第1227話 クレアは少し衝動的になっていました



「それでセバスチャン、ゲルダとその妖精に関してというのは?」

「はい。ゲルダさんは今後、タクミ様の使用人になる事が決まっています。ですので、基本はゲルダさん本人に管理してもらいつつではありますが、タクミ様の管轄がよろしいかと」

「タクミ様、クレアお嬢様にその了承を頂きたく。ゲルダさんと妖精には、先程確認して参りました」

「俺の、ですか……」


 まぁ、ゲルダさんが俺の使用人なのだから、その使用人と契約している存在……この場合は妖精だな。

 それは俺が管理というか、管轄になるのは当然かもしれない。

 フェンリル達も、頂点にレオがいるのもあって俺の管轄になっているようだし。


「正直なところを申しますと……公爵家管理の下、じっくりと妖精に関する話を聞きたく思いますがな。ですが、タクミ様の管轄であればレオ様もいらっしゃいますし、大きな問題も起こらないでしょう」

「話を聞きたいのは、セバスチャンの興味でしょう?――私も、タクミさんなら問題ないと思うわ」

「ゲルダさんも、妖精も了承してくれました。少々、妖精はレオ様が近くにいる事を気にしているようでしたが……これは、絶対に敵わないシルバーフェンリルが、自分の近くにいて監視される事によるものかと」

「そうですか……わかりました。俺に何ができるかわかりませんが、責任をもって預かりたいと思います」


 セバスチャンさんの興味はともかく、クレアもアルフレットさんも賛成している様子。

 妖精については、あまり情報が多くないけど……これまでもゲルダさんの近くにずっといたわけだし、今更何か起こるわけでもなさそうだと、頷いた。

 フェンリル達の事もあるし、妖精が一人? 一体? 増えたところで大した違いはないだろう……基本的にはゲルダさんが見てくれるはず。

 妖精も、悪意があってゲルダさんといるわけでもないからな、むしろ話を聞く限りでは善意だ。


「では、よろしくお願いいたします。――それと、クレアお嬢様。先程ゲルダさんとあの者が話が終わりました」

「そう。問題は?」

「特にございません。何分昔の事ですので、ゲルダさんも殊更蒸し返す気もないようです」

「わかったわ」


 了承した俺に礼をするセバスチャンは、続いてクレアに何か報告を始めた。

 ゲルダさんと誰かが話を付けた、という事のようだけど……?


「えっと……?」

「ゲルダさんと、例の料理を突き返した者と話をさせたのです」

「え? すると、妖精と契約する原因になったっていう?」

「はい。その者は……」


 首を傾げる俺に、アルフレットさんが近くに来てそっと教えてくれた。

 ゲルダさんの料理を突き返した人は、同じ孤児院で幼少期を過ごし、ゲルダさんが気になっていた男の子の事だ。

 動きが早過ぎる……と思ったらその男の子、成長してからゲルダさんと同じく、この屋敷の使用人になっていた人だったらしい。

 あの後、俺達がハンバーグの成形に勤しむ傍ら、妖精からレオとクレアが聞きだしたのだとか。


 まぁ、妖精はその時からずっとゲルダさんと一緒にいたみたいだし、知っていて当然か。

 そして、俺達があれこれと料理の準備などをしている間に、クレアがその使用人を呼び出したと。


「幼少期の事とは言え、女の子の気持ちを無碍にするような者は、許せませんから」


 とは、アルフレットさんから話を聞いている途中、クレアが言った言葉。


「恋をしている女の子のためにも、その者に過去の行いを反省させ、ゲルダに謝るよう、話をする機会を設けさせたのです」

「ゲルダさん本人も、ほとんど忘れていたくらいの出来事だったらしいので、わざわざ謝る必要はないとも言っておりましたが……」

「でも、よ。女の子が気持ちを込めて作った料理を突き返すなんて……それにあの者はその事自体を忘れていましたし」

「ははは……」


 憤慨している様子のクレア……おそらく、同じ女性としてゲルダさん側に感情移入をしてしまったんだろう。

 男の子は、料理を突き返した時は周囲にからかわれるからと、思春期特有の異性に対する気恥ずかしさのようなものがあったんだろう、と予想は付く。

 けど、それだけでクレアが止まる事はなく、なんとか思い出させてゲルダさんにはっきり謝るように申し付けたらしい。

 セバスチャンさんに聞くと、男の子……使用人の執事さんの方も、事情を聞いて思い出した後は申し訳なさそうにしていたようなので、無理矢理ではなかったみたいだけど。


 でも、ゲルダさんとしたら蒸し返されたくない過去らしく、もう気にしていないからと、今更謝らなくてもいいと言っていたとか。

 それでも、クレアの恋心を持つ女の子に味方したい衝動により、執事さんとゲルダさんが話す機会を持たせて、さっきのセバスチャンさんからの報告になったと。

 執事さんはちゃんと謝り、終始和やかにそんな事もあった――のような雰囲気だったらしい。


「男性を真剣に思う女性の気持ち、今なら私にもよくわかりますから。どうしても、お節介だとわかりつつも、何かしたかったんです……」

「「……」」

「あー……まぁ、そうだよね……ははは……」


 ちょっと暴走気味だった自覚があるのか、恥ずかしそうに俯きながら話すクレアは、上目遣いで俺を見ている。

 セバスチャンさんとアルフレットさんは、さもあらんと言うように頷いていた。

 俺も、クレアがそういった女性の気持ちに寄り添いたい理由、みたいなものがなんなのか察しているけど……何も言えず、苦笑しながら同意するしかない。

 これは、早くなんとかしないとなぁ……。


「アルフレットさん。すみませんが、明日使用人さん達を集めてもらえますか? クレアとの事で相談が……」

「畏まりました。タクミ様の使用人、それから屋敷の使用人も、手が空いている者全てを集めます」

「あ、いや、そこまでじゃなくてもいいんですけど……」


 クレアやセバスチャンさんの視線に耐えながら、アルフレットさんに耳打ち。

 作戦会議のため、使用人さんを集めるようお願いする。

 ただ、意気込んだアルフレットさんをそのままにすると、本当に屋敷にいる使用人さんのほとんどを集めてしまいそうなので、最低限の人を選んで集めるように伝えた。

 セバスチャンさんは……クレアのランジ村行きで忙しそうだし、面白がりそうなので除外しておこう……。


 あと、ライラさんやゲルダさん、ジェーンさんなど女性の意見が欲しいから、そちらを重視するようお願いしておく。

 もちろん、他の事で忙しい人はそちらを優先するように、とも伝えた。

 アルフレットさんが凄く意気込んでいたので、結構な人数が集まりそうだけど……。



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