いしていた衛兵さん達が戻ってきた。

 フェンリル達が狩った魔物を、衛兵さん達が精査している間に買って来てもらった、大量の食べ物をおやつとしてあげる。

 ちょうどおやつの時間を少し過ぎたくらいだから、夕食に差し支えないよう気を付けながらだけど。

 ライラさんは、リーザと一緒にさっき感情的になった心を落ち着けるようになのか、ご褒美おやつとしてあげたソーセージを食べるレオを、しきりに撫でていた。


「ありがとうございます」

「いえ、感謝をするのはこちらの方です。食糧となるオークだけでなく、ゴブリンまで狩ってもらえたのですから」


 オークの取引だけでなく、他の全ての魔物を引き取ってもらうついでに、報酬をもらう。

 一応、魔物を倒して大きな街に持って行くと、引き取ってもらうのと同時にお金を受け取れる仕組みになっているらしい。

 持って行くと言っても、遠くから魔物を運ぶのは大変なため基本的には、その街に住む人が何かのついでにという事が多いらしいけど。

 あと、そういった事を生業にしている人もいるのかと聞いてみたら、公爵領にはいないとの事。


 命をかけても、あまり多くの報酬がもらえるわけではないし、危険な魔物や人里近くにいる魔物は、領内の兵士さんが駆除するかららしい。

 ろくに訓練されていない人が、魔物の多い森の奥に入って命の危険を冒しつつ、魔物を狩って戻って来ても報酬が少ないんじゃ生活できないもんな。

 大体は、薬草採取など森の中に入る理由がある人が、そのついでに遭遇した魔物を狩って帰って副収入にするくらいのようだ。

 ただ、公爵領では領民の安全確保のために、兵士さん達が頑張ってくれているらしいけど、他領では報酬を多めに用意して推奨している所もあるらしいとも聞いた。


 そういった場所なら、一応魔物ハンターみたいな職業があるのかもしれない。

 ともあれ、報酬を受け取ってフェンリル達がおやつを食べ終わるのを待って、屋敷へと出発した。

 ちなみに報酬は、狩って来てもらったおやつの代金よりも多く、特にゴブリンの報酬が高いみたいだった……報酬は少ないと聞いたのに、フェンリル達が狩った魔物が大量だったからだろうな。

 思わぬ臨時収入になったけど、このお金はフェンリル達のために使おうと思う、食べ物が一番喜ぶだろうから、それにだな。


 帰りはさすがにもう走る気はないので、俺はリーザと一緒にレオに乗り、ライラさんはフェンリルに乗っている。

 ライラさんを乗せたフェンリル、嬉しそうだったな……ライラさんに懐いたのもあるだろうけど、フェリー達と同じで基本的に、誰かを乗せて走るのが好きみたいだ。

 フェンリルって、人懐っこいなぁ……上位らしい最強のシルバーフェンリルである、レオがそもそも人懐っこいんだけども。



 屋敷に到着し、速やかに解散する物分かりのいいフェンリルに少し驚かされながらも、中に入る。

 さすがに今日は数が少なかったけど、お馴染みの使用人さん達によるお迎えを受け、部屋へと向かう。


「お帰りなさいませ、タクミ様。お迎えできず申し訳ございません」

「いえ、気にしないでください」


 部屋へ向かう途中、裏庭に続く廊下から移動中のアルフレットさんと合流。

 クレアが一緒の時など、報せを出している時はともかく俺はいつ頃戻って来るかわからなかったんだから、仕方ない。

 そういう場合は、いつも門で迎えてくれる護衛さんが、屋敷に報せるんだけど、裏庭にいたのならすぐに玄関まで来れないのも当然だ。

 特に今は、引っ越し準備などで多くの使用人さん達が忙しいため、どうしても伝達が少しだけ遅れてしまうからな。


「フェンリル達の様子はどうですか?」

「タクミ様が外にいるフェンリルを連れて行ったと知り、フェリーを始め残っていたフェンリル達が少々不満そうでした。ですが、伝言にあった通り散歩と称して屋敷周辺を走ってもらう事で、ある程度満足したようです」

「ある程度ですか……」

「ワフ、ワフ」


 完全に満足したわけじゃないという、アルフレットさんの言い方に少しひっかかる。

 レオの方は、さもあらんと言わんばかりに頷いているから、理由がわかっているようだけど。


「タクミ様がおられない事が、気になっていたようです」

「俺ですか? レオではなく?」

「はい。私や他の者達も、フェンリルに乗せて頂いたのですが……その際に何かを探しているようでして。ティルラお嬢様が聞いたところ、タクミ様を探していたのだと」


 ティルラちゃんのギフトで、フェンリル達の話を聞いたんだろう……少しくらいなら、使っていろいろ確かめておいた方がいいからな。

 でもレオならわかるけど、なんで俺なんだろう? 人を乗せたいだけなら、使用人さんでもいいのに――。



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