第1193話 改めてギフトの有無を調べました



「タクミさん、どうしたのですか?」

「おや、タクミ。随分威勢よく噴き出したねぇ……かっかっか!」


 急に噴き出した俺を見て、キョトンとするティルラちゃん。

 イザベルさんは何を聞いたかわかっているようで、笑っている……クレアとセバスチャンさんは、俺の様子に対してさもありなんといった風に頷いていた。

 後で話すとセバスチャンさんが言っていたから、完全に全額弁償というわけではないんだろうけど。

 俺も壊さないように扱いには気を付けよう……使う機会があるかはわからないが。


「それじゃ、改めて……ティルラ様、これに手を」

「は、はい!」


 イザベルさんに促されて、もう一度調べるためにティルラちゃんが水晶玉に手を置く。

 先程壊してしまったのと、まばゆい光が発生していたので恐る恐るだったけど。


「ふむ……」

「ど、どうでしょうか……?」


 大きな水晶玉は、先程とは違って淡い光を放つ……それだけでも少し眩しいし、夜間の室内照明以上ではあるんだけど。

 光る水晶玉を眺めながら、考え込むイザベルさん。

 ティルラちゃんは、ギフトの有無の事もあって緊張気味だ。


「成る程ね……これは確かに、壊れても仕方ないのかねぇ。魔力に関しては人一倍……いや、人数倍ってとこさね。上手く扱えれば、一角と言わず後世に名を残す事もできるだろうね」


 人数倍……平均的な人の魔力の、数倍はあるってとこか。

 後世に名を残すのは、魔法を使って活躍し、歴史に名を刻まれるとかそういう……つまり、やり方次第では物凄い活躍ができるって事だろうな。

 ティルラちゃん、英雄の素質でもあるのかな? 気質も人や魔物を思いやれる優しい子だし。


「それでギフトに関してだけどね……」

「「「……」」」


 イザベルさんの続く言葉に、誰も言葉を発せず注目する。

 静かな店内に、外からレオやヴォルグラウ、シェリーの声や、誰かがつばを飲み込む音が聞こえた気がした……。


「間違いない、タクミの時と同じような反応だね。これはギフトを所持している事を示しているさね」

「私に、ギフトが……」


 頷いて、俺の時と同じだと見てティルラちゃんにギフトがあると認めるイザベルさん。

 ティルラちゃんは手放しで喜ぶかと思ったら、意外にも深く心に刻むように小さく呟いていた。


「そうさね……魔力の大きさが邪魔で、少しわかりづらいさね。いやこれは隠されているような……?」


 首を傾げながら、ジッと光る水晶玉を注視し続けるイザベルさん。

 俺の時とは違って、すぐに全ての結果が出ないのはティルラちゃんの魔力が多いからなのか……もしかしたら、慣れない大きな水晶玉を使っているのも関係しているのかもしれない。


「……わかったよ、ティルラ様のギフト。ギフト名は『疎通令言』」

「『疎通令言』……」


 ん? イザベルさんの言った、ギフト名だけど……俺が考えていたのとは少し違うか?

 確か、ジョセフィーヌさんのギフトは、『疎通言詞』だったはずだ。


「本来人の言葉を介さない者とも、それこそ意思ある者なら、意思の疎通ができるさね」

「意思ある者との意思の疎通……それじゃあ、私が聞いていたあの声はやっぱり」

「そういえば、倒れる直前にフェリー達と話していたね、ティルラちゃん」

「はい。もしかしてと思って……」


 ティルラちゃんに聞いてみると、あの時フェリー達の所にいたのは声が聞こえる条件探しをしていたかららしい。

 謎の声が聞こえた時には、いつもレオやフェンリル達……ラーレ以外の魔物が近くにいたから、もしかしてと考えてフェリー達と話しをしようと試みたらしい。

 結果は成功、ただし無意識に使っていた分も含めて、俺達に話そうとした時に倒れてしまったって事みたいだな。

 だからなんとなく、ヴォルグラウを発見する前後あたりから様子が違ったのか。


「つまりティルラお嬢様は、従魔とは関係なくフェンリルやレオ様ともお話ができるというわけですな。……少々難しいギフトだとは思いますが、便利ではありますな」

「そうね。まぁ、話自体はリーザちゃんができるけど、ティルラも話せるならこれからの遊びも楽しくなるかもしれないわね?」

「はい! レオ様やフェリー達といっぱい話して、いっぱい遊べます!」

「……んー」


 セバスチャンさんやクレアが、ティルラちゃんに近付いてギフトが判明した事、能力について喜ぶ。

 ティルラちゃんもレオ達と、通訳的な誰かを介さずに話せると喜んでいる様子だ。

 けど俺は、それとは別の事が気になっている……いや、話せるようになるというのはいい事だと思うけどな。

 無意識に使ってしまわないよう、気を付ける必要はあるだろうけど。


「……タクミさん?」


 クレアは、俺だけが何も言わずに考え込んでいるのに気付いたようだ。

 俺を呼んで首を傾げる。

 ティルラちゃんやセバスチャンさんも、それで俺の様子に気付いたみたいだ。


「いやその……ティルラちゃんのギフトは、『疎通令言』ですよね、イザベルさん?」

「そうさね。間違いないよ」


 クレア達から不思議そうに見られるのは置いておいて、イザベルさんに質問。

 俺から見ると魔法具が光っているだけにしか見えなかったけど、イザベルさんには魔力の大きさやギフト名、能力の内容などもわかっているようだ。

 『雑草栽培』も、能力的な部分も含めて教えてくれたしそれは間違っていないんだろう。


「『疎通言詞』、ではないんですね?」

「……『疎通言詞』? 似ているけど、違うね。間違いなく『疎通令言』さね」

「そうですか……」

「タクミさん、何か気になる事があるのですか? その、『疎通言詞』でしたか……ティルラのギフトと、少し似ていますけど」

「いや、ちょっとね……」


 『疎通言詞』というギフトを公爵家初代当主様のジョセフィーヌさんが持っていた、という話はここではできない。

 詳しい事情も話せないので、言葉を濁す事しかできないな……いずれエッケンハルトさんと会ったら、ジョセフィーヌさんの話をどう扱うべきかを相談しなければ。

 ティルラちゃんには、話しておこうとは思うけど。

 ともあれ、『疎通言詞』とは違う『疎通令言』。


 意志ある者との意思の疎通……つまり会話ができるという事だろうけど、それは疎通の部分だけで完成している。

 残った令言の方が気になるな、あと副効果もだ。

 ジョセフィーヌさんの『疎通言詞』、俺は本人と会った事がないので詳しくはわからないけど、確かユートさんは正しく言葉で話す事ができる、と言っていた。

 だから、意思の疎通と言葉での会話ができるわけだけど……ティルラちゃんのは多分、意思の疎通はできても相手側が言葉を理解できなければ、正しく会話はできないんじゃないかな?



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