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第1228話 引っ越し準備は大変のようでした
第1228話 引っ越し準備は大変のようでした
「タクミさん、アルフレットと何を話していたんですか?」
「あぁいや、予定の確認を少し。ランジ村に行く予定も、もうすぐそこだからね」
俺からのお願いを受けてくれたアルフレットさんが去った後、クレアから何を話していたのかを聞かれるけど……これは、クレアに内緒で進めたい事だから、誤魔化しておく。
まぁ、予定の確認というのもある意味嘘じゃないからな。
「そうですね……タクミさんも、使用人を持って忙しい時期ですから。アルフレットやライラと相談して、進めないといけませんね」
「だね。まぁ、俺はあまり物を持っていないから、凄く忙しいと言う程じゃないけど……クレアもそうなんじゃない? 運び出す物も多いだろうから」
俺の持ち物なんて、剣や刀以外だと服くらいだからなぁ……それもあんまり多くないし。
あ、あとよくわからないうちに貯まっているお金や、先日ハインさんの雑貨屋で買った物もあったっけ。
からくり箱には、しっかりお金を入れて金庫代わりになってくれているし、そのまま持って行けばいいだけなんだけども……ただ、入れてみて思ったけど、金貨や銀貨を詰めると重くてからくり箱を開くために動かしにくいという難点があった。
ちょっと、失敗したかもしれない。
そんな俺と違って、クレアは服も多いだろうし他にも色々とやる事がある。
定期的にこの屋敷に戻ったり、屋敷からランジ村に物を運んでエッケンハルトさんの代理みたいな仕事もしなきゃいけないようだから、そのための準備だってあるだろう。
もしかしたら、お気に入りの家具を運んだりとかもあるかも……。
「すっごく大変ですね。この屋敷に来た時には、移動以外で大変な事はなかったんですけど……」
「この屋敷であれば、必要な物があればラクトスで揃いますからな。ランジ村に行けば、例えレオ様やフェンリルが移動を助けてくれるとしても、少々面倒になります。定期的に屋敷に戻る際、ついでに必要な物を買うとしても……やはりあらかじめ持って行くものは増えるのは仕方ないでしょう」
レオやフェンリルが頑張っても、ランジ村とラクトスでは往復で半日はかかってしまう。
買い物もするとなると、一日を使う事になるから……屋敷にいる時のように、気軽に買い物に行く事はできないだろうから、持って行くものが増えるのは仕方ない。
「はぁ……そうなのよね。基本的にはセバスチャンや使用人達がやってくれるのだけれど、私が判断しなきゃいけない物もあるし……」
「ははは、まぁ、引っ越しとなるとどんな時でもやっぱり大変だよね」
溜め息を吐くクレアに、苦笑する俺。
極端に持ち物の少ない人でもない限り、引っ越しっていうのは大体忙しくて大変なものだ。
俺も……って、俺は学生の頃に一人暮らしを始めた部屋にずっといたから、あまり大変さはわからないか。
その部屋にも、伯父さん達が総出で手伝ってくれたし……引っ越してすぐは、伯母さん達が荷ほどきを手伝ってくれたり、毎日のように様子を見に来てくれたりしたもんだ。
「クレアお嬢様、気持ちはわかりますが……やはり、ドレスなどに関しては後で少しずつランジ村に運ぶのではいけませんか? 全てを短期間で使うわけでもないかと思うのですが」
「私もセバスチャンの言う通りだと思うのだけど、お父様は間違いなく様子を見に来るだろうし、この屋敷で暮らすよりも着る機会が多いと思うのよね。そうしたら、やっぱりその時に合ったドレスを着たいから……」
やっぱり、女性にとって服……というよりドレスは大事なようで、色々悩んでしまうみたいだ。
種類が多ければ選択肢が広がるからなぁ、選ぶのにも悩んでしまう可能性もあるけど。
「やぁやぁ、のんびりしているみたいなのよう」
「あら、妖精さん?」
「ワフ?」
セバスチャンさんとクレアの相談を、聞くともなしに聞きながら、お茶を嗜んでいるとどこからともなくモコモコな物体……もとい妖精が飛来。
クレアだけでなく、レオもそれに気付いて丸まっていた顔を上げた。
どうでもいいけど、妖精さんと呼ぶとなんだか一気に怪しく聞こえて、信憑性がなくなってしまうように思えるのは俺だけかな……信憑性も何も、目の前に本当に妖精がいるんだけども。
「ゲルダさんから離れていいのか?」
「問題ないわよう。むしろ、私がこれまで邪魔してたみたいだし……まぁ、たまにはね」
「ま、まぁ、邪魔というかなんというか……」
視線を巡らせてみるけど、近くにゲルダさんはいないようだ。
妖精はこれまで邪魔というか、失敗の原因になっていたのを気にしている様子で、口を尖らせている。
なんにせよ、ゲルダさんにつきっきりじゃなくていいのなら、妖精も文字通り羽根を伸ばせるだろう……羽根ないけど、どうやって飛んでいるんだろう?
「ちょうどいいですな。妖精について先程話しておりましたが……聞きたい事があるのですが、よろしいですか?」
「えぇ、いいわよう。なんでも聞いてちょうだい」
「それでは……」
セバスチャンさんが一つ頷き、妖精へ質問。
文献でもほとんど何もわからないようなものだから、興味があるんだろう。
俺やクレアも同じく興味はある。
レオは逆に興味を失くして、体に寄りかかっているリーザやティルラちゃんに鼻先を近付けて、じゃれ合い始めたけど……興味ないのか、妖精なのに。
「まず契約というものについてですが……我々人間が、他の魔物と交わす従魔契約とは違うもののようです」
「そうね、違うわよう。従魔契約は、あまり詳しくないけれど……妖精だけができる契約なのよう!」
「ほぉ……」
モコモコの体を反らし……ているようにはあまり見えないけど、自慢するような雰囲気を出す妖精。
セバスチャンさんの質問に対し、妖精の契約は対等や従属とかではなく、妖精が加護を与えるといった契約らしい。
加護契約ってところだろう。
契約をした人に対して、妖精が人知れずちょっとした補助とか力を貸すって感じの内容で、魔力を少し譲渡して通常より多くの魔力を扱えるとか、姿を消した妖精が人知れず手助けするとかとの事。
ただし加護契約は、幼少期の人……つまり子供としか結ぶ事ができず、妖精と出会う事なく成長した人はその後契約は不可能のようだ。
ついでなので、どうして子供としか契約できないのか、という質問もしてみた――。
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