第1160話 ヴォルグラウに従魔契約の破棄について話しました



「ヴォルグラウ。君を従魔にした主人との関係についてなんだけど……」

「バウゥ……」


 デリアさんを交えて、従魔に辛く当たり苦労をさせる主人ならば、従魔契約を破棄する事も考えた方がいい事を伝える。

 そしてその方法も。

 もちろん、セバスチャンさんに教えてもらった圧倒的な魔力で、というのは話していないけど……あれは最終手段だからな。


「正直なところ、何かの事故でとかならまだしも……ヴォルグラウから聞いた話によると、そのデウルゴっていう人物がヴォルグラウに対してわざと怪我をさせるのは、許せないと俺は思っている」


 他の魔物に襲われて、とかだったらどれだけ良かった事か。


「しかも、そのデウルゴはヴォルグラウに怪我をさせた後、捨てるようにその場を去っている……つまりその……」

「タクミ様、そこははっきり言った方がヴォルグラウのためだと思います」

「グルゥ」


 ヴォルグラウはデウルゴに捨てられた……怪我をした従魔を置き去りにして去って行くなんて、それくらいしか考えられない。

 だけど、その言葉を直接いうのを躊躇っていると、デリアさんから注意されたうえ、フェリーも同意するように頷いていた。

 ……野生というか、獣人とか魔物にとっての厳しさみたいなものなんだろうか。

 まぁ、ヴォルグラウも子供じゃないし……子供じゃないよな? 体は大きく成長しきっているように見えるし。


「ふぅ……ん! ヴォルグラウ、君はデウルゴに捨てられたんだと思う。詳しくは、本人を捕まえてからになるけど、状況的にはそうとしか考えられない」

「バゥ……」


 息を吐き、甘い自分を律するように厳しめの表情を作って、ヴォルグラウにはっきりと伝える。

 実際に厳しい表情ができたかどうかは、鏡がないのでわからないが……。

 ヴォルグラウは、悲しそうに小さく鳴いて俯いた。


「大丈夫か、ヴォルグラウ?」

「バゥ……キューン」

「そうか、わかっていたんだな」


 思わず、慰めるために撫でようと伸ばした俺の手に、顔を上げたヴォルグラウが頬を擦り付けるようにした。

 現実を直視するのは辛いけど、元気があるとは言えないが尻尾を揺らしているから、わかっていた事だったんだろうな……。


「だから、ヴォルグラウが従魔契約を破棄すると決心するなら、デウルゴの方はなんとかする。……主に俺ではなくてクレア達がになるだろうけど。ヴォルグラウはどうしたい?」


 デウルゴが何を考えているのかは捕まえてからだとしても、契約破棄をさせるように動く事に決めた。

 いや、内心では強制させるのはどうかな……と思う部分があったんだけど、ヴォルグラウが悲しそうにする姿や、健気に振る舞う姿を見て、決心……いや決意した。

 ヴォルグラウに言ったように、俺が直接というよりもクレア達に頼んでやってもらう、という情けない事にはなると思うけどな。


「バウ。バウ、バウバウ。キューン、クゥーン……」

「ヴォルグラウ自身は、捨てられたのだから必要ない自分はそうするしかない、だそうです。ただ楽しい事もあったから、それはそれでと……」


 俺の問いかけに答えるヴォルグラウ。

 従魔になった経緯やデウルゴとの関係は、俺にはわからないけど……懐いていたのは間違いないんだろう。

 ヴォルグラウ自身も、契約を破棄する方がいいと考えているようだけど、それがいざ離れると考えたら未練というか楽しい思い出があるから切ない、といったところだろう。

 従魔契約すると認めて、一緒の時間を過ごしたんだからそれも無理はないか。


「バウ……バウゥ? バウ、バウバウ……バゥゥ」

「それにと、もし契約がなくなったら自分はどこへ行けばいいのか、わからないんだそうです。もう前にいた場所には戻れないだろう、とも言っています」

「成る程……今後の身の振り方かぁ」


 首を傾げたり、考えたりするような仕草をするヴォルグラウ。

 そうか、これまでは虐待っぽい事をされていても一応はデウルゴと一緒に暮らしていたんだから、契約がなくなったらどうなるかってのは、考えると不安になるだろう。

 元の場所、ヴォルグラウが元々どこにいたかはともかく、自由だと戻っても居場所を作るのは大変そうだからな。

 今は一時的にクレアさんが預かっている、という形式になっているけど、デウルゴを捕まえて契約を破棄した後の事は特に決まっていない……けど。


「その事なら心配しなくて大丈夫だ。この屋敷にはもうレオ以外にフェリー達フェンリルや、ラーレとかコッカー達もいる。ウルフが一体増えても大丈夫だろうからな」


 フェンリルはこれからもっと増える可能性もあるし、ウルフが一体増えたところで大きな負担にはならない、はずだ。

 もちろん、俺だけで決めていい事じゃないから、クレアさん達と相談する必要があるけど……断られる事はないと思っている。


「それにもしこの屋敷が駄目でも、ランジ村……って言ってもわからないか。もうしばらくしたら俺達は別の村に移住する予定なんだけど、そこならもっと広く走り回れるくらいの場所があるからな」


 薬草園の方でなら、ある程度俺も自由に決められる。

 フェンリル達も常駐する事になるんだし、屋敷の裏庭よりも広々と走り回れるはずだ……ここでも、屋敷の外に出れば同じだけど。

 ヴォルグラウさえ良ければ、村の入り口で番犬になってもいいかな? というのは、俺の勝手な考えだし、レオやフェンリル達がいるのに番犬が必要かどうかは疑問だが。


「バウゥ……」


 俺の誘いに、考えるように首を傾げながら鳴くヴォルグラウ。

 その視線はフェリーや、離れた場所にいるレオ達の方をチラチラと見ている。

 多分、フェンリルやレオがいる環境に、ちょっとだけ怖い気持ちがあるんだろう……さっきまで恐怖で硬直していたくらいだし。

 絶対敵わない相手と、一緒にいるというのは本能的に恐怖してしまう事なのかもな。


 フェリー達は、すぐに慣れてレオと一緒に楽しく遊んだりしているようだけど。

 あれは、ティルラちゃんやリーザが間にいるのが大きいか。


「グルゥ、グルルル」

「バウ!?」

「えっと……?」


 転がっていたフェリーが、そのままの恰好で声を掛けるように鳴き、ヴォルグラウがハッ! となっていた。

 何を言ったんだ、フェリー? というか転がったままって、本当に寛いでいるな――。


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