第1203話 少しだけ過保護だったようでした



「今日はあんまり構ってやれなかったな……」


 寂しがらせていた事を申し訳なく思いながら、背中から手を移動させてリーザの両耳ごと頭を撫でる。


「うん。デリアお姉ちゃんや、フェリー達もいてくれたけど……やっぱり、パパやママと一緒がいいよう……」

「……ワフ」


 お、拗ねていたレオが小さく反応した。

 レオもリーザの事が気になるようだ……それでもまだ、丸まったままなのは変わらないけど。


「そうだなぁ、やらないといけない事があったんだけど……リーザをほったらかしにしていい理由にはならないよなぁ」


 リーザをデウルゴに近付けたくなかった、というのは俺の考えだ。

 けどリーザは、そんな事関係なく俺やレオと一緒にいたかったんだろう……詳しい事情を話していないのもいけなかったかもしれない。

 あと、従業員さん達もまだ屋敷にいるわけで、皆はリーザの事を優しく見守ってくれているようだけど、リーザにとっては慣れない人達がいっぱいいる状態だからな。

 それもあって余計に俺達がいない事で、寂しさを感じたのかも?


「うー、ごめんなさい。我が儘で……うー……」

「いや、いいんだよ。リーザはもっと我が儘でもいいんだ。リーザを一人にしないって決めていたのにな……」


 撫でながら話しているからか、先程とは違ってリーザの尻尾も少しずつ動き始めている。

 そんな中、再び唸るリーザは寂しかったと俺に言う恥ずかしさや、我が儘と思われないかの不安もない交ぜなっている様子。

 上手く感情を整理できない感じだな……まぁ子供なんだから、それくらいの事があって当然か。


「……パパが悪いんじゃないって、リーザわかっているの。さっき、ヴォルグラウからも聞いたよ? 悪い人に、リーザを会わせたくなかったんだよね?」

「あー、うん……まぁ」


 うつ伏せ状態のリーザは、顔を横に向けてちらりと俺を見上げつつ、話す。

 リーザにはバレていたのか……いや、ヴォルグラウにリーザには話さないようにとか、頼んだりもしていないからな、伝わってしまうのは仕方ない。

 俺やレオがティルラちゃんと話している時、話を聞いたんだろう。

 リーザはギフトとか関係なく、ヴォルグラウと会話できるわけだし。


「デリアお姉ちゃんからも、聞いたら教えてくれたんだ。パパは、リーザが嫌な思いをしないように、連れて行かなかったんだって」

「そ、そうだな……」


 デリアさんからも漏れていた!

 いやまぁ、こちらもリーザには話さないでとか言っていないし、もともとデリアさんは俺がリーザに秘密にする事は反対していたからなぁ。


「でもね、リーザね……パパやママと離れている方が、よっぽど嫌だよ? リーザ、何か言われたりイジメられるのには慣れてるもん。でも、パパとママに置いて行かれるのは嫌……」

「うん、うん。そうだな……本当にごめん」


 これは、俺が間違っていたんだとリーザに言われて気付く。

 慣れている事に対しては、それでもリーザに向けられたくない事ではあるけど……ほぼ一日俺やレオと離れて過ごした事で、逆に色々考えさせてしまったのかもな。

 デウルゴと直接会わせなくても、クレア達のように別室にいさせるとか、一緒に行く方法があったのにと、今更ながらに考えて反省する。

 ……ほんの少しだけ、過保護過ぎたのかもしれないな。


「だから、我が儘かもしれないけど……もうリーザと離れちゃ嫌だよ……」


 再び、顔をベッドに埋めるリーザ。

 泣いているわけではないと思うけど、尻尾も萎れてしまっているので、俺に拒否されるのを怖がっているんだろう。

 俺が、リーザのお願いを拒否するなんてあり得ないのにな……よっぽど無茶なお願いだったら、さすがに考えるけど。

 だからって、リーザの事を嫌がるとか邪険に扱う事は絶対にない。


「大丈夫、我が儘なんて思わないから」


 そう言いつつ、できるだけ気持ちが伝わるようにリーザの頭を撫で続ける。

 少しでも、リーザが安心してくれるように。


「これからは、ちゃんと事情を話すようにするからな? それで、リーザがどうしたいか聞くようにする。寂しくならないように、できるだけ離れない。約束するよリーザ」


 結果的に我慢させてしまう事になるかもしれないけど、それでも何も言わずに寂しい思いをさせるよりはマシだろう。

 これからは、過保護になり過ぎないようにちゃんと話をしないとな。


「うん。リーザは大丈夫だから。パパやママが、リーザの事を考えているってわかっているんだけど……でも、離れている方がよっぽど嫌な事だから」

「うん、うん。そうだな……俺やレオも、リーザと離れるのは嫌だから」

「うん……パパ、約束だよ?」

「あぁ、約束だ」


 そうして、少しずつ寂しさを解消して行くリーザと、ゆっくり話す。

 しばらく経った頃には、リーザの尻尾はいつものように元気にパタパタと振られ始め、安心したおかげかすぐにスヤスヤと寝息を立て始める。

 起こさないよう、ベッドに寝かせて毛布を掛ける俺の心の中では、絶対にリーザとの約束を破らないように、刻み付けた。

 視界の隅で、レオがごそごそと動きお尻をこちらに向けていたのが、顔を俺達の方へ向けて片目を開けて見ていたのを発見。


「ワフゥ……」


 俺に見られたのに気付いたからか、溜め息を吐くようにして目を閉じた。

 庭園を離れる直前の溜め息とは違って、リーザの不安が解消された事に安心した感じの溜め息だったから、レオも拗ねてはいてもリーザの事が心配だったんだろうな。

 そんなレオの様子に苦笑しながら、俺もベッドに入って就寝。

 夢の世界へと旅立つ前、寝ているはずのリーザが俺の手を掴んだのを握り返した――。



「ダグビざばー!」

「あぁはい、また会えるのでそれまでの我慢ですよ、デリアさん」

「わがっでるんでずげど……ズズ!」


 翌日、それぞれの場所に戻る従業員さんの見送り。

 まだ全員集まっていないのに、玄関ホールでボロボロ泣いているデリアさん……苦笑する俺の前で、盛大に鼻水を啜っている。

 ブレイユ村から戻る時もそうだったけど、一時的にでも誰かとの別れがあると、感極まってしまうんだろう――。



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