第1174話 セバスチャンさんと仮の親子になりました



「こういった詰所には付き物なのですが……」


 セバスチャンさんによると、詰所などは取り調べをする事が多い……まあ、当然だな。

 ただ、そうした部屋には必ず隣接した部屋から、様子が窺えるようになっているのだとか。

 それは取り調べをしている相手が、不審な動きを見張るためとかいろんな理由があるらしいけど……とにかく、必要な事だと説明された。

 あれかな、刑事ドラマとかで取調室の壁の一部がマジックミラーになっていて、中からは隣の部屋は見えないけど、隣の部屋からは中の様子が丸見えで、話し声はマイクを通じて聞こえるという、あの部屋かな?


 マジックミラーがあるかはわからないし、マイクは当然ないだろうから、頭に浮かんだ部屋とは別物だろうけど……とにかくクレアとティルラちゃんは、そちらの部屋で待機という事らしい。

 俺とセバスチャンさんが、ヴォルグラウを保護した人物としてデウルゴと会う事になった。

 もしここで、契約破棄についてデウルゴが拒否したら、レオに頼んで強制的に解除する方向になる。

 説得が通じる相手かはわからないが、ヴォルグラウの今後のために頑張ろう。



 先に別部屋に向かったクレアやティルラちゃんに続いて、デウルゴがいる部屋に向かう俺とセバスチャンさん、それからヴォルグラウとシェリー。

 シェリーはクレアと一緒にと思ったんだけど、ヴォルグラウの背中を降りようとしなかった……気に入ったのかな?

 

「おぉそうでした」

「ん?」


 詰所の廊下を衛兵さんに案内されながら移動している途中、ふと何かを思い出した様子でセバスチャンさんが立ち止まった。


「これから、私とタクミ様は親子という事で通しましょう。タクミ様もそうですが、私も公爵家の執事というわけにも参りませんからな」

「そうですね……俺はともかく、セバスチャンさんの身分を明かしたら、クレア達を別室に行かせた意味もあまりなくなりますし」


 親子か……公爵家との関わりを隠すにはちょうどいいだろう。

 まぁ、年齢的には祖父と孫にした方がしっくりきそうだったけど、セバスチャンさんが親子と強調したので、野暮な事は言わないでおこう。


「そういう事です。それに、ヴォルグラウを保護した親子、という事で通した方が話しもしやすいでしょう」


 嘘を言うのは気が引けるけど……相手が相手だからな。

 善良な村の人を騙すわけじゃないから、セバスチャンさんの話に乗っておく事にする。


「ヴォルグラウ、シェリーも、間違えないようにな? 特にヴォルグラウ」

「バ、バウ」

「キャウ」


 俺が言うと、緊張しながらも頷くヴォルグラウと、任せてと言うように頷くシェリー。

 シェリーはまぁ、あまり気にしなくてもいいんだけど……ヴォルグラウは従魔契約をしているため、デウルゴに言葉が通じてしまうからな。

 特に注意が必要だ。


「では、タクミ様……おっと、タクミ。私の事は?」

「お父様……だと一般的ではないですね。えっと、父さん、親父?」

「父さん、の方がタクミらしくはあるな。呼びやすい方でいいが……」

「それじゃ、親父で。父さんというのは、ちょっと抵抗がありま……あるから」

「わかった、それで行こう」


 練習のため、セバスチャンさんとお互いの呼び方喋り方を確認。

 砕けた口調というか、いつも丁寧な話し方をするセバスチャンさんに、ちょっとした違和感を持ちながらも、親父と呼ぶ事に決めた。

 父さんと呼ぶのを躊躇ったのは、お爺さんの方がしっくり来そうだなと思った事以外にも、こだわりではないが、思い入れみたいなものがあるからだ。

 いつか、伯父さんの事を父さんと呼べたらな……なんて考えていた時期もあったから。


「お待たせしました。では参りましょう」

「はっ。……こちらになります。私は同席した方が?」

「そうですね……デウルゴを見張るためにも、よろしくお願いします。話はこちらで進めますが、いてもらった方がよろしいでしょう」

「はっ」


 廊下で立ち止まり、待たせていた衛兵さんに言って案内を続けてもらう。

 すぐにデウルゴを捕まえているらしい部屋の扉の前で止まり、同席してもらう事も決まった。

 まぁ、捕まえた人物と衛兵さんの見張りなしで面会、というのも変な話だろうから、いてくれた方がいいんだろう。


「入るぞ」

「「失礼します」」


 衛兵さんが扉を開き、セバスチャンさんと一緒に中へと入る。

 部屋の中は、俺の中にある取調室のイメージに近く、簡素なテーブルが真ん中にあって椅子が複数。

 棚などは一切なく、窓もなかった……あと、よく刑事ドラマなどで見るような、部屋の隅に記録係用の机やいすなどもない。

 ……そりゃそうか、捕まえてはいるけどまだ囚人というわけでもないんだから。


「デウルゴ。お前の従魔を保護した方……者達が面会に来た」

「あぁん? 従魔だぁ?」


 衛兵さんが声を掛けたのは入り口から見て、右奥の部屋の隅。

 そこで、後ろ手に縛られて足も縛ってある男が、壁に寄りかかって座っていた。

 座っているというより、縛られているから座るか横に転がるくらいしかできないんだろうな。

 あれがデウルゴか……。


 長い髪を後ろで束ねて、お世辞にも整っているとは言えない……髪を整える発想がないのかもしれない。

 体型は中肉中背で、ある程度鍛えている様子が窺える。

 服装は少々汚れている以外は、特筆すべきところはないな……汚れているのは、捕まえる時に暴れたからだろう。

 あとは、目つきが悪く声を掛けた衛兵さんを睨んでいるくらいか。

 まぁ、捕まえられた事を不満に思っているから、剣呑な目つきになるのも仕方ないけど……多分元々あまり目つきのいい人物ではなさそうだ。


「バ、バウ」

「本当に、ヴォルグラウか。てめぇ、どの面下げて俺の前に戻って来やがった。そもそも、殺したはずなのになんで生きてやがる……」

「バゥゥ……」


 おずおずと、部屋に入って俺の横に来たヴォルグラウが、デウルゴに対して鳴く。

 ヴォルグラウの声で、衛兵さんを睨んでいたデウルゴは少しだけ目を見開いて、驚きと共にそう吐き捨てた。

 口が悪いのは覚悟していたけど……デウルゴ、ヴォルグラウがあれで死んだと思っていたのか。

 俺が見た感じ、それなりに酷い怪我ではあったけど死ぬほどじゃなかったんだが。


 予想に反してヴォルグラウが丈夫だったのか、デウルゴの攻撃が弱かったのか……。

 とにかく、攻撃をした後何も確認せずにあの場を去ったのだけはわかった――。



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