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第1241話 雑貨屋で花瓶探しをしました
第1241話 雑貨屋で花瓶探しをしました
懐かしい、初めてラクトスに来た時の事を話したりと談笑しながら、市場を通って食べ物に釣られそうなフェアリネッテを、俺でも驚くくらいの反射神経でリーザが捕まえたり……なんて事もありつつ、ハインさんの雑貨屋へと向かった。
リーザは、フェアリネッテが街の人達にもみくちゃにされたら大変! と思っての事らしいけど、動きの鋭さは獲物に飛びかかる猫のような鋭さがあった、凄い。
「これはこれはタクミ様。いらっしゃいませ」
雑貨屋に到着し、外にライラさんとレオを待たせて中に入る。
店員さんに迎えられ、挨拶しているうちに他の店員さんがハインさんに伝えたらしく、奥から出て来て改めて迎えられた。
「こんにちは! えっと、お世話になります?」
「うんうん、よく挨拶できたなリーザ」
「はいこんにちは、いらっしゃいませリーザ様。――本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ハインさん。えっと……」
礼儀正しく挨拶するリーザに顔を綻ばせて挨拶を返すハインさんに、俺から用件を伝える。
「そうですね……そういった物でしたら、こちらに。あ、それとタクミ様。注文された品々は全て、ランジ村に送ってあります。明日か明後日には到着する予定になっておりますので」
「ありがとうございます、お世話になります」
ハインさんに注文した物、俺やクレア達が住む家の家具全般だな。
建物自体は既に完成しているはずなので、到着次第運び込んで設置してくれる手筈になっている……ランジ村の方では、村長のハンネスさんが村の人達と協力して受け入れてくれているはずだ。
セバスチャンさんとアルフレットさんに引き継いで、連絡を取り合ってそう報告してくれた。
「いえいえ。あれ程の大きな取引はこれまでになかったので、張り切らせてもらいました」
「ははは、確かにそうかもしれませんね」
まぁ、数十人が住んで、その住民も合わせて百人以上の人を受け入れられる建物の、ほぼすべての家具だからなぁ。
大口の取引になるし、同じような事がないのも当然か。
その分、結構優遇してくれたようだから、これからもラクトスに来た時は贔屓にしよう……あれ、ハインさんの手管にはまってないか? まぁ、信頼できる人だからいいか。
というか、ラクトスには何度も来ているのに、知っている店はあまり多くないからな。
「んー、これは……」
「それは水はけが良い物で、飾るというよりも植物を栽培するためですな。室内で飾るにはあまりお勧めしません」
「そうですか。見た目に惹かれるものがあったんですけど……」
ハインさんに案内されつつ、目的の物をじっくりと選ぶ。
そのうちの一つ、目に留まったのはフェアリネッテがすっぽりと入りそうな大きさの植木鉢。
真っ白の素焼きで、飾り気はないけど素朴な雰囲気だったんだけど……確かにのぞき込んでみると、底面に穴が開いていた。
これじゃあ、水やりをしたらそのまま床に水が行ってしまうな、というかそもそも植木鉢を買いに来たんじゃなかった。
ハインさんの雑貨屋に来た目的……理由の一つは花瓶を買う事だ、植木鉢とはちょっと目的が違う。
使用人さん達と相談している時に、よく提案のあったプレゼント。
そのプレゼントのために、俺ができる事を考えた結果だ……手作りで何かを、というのはちょっと急ごしらえするのは難しいので、『雑草栽培』との組み合わせを考えた。
結果、観賞用の花と花瓶をプレゼントしようとひらめいた。
こちらではあまり室内に花を飾る習慣は多くないらしく、屋敷の中でも廊下に数点あるくらいだから、珍しい意味もあって妙案だと思う。
ちなみに屋敷の中に飾られているのは、植物を観賞するためというよりも凝った意匠の花瓶その物を鑑賞するためだとか。
一応屋敷では室内用の物がほとんどだけど、中には室外用の……今見た底面に穴が開いている鉢もあったりして、それには植物は飾られていない。
それはともかくとして、鉢植え類がある隣のスペースに置かれている花瓶に視線を移す。
「形も柄も、色んな物がありますね」
並んでいる花瓶は壺の形をした物、筒型の物や反型の物まで、多種多様な形をしていて種類が多い。
花瓶としてどうなんだろう? と疑問を浮かべざるを得ないんだが、細長くて曲がりくねった蛇のようなものまであった……瓶その物の観賞用なんだろうけど、あれじゃ花を飾るのは無理そうだ。
材質はガラスと陶器で、そちらは珍しい材質はなかった、まぁ花瓶だからな。
「用途はあまり多くありませんが、私の店の中でも売れ筋の商品なのですよ」
「そうなんですか?」
「こちらは、小さな物を保管したりとかですね。あと、こちらだと……ちょっと失礼します」
小物入れとしてハインさんが示したのは、壺型の物。
他に、形容しがたい特殊な形をしている物を示した後、ハインさんは俺に断って鉄貨を取り出して中へそっと落とした。
すると陶器のそれから、店内に澄んだ高い音が響き渡る。
「へぇ、澄んだ音がしますね」
「このように、鑑賞をしつつ音を楽しむ物もございます」
ニコニコしながら、色んな種類の花瓶を紹介してくれるハインさん。
澄んだ音を楽しむか……それも悪くないけど、花瓶としてはどうなんだろう?
好きな人は好きなのかもしれないけど、俺が求めている物とは違うな。
ちなみに音を出す目的の花瓶だけど、中に入れる物……鉄貨だけでなく、銅貨や銀貨、それ以外にもいろんな物を入れると音の違いが楽しめるらしい。
楽器代わりかな?
「ねぇパパ、これ可愛いよ?」
「ん? んー、確かに可愛いなぁ」
色んな花瓶を見て、どれがいいかを選んでいる俺の服の袖を引っ張るリーザ。
そちらを見てみると、俺の知らない花が青白く描かれた、細長い花瓶があった。
こういう柄ってなんて言うんだっけ……確か、更紗模様だったか? あぁ、和更紗っていうんだっけ。
何々焼きとか、日本の焼き物で見た事がある。
和風の柄なんてのもあるんだなぁ。
確かにリーザの言う通り可愛いと思うけど……。
「でも、これじゃ一輪挿しだ。えっと、できれば、もう少し大きめのが欲しいな」
考えているのは、数本の花が入るくらいの花瓶。
リーザが示した物は一輪挿し用とか言えない程、口の部分が細くなっている……無理をすれば二本挿せるかもしれないが、そこは無理をするところじゃない――。
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