第1202話 ティルラちゃんは兄弟姉妹ができた気分のようでした



「なんだか、タクミさんは兄様みたいです。色々話をしてくれますし、話しも聞いてくれます。一緒に鍛錬をして、一緒に遊んで……昔は、姉様よりも兄様の方が欲しかったです」

「あはは、ティルラちゃんが妹かぁ。それは楽しそうだね」


 元々、妹のように感じて接している部分はあるから、ティルラちゃんからそう言われて素直に嬉しい。

 ただ姉よりも兄の方が欲しかったというのは、クレアがちょっとかわいそうだ、というか昔っていつの事だろう?

 まぁ、いない存在を想像して欲しがる、というのはよくある事だと思う……俺も、弟か妹が欲しかったなぁ。

 俺を引き取ってくれた伯父さんの子供達が、年は離れていたけど優しい兄や姉になってくれたけど。


「タクミさんが兄様……リーザちゃんが妹で、姉様もいます。楽しい事がいっぱいです!」


 リーザはティルラちゃんと年が近いし、仲もいいから妹か……リーザの方はお姉ちゃんと呼んでいるし、姉のようにしたっているから相思相愛と言えるかな?

 あ、でもリーザの場合、ライラさんに一番懐いている節があるんだよな……ライラさんだけ、お姉さんだし。

 クレアやゲルダさんとかは、ティルラちゃんと同じお姉ちゃん呼びなのに。

 お世話をしていくれている事や、ライラさんの雰囲気からなんとなくで、特に理由とかはないのかもしれないけど。


「あとは、弟がいれば完璧なんですけど……」

「それは……さすがに難しいんじゃないかな?」


 エッケンハルトさんの奥さんはもう亡くなっているわけだし。

 ……再婚すれば別かもしれないけど、エッケンハルトさんにその気はなさそう……かな? 多分。

 もし再婚しても、年齢がなぁ……いや、エッケンハルトさんなら大丈夫な気がしなくもないけど、それはそれとして。

 とりあえず、弟や妹が欲しい子供にありがちな、親にせがんで困らせるような事をティルラちゃんが言わないよう、願っておこう。


 聡い子だから、そういう事は言わないと思うけど。

 もし俺が原因で、ティルラちゃんがせがむようになってしまったら、エッケンハルトさんに何か言われそうだ……。

 そうして、ギフトの事から兄弟姉妹の話に逸れまくったが、楽しい雰囲気でティルラちゃんとの内緒話を終える。

 ギフトの事で途中悩ませてしまった部分もあるけど、先に屋敷へと戻るティルラちゃんはいつもの天真爛漫な様子に戻っていた。


「あ、そういえば……ティルラちゃんにギフトをどう使いたいか、聞くのを忘れていた」

「ワフゥ……」

「キィ……」


 ティルラちゃんを見送った後、庭園に残っていた俺は、冷めているお茶を飲みながらふと聞こうとしていた事を思い出して呟く。

 レオには溜め息を吐かれてしまった……庭園のテーブルがある場所、ちょっとした東屋というかパビリオンのようになっているその屋根の上からは、ラーレの溜め息も聞こえた。

 実は、ラーレはティルラちゃんが来る前に屋根の上で、ジッと話を聞いてくれていたんだ。

 ティルラちゃんに関する話だし、従魔であるラーレには聞いていて欲しかったからな。


 でも、ギフトを確認する必要などもあったから、ラーレにはティルラちゃんにバレないよう、聞いているだけでいるようお願いしておいた。

 『疎通令言』を使ってレオの声を聞くとき、もしラーレの声と勘違いしたらと思ったからでもある。

 まぁ、悩んで頭や体を揺らしていた時には、ラーレが心配して降りて来ようとしていた気配もあったんだけど……先にレオが動いたから、我慢したようだ。


「……仲良くなりたいって言っていたから、あれがティルラちゃんの希望と考えて良さそうかな。うん、大丈夫そうだ。ラーレも、安心して?」

「ワフ、ワフワフ……」

「キィ」


 ジョセフィーヌさんのギフトは、シルバーフェンリルやフェンリルと仲良くなるために使われた。

 ならティルラちゃんは、ちょっと能力の変わったギフトで何をしたいのか……初代当主様がこうだったからというわけではなく、ティルラちゃんの考えを聞きたかったんだけど。

 どうやって使うか、という話にはなっていないけど……ティルラちゃんなら大丈夫だと思えるし、そう思う事にする。

 レオからは本当に大丈夫かと心配するような鳴き声、ラーレは多分頷いてくれているような声、かな。


「も、もちろん、ティルラちゃんの事は住む場所が離れたとしても、ちゃんと見守りたいと思っているぞ?」

「ワフゥ?」

「いや、本当だから……」


 本当に? と問いかけるレオの鳴き声に答えながらお茶を飲み干して、もう少しこの場に留まるらしいラーレを残して、俺も屋敷へと戻った――。



「パパー」

「んー、どうしたんだリーザ?」

「うー……」


 俺もリーザもそれぞれ風呂に入り、後は寝るだけとなった段階でベッドに座っている俺の太ももの上に乗りながら、俯き加減で唸るような声を出すリーザ。

 ちなみにレオは、部屋の隅で丸まって拗ねている……。

 ティルラちゃんとの話の後、リーザと一緒にライラさん達にお風呂に入れられたからだな。

 俺が頼んだんだけど、ヴォルグラウの件が解決し、ティルラちゃんの心配もなくなって気分よく寝られると思っていたら不意打ちでお風呂に連れて行かれて、すっかりへそを曲げてしまった。


 まぁ、一晩寝れば気分も晴れるだろう。

 機嫌を直そうとして構うと、余計に嫌がるかもしれないし今はそっとしておくのが一番だ。

 それよりも、今はいつもと様子が違うリーザだな。


「うー、うー……」

「一体どうしたんだ?」


 俺の太ももにうつ伏せでお腹を乗せ、足をバタバタさせながらなおも唸るリーザ。

 いつもなら元気よく、そして機嫌良く尻尾を振っているのに、今大きな二本の尻尾は萎れた状態になっている。


「さ……た……」

「うん? なんだって?」


 落ち着かせるように優しく背中を撫でながら聞く俺に対し、何やら小さく呟いたリーザだけど、はっきりと聞こえなかった。


「寂しかったの!」

「そ、そうなんだ……ごめん」

「ティルラお姉ちゃんが、元気になって良かったけど……パパもママも、今日はずっと離れてばかりだったし……」

「うん、そうだね。ごめんよ……」


 デウルゴの事があったから、デリアさんに任せて屋敷にリーザを置いてラクトスに行ったんだけど……寂しがらせていたみたいだ。

 屋敷に戻って来た時、デリアさんはフェリー達も含めてリーザは楽しく遊んでいた、と言われたから安心していたけど。

 ジョセフィーヌさんの事をティルラちゃんに話すため、レオを連れて庭園に行っていたのも、原因の一つだろう――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る