第1175話 デウルゴとの話を始めました



「余計な話はいい。お前の従魔を保護した二人が、話を聞きたいそうだ。ほら、座れ!」

「ってぇな! もう少し丁寧に扱え! こちとら、何もしてねぇのに捕まえられた善良な人間なんだぞ!」

「うるさい! いいから座れ!」


 ヴォルグラウが、小さく鳴いて項垂れたのを見て、衛兵さんがデウルゴを掴んで有無を言わさぬよう、椅子へと運ぶ。

 これ以上放っておいたら、ヴォルグラウに何を言うかわかったもんじゃないから、衛兵さんグッジョブだ。

 ある程度覚悟していた俺やセバスチャンさんはともかく、シェリーがヴォルグラウの背中で体を伏せさせたまま、歯をむき出して毛を逆立てているからなぁ……。

 多分、デウルゴに対して怒っているんだろう……デウルゴ本人は、衛兵さんに文句を言っているので気付いていない。


「では、後はお任せします」


 椅子にデウルゴを座らせ、向かいに俺とセバスチャンさんが座り、衛兵さんが会釈してデウルゴの後ろの壁へ……その近くに、数センチくらいある複数の穴が見えるから、そこからクレア達が覗いているんだろう。

 衛兵さんは、デウルゴが振り向いた時の目隠し役か……日頃は、向こう側で布か何かを被せてあるっぽい。


「ありがとうございます。――さて、デウルゴさん、でしたかな?」

「あぁ? なんだお前らは」


 セバスチャンさんから話しかけてすぐ、デウルゴからは睨みが返って来る。

 けど、セバスチャンさんはそんな睨みにも涼しい顔だ……まぁ、出身が出身だし、縛られている男相手だからこれくらいの事なんともないんだろう。

 俺も、精いっぱい虚勢を張っているようにしか見えなくて、特に迫力は感じない。


 ……ディームの方がよっぽど迫力があったし、オークの方が怖さも感じる。

 ちなみにヴォルグラウとシェリーは、俺の足下に伏せをしてもらって、テーブルを挟んで向かい側にいるデウルゴから見えないようにしてある。

 あまり、デウルゴからシェリーを見せない方が良さそうだからな。


「私はセバスと申します。こちらは息子のタクです」

「……どうも、タクです」


 俺、タクなんだ……まぁ、セバスチャンさんも同じく一部を省略しているし、デウルゴに名前を教えないためだろう。

 ただ、やっぱりセバスチャンさんに息子と言われるのは、なんだか違和感があって居心地が悪い。 


「セバスとタク? 聞いた事ねぇが……その二人がどうしたって、ヴォルグラウを保護してんだ? いや、どうやって生き返らせた」

「いえいえ、何を仰いますか。このウルフは一生懸命生きていましたよ。怪我は確かにしておりましたが……」


 生き返らせるなんて、いくら『雑草栽培』があってもできるわけがない……できないよね?

 瀕死のシェリーを助けた実績はあるけど、ヴォルグラウは瀕死ですらなかったからな。

 酷い怪我はしていたが、ロエであっさり治る怪我だ……通常はロエでの治療なんて望めないのはともかくとして。


 ロエで治るという事は、放っておいても死に至るような怪我ではなかったという事。

 まぁ、手当も何もせず、動けないまま水や食べ物がなければ別だろうけど……致命傷は治せないのがロエだからな。


「なんだと? でたらめを言うんじゃねぇ! 俺は確かにあの時、魔法で貫いたはずだ! ヴォルグラウに腹を見せるように言って、無防備にまでさせたんだ!」


 こいつ、わざわざヴォルグラウを殺すために、無防備な恰好をさせたのか……。

 お腹は生き物にとって急所だ。

 犬もそうだけど、警戒していたらお腹を見せるなんてしないはずなのに。

 それを、従魔契約をしているのをいい事に、ヴォルグラウにさせたうえで魔法攻撃を加えたのか。


 虐待や捨てるどころか、確実に命を狙ったってわけだな。

 理由はともかく、こいつにヴォルグラウは返せないのは間違いないな。 


「ですが、このウルフ……ヴォルグラウというのでしたかな? こちらは怪我はしていましたが、確かに生きておりましたよ。わざと無防備にさせても、止めを刺せないくらいだったのでしょうな」

「んだと……?」


 ヴォルグラウを発見した時、セバスチャンさんはいなかったのにまるで見ていたかのように言っている……まぁ、詳細はちゃんと伝えていたからなんだけど。

 しかしセバスチャンさん、デウルゴを挑発するように言うなぁ。

 まぁ、シェリーも話を理解していて毛を逆立てさせながら怒っているし、セバスチャンさんも怒っているんだろう。

 俺も腹に据えかねているのは間違いないが……。


「あぁ、従魔にしていたから、手心を加えたのですかね? 一緒にいれば、情が移りますからなぁ」

「手心なんて、加えてねぇ!」

「でしたら、貴方が未熟だっただけの事ですか。ヴォルグラウも未熟な主人を持つ事になって災難ですな……」

「俺ぁ、ウルフを従魔にできる。従わせるためにウルフにも打ち勝てるんだぞ? そんな俺が、未熟なわけがねぇだろ!」


 挑発するセバスチャンさんに、叫ぶデウルゴ。

 実際のところはどうなのかわからないけど、お腹を見せて無防備なヴォルグラウを仕留められなかったという意味では、確かに未熟だ。

 ただ、経緯はどうあれヴォルグラウがデウルゴの従魔である事は事実……確かに、ウルフを相手に戦って勝ち、契約へと至ったんだろう。

 俺達みたいに、レオがいてくれるからウルフやフェンリルが最初からおとなしい、という事もないからな。


「ですが実際、この通りヴォルグラウは生きておりますが? これこそが、未熟である証左ではないですかな?」

「くっ! てめぇ……いや待てよ? そもそもそいつ、本当にヴォルグラウなのか? 確かに似ちゃあいるが、ウルフの見た目なんて大体似ている。どこかから別のウルフでも連れてきたんじゃねぇのか?」

「はぁ……わざわざそんな事をする理由なんて、ありませんが」


 セバスチャンさんが挑発しているせいだろう、未熟だと認めないデウルゴは、連れて来ているのが本当にヴォルグラウなのかを疑い始めた。

 まぁ、自分が確実に仕留めたと考えているようだから、疑いたくなる気持ちもわからなくもないが……自分が従魔にしたウルフの見分けも付かないのか?

 以前ラクトスで従魔になっているウルフが、レオの前に来た時に見たけど……ある程度特徴があるもんだけどな。

 確かに似ているが、大きさとか顔つき、毛の色はほぼ同じでも少しだけ違ったり長さも違うし、細かい事を言えば、吠える声なんかも多少違ったりするし、性格も違って仕草も違うのに。


 まぁこれらは、俺がレオやフェンリル達に囲まれて過ごしている事が多いからかもしれないが……。

 フェンリル達も、パッと見ただけなら結構似通ってはいるからな――。



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