第1159話 デリアさんとヴォルグラウに話す事にしました



 フィリップさんの事を考えながら、さらに場所を移動しつつ、手に持っているハンバーガーを食べているデリアさんとしばらく話す。

 意外でも何でもないけど、この世界……特に村という小さなコミュニティでは、フィリップさんのような人柄よりも、ニコラさんのような真面目な人の方がモテる、という役に立つのかわからない話も聞いた。

 ラクトスのような、人の多い街になるとまた違って来るのかもしれないけど。


「そうだ、デリアさん。ヴォルグラウの事は、聞いている?」

「あのウルフの事ですね。リーザ様……ちゃんや、レオ様から聞いています」

「そっか。それじゃあ、これから話をしようと思っていたから、一緒にいてくれる? 俺じゃヴォルグラウが何を言っているかわからないから」


 一緒にいるついでに、ヴォルグラウと従魔契約に関して話しておこうと思っていた事を切り出す。

 今日じゃなくてもいいんだけど、こういう事はできるだけ早い方がいいからな。

 多分、明日か明後日には、デウルゴは見つかるだろう……それだけ、増えているとはいえラクトスにいて従魔を連れている人物というのは、目立つらしいから。

 あと、衛兵さん達の尽力と公爵家の威光もあって、かな。


「それならリーザちゃんや、レオ様の方がいいのではないですか? いえ、私もヴォルグラウの言葉はわかりますが」

「できれば、リーザにはあまり聞かせたくない気がしてね。レオもそうなんだけど……」


 レオにはヴォルグラウの事情を聞いて、ラクトスを出るまでに話してある。

 できればリーザには従魔との関係性とか、人間の悪い部分には関わって欲しくないと思っているから……今回はヴォルグラウとの話だけど、従魔と主人の関係を切り離す内容になる。

 レオも同じく、人間や獣人、フェンリル達やラーレ、コッカー達と楽しく過ごしているのだから、なんとなく気にさせたくないという思いがある。


「そうですか。ですけど、リーザちゃんもレオ様も、それくらいの事で落ち込むような事はないと思います……タクミ様の頼みですから、私はもちろん喜んでお引き受けしますが」

「多分、そうなんだろうけどね。まぁ、これは俺の我が儘かな」


 生きていれば、嫌な物汚い物を見る機会なんていくらでもある。

 けど、優しい人が多いこの世界、特にこの場所では、できるだけそういった物に触れて欲しくないという思い、リーザは特にスラムでこれまで辛い思いもいっぱいして来たから。

 親代わりとしての、勝手な願いかもしれないけど。


「わかりました。では、私がヴォルグラウの言葉をタクミ様にお伝えする、という栄誉を引き受けさせて頂きます」

「栄誉とかは大袈裟だけどね。あー……うん、もちろん終わったらちゃんと褒めないとなー」


 頷き、夜でもはっきりわかるくらい、こちらをキラキラした目で見つめて来るデリアさん。

 求める事が何か、ブレイユ村で過ごしてよくわかっている。

 ちょっと白々しい言い方になったけど、終わったらちゃんと褒めよう、うん……年上のデリアさん相手というのは、かなり不思議な気分だけど。

 耳が横に向いてペタンと倒れさせ、ヒコーキ耳になって既に撫でられ待ちだったり、尻尾が高い位置でブンブン振られていたりするけど……それはヴォルグラウとの話が終わってからですよ、デリアさん。



 と、いうわけで、俺が呼び出すとレオやリーザが興味を惹かれてついて来そうだったので、デリアさんに頼んでヴォルグラウを呼んで来てもらう。

 上手く誘い出してくれたようで、レオやリーザはシェリーやティルラちゃんと楽しそうにしている。

 それはいいんだけど……。


「フェリーも一緒にいるのは?」

「グルゥ?」

「誤魔化せませんでした……多分、レオ様も何か察しているようでした」

「そ、そうなんだ……」


 デリアさんの後ろからついて来ていたのは、ヴォルグラウだけでなくフェリーもだった。

 お酒も入って声が大きくなっている従業員さん達の声が、遠くでなんとなく聞こえるくらいの離れた場所に移動しながら聞いたけど、上手く誘いせてはいなかったらしい。


「グルゥ、グルルルゥ」

「バウ?」

「えーっと、フェリー達には私達の会話が聞こえていたそうです。ヴォルグラウはわからなかったようですけど……」

「動物……いや、魔物の聴覚すごいなぁ」


 まぁ、犬でも人間の聴覚より優れているし、フェンリルともなればさらになんだろう。

 レオはマルチーズだった頃、ドロップイヤーと呼ばれるたれ耳だったのに、今はブリックイヤーと呼ばれる立ち耳になっているのもあって、以前より遠くの音がよく聞こえるようになっているんだと思う。

 あと、シルバーフェンリルだし……最近、シルバーフェンリルと言えばなんでもありだと思い始めていたりする。

 ヴォルグラウは多分、フェンリル達に囲まれている状況に緊張していたりで、俺達の話声まで気にする余裕がなかったからだろうと思うけど。


 何はともあれ、レオにも聞かれていたのに来ていないという事は、俺の考えを尊重してくれたんだろう。

 できればリーザに聞かせたくないってやつだ。

 ……本当に、レオが満足するまで褒めて構ってやらないといけないな。


「ま、まぁいいや。ここは俺とデリアさんがヴォルグラウと話すから、フェリーは退屈だと思うぞ?」

「グルゥ、グルグルルゥ」

「お腹もいっぱいなので、退屈なくらいがちょうどいい、だそうです」

「グルゥ~」


 フェリーにとっては面白い事なんてないだろうと思ったんだけど、デリアさんが通訳してすぐ、お腹を見せて転がった。

 服従の証だとか、甘えてお腹を撫でて欲しいというわけではなく、単純に寛いでいる様子だな。


「グル~グルル~」


 若い者には敵わん、みたいな事を楽しそうな鳴き声で言われてもな……フェンとあれだけの戦いをしておいて、老いて衰えているとでも言うつもりだろうか?

 実際年齢は人間からすると、かなり高齢みたいだけど。

 もしかしたら、フェンに負けたのを気にしているのかもしれない……リルル曰く、群れのリーダーに強さは関係ないらしいから、負けてもリーダーの地位を追われるとかではないみたいだけど。

 ……拗ねているのかもな。


「……フェリーに関しては、またにしよう。本来の目的に取り掛からないとな」


 気分を切り替え、ヴォルグラウと向き合って本題に入った――。



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