第1194話 『疎通令言』というギフトの能力を聞きました



「そうさね。意思ある者との意思の疎通と言っても、ティルラ様には理解できる言葉……声として聞こえるみたいさね。けど、その相手がこちらの言葉を理解できなければ、会話は一方通行ってとこさね」

「やっぱり……」

「そうなんですか……」


 気になって聞いてみると、イザベルさんは俺の考えを認めて頷いた。

 ティルラちゃんは少し残念そうだ。

 まぁでも、レオやフェンリル達、ヴォルグラウやコッカー達も、こちらの言葉は理解しているようだから、特に会話が不成立になる事はないだろう。

 従魔契約をしているラーレは、言わずもがなだ。


「それとね……これは年寄りからの忠告さね。ティルラ様、その能力は扱いを間違っちゃいけないよ」

「扱いを、そうなんですか?」


 イザベルさんからの忠告、俺の時は能力の使い方をよく考えろ的な、クレアからも言われた内容とほぼ同じだったけど、ティルラちゃんには違ったようだ。

 間違った扱いをしちゃいけない、無意識に使い過ぎては危険という意味もあるかもしれないが……もしかして令言の部分に何か……?


「『疎通令言』、これは意思ある者との会話を可能にする、便利な能力さね。でも、相手に言う事を聞かせる……命令する事も含まれているようだねぇ」

「命令、ですか……?」

「そうさね、ティルラ様。ティルラ様の『疎通令言』を使って会話した相手には、その命令を実行する強制力があるようさね」

「それは……扱いによっては、怖い能力ね……」

「そうですな。ティルラお嬢様がこうして欲しい、という意思を込めて発した言葉は、受けた者の意思に拘わらず強制させる事ができてしまいます」


 令言……成る程、そういう事か。

 令は命令の令で、言は言葉の意。

 つまりティルラちゃんが発した言葉は、相手を従わせるような意味を持つ事になる。

 ティルラちゃん自身はキョトンとして、あまり意味が分かっていない様子だけど……クレアやセバスチャンさんは深刻そうな表情になっている。


 その強制力、命令に従わせる意味がわかっているからだろう。

 あと、公爵家で決められている権力を笠に着て、相手の意思を無視して強制させない……とかにも引っかかってしまう可能性がある。

 まぁ使っているのはギフトで、権力を使っているわけじゃないけど、ティルラちゃんは公爵令嬢でもあるから傍から見たらそう見えてしまってもおかしくない。

 令嬢と言うには、ティルラちゃん自身が元気いっぱいだけど、それはともかくだ。


「……あ、でも……そうか……」

「おや、タクミは何か気付いたみたいだね?」

「イザベルさん、随分意地悪な言い方だったんじゃないですか?」

「私ゃ、単にギフトの能力を解説しただけだねぇ。それを、どう解釈するかはそれぞれださね」


 ふと、思い当たる事があって自分なりに納得していると、イザベルさんがニヤリと笑った。

 それに対し、もう少しちゃんと教えても……という思いからイザベルさんに返すと、飄々ととぼけられた……まぁ、間違ってはいないんだけど。

 とにかく、イザベルさんのこの反応は、俺の推測が正しい事の証明でもある。

 

「……どういう事ですか、タクミさん?」


 俺とイザベルさんのやり取りを不思議に思ったクレアから、訝し気に質問される。

 セバスチャンさんも同様だ。

 ティルラちゃんはやっぱり、頭にハテナマークを浮かべている感じで、首を傾げているだけだけど。


「俺の『雑草栽培』と一緒なんですよ。どこでも、植物を栽培できる……まぁ、栽培というか作り出すに近いかもしれないけど。とにかく、本来は場所を選ばない」


 イメージして手を触れて発動させるだけで、種などもないのに植物が生えてくる様は、もはや栽培と言うよりも創造に近いけど……。

 でも、そこから数を増やしたりもできる事から栽培になっているんだろうな、と今では納得している。


「そういえば、そうですね。確か以前は、オークを相手に『雑草栽培』で薬草を作り出したと」


 生き物相手に植物を生やすなんて、やりたいとは思わないけど……オークに対しては不可抗力だった。

 その時恐れたのが、俺が誰かに触れて植物を生やした挙句にその相手の命を奪ってしまう事。

 オークなんかの、襲って来る相手ならまだしも……俺に近しい相手、クレアやティルラちゃん達に発動してしまったら、と考えて一時期怖かったのを覚えている。


「その時、イザベルさんに話を聞いてクレアにも話したけど、発動させる時の意思次第って結論だった」

「……ほぉ、成る程成る程。そういう事ですか……確かに、これはタクミ様が言うようにイザベルが意地の悪い言い方をした、と捉えられますな」


 あの時セバスチャンさんは、一緒にイザベルさんと話をしたからすぐに思い当たったようだ。


「なんだい、私ゃ悪者かい?」

「いえ、聞いていたこの場の全員が能力の扱いについて考えさせられて、良かったのかもしれませんな」


 いじけるふりをするイザベルさんに、苦笑するセバスチャンさん。

 さっき俺も意地悪な言い方と言ったけど、確かに能力を正しく扱うために考えるきっかけとしては、良かったのかもしれない。

 クレアやセバスチャンさんが、深刻に考えてしまいそうだったけども。


「えーっと、つまりどういう事ですか? 私の能力、使っちゃ駄目なんでしょうか?」

「そんな事はないよ。もちろん、常に使っていたら倒れてしまうから、使う場面は考える必要はあるしどう使うかも考えなきゃいけないだろうけど……」


 難しい表情をしているティルラちゃんに笑いかけながら、ギフトに関する説明をする。

 途中から、ほとんどセバスチャンさんが説明する事になったけど、俺が説明するよりも客観的に話してくれたから、助かった。

 要は、ティルラちゃんの『疎通令言』は意思の強さによって、命令の強制力が変わるって事だ。

 多分だけど強い意志を持った発言なら、人間相手にも命令をきかせられるとは思う……けど、無意識やちょっと会話を楽しむ程度であれば、そこまで強制力は発揮されないだろうって事。


 実際、ギフトが発現したと思われる前後で、ティルラちゃんの言葉を不自然に実行しているような人はいなかったと思う。

 顔見せの時、ティルラちゃんの自己紹介を皆が真剣に聞いたり、しっかり聞いていた風だったくらいかな……あれがティルラちゃんの成長かと思っていたけど、ギフトの効果も含まれていたんだろう。

 とはいえ、命令と言う程の実行力や強制力は発揮されていなかったからな――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る