第1137話 雇用証代わりの物を配りました



「次は……ガラグリオさん」

「はい!」


 呼ばれてガラグリオさんが、大きく返事をして前に出てきた。

 一通りレオを撫でた後、再び整列してもらって向かい合い、持って来ていたタイニーライトを皆に配っている。

 俺が雇う人限定だけど、一人一人名前を呼んで手渡しだ。

 ちなみにタイニーライトは、横にいるアルフレットさんが箱に持ち、全員の名前はライラさんがコッソリ教えてくれている……まだ顔と名前が全部一致していないからな。


「どうぞ。このタイニーライトを証とします」

「ありがたく……もう治らないと思っていた足を治して頂いたタクミ様には、身命を賭して働きで応えて見せます!」

「……あまり、無理はしないで下さいね?」


 恭しく両手で受け取ったガラグリオさんは、一歩下がって俺に対し深々と頭を下げる。

 『雑草栽培』のデモンストレーションとして利用させてもらった、と俺は考えているから、感謝は程々に……とは思うけど、ガラグリオさんからしたら恩に感じるのも仕方ない事か。

 ほとんど動かせず、不自由していたみたいだから。

 何はともあれ、無理はしない程度に頑張って欲しい。


「次、コリントさん……」

「はぁい」


 雇う人達の名前を呼び、タイニーライト配布を続ける。

 豆電球っぽいタイニーライト……一応魔法具だけど失敗作と言われるだけあって、値段は安い。

 それなりに知っている人はいるらしく、タイニーライトに驚く人はほとんどいなかったけど、俺から直に渡すというのが歓迎されている様子だ。

 受け取った人たちはそれぞれ、忠誠を誓うとか、命令に従いますとか言っていた……俺、部下を雇うだけで、配下を持つわけじゃないんだけど……。


 ガラグリオさんとリアネアさんは特に、怪我の後遺症を治したのもあってか、他の人よりも意気込みが凄かった。

 なんとなく、さっき俺が皆に行ったはずの無理はしないで欲しい、という言葉を忘れられていそうだったので、最初はアルフレットさん達と一緒によく見ておかないとな。



「ふぅ……ようやく終わったかな」

「お疲れ様です、タクミ様」

「いえいえ、ライラさんも……他の人達もですけど、補助助かりました。――レオも、偉かったぞー」

「ワフワフ~」


 タイニーライトを渡し終わって一旦解散し、家具などを選ぶためにアルフレットさんやセバスチャンさんの案内で、ハインさんの雑貨屋へ向かう皆。

 見送った後に息を吐く俺を労ってくれるライラさんに感謝し、レオもしっかり褒めておく。

 まぁ、レオは撫でられていただけだけど、それでもおとなしくしてくれていたからな……男の子の相手も、俺が狙った通りあやすような感じで対応してくれたし。

 俺やクレアなどは、皆が自由に選ぶために行かない事になっている……上司の目があったら、緊張して好きな物を選べないかもしれないから、というのは考えすぎかもしれないけど。


 雑貨屋に行った皆は、家具を選ぶ前に一緒に働く人達の交流会も兼ねて昼食会も行うらしく、そこで俺の『雑草栽培』で薬草園を作る目的などの説明をする予定だ。

 こちらも俺やクレアは参加しないけど……説明の機会不足だったセバスチャンさんは、ここで活躍してもらうつもり。

 広い空き地に残ったのは、俺とクレア、レオとシェリーに、リーザとライラさん、それからエルミーネさんと護衛のフィリップさん達だ。

 子供達も解散したし、カレスさんも店に戻ったので空き地が随分と広く感じる。


「それじゃ、私達も行きましょうか。タクミさん」

「そうだね。――レオ、偉かったからたっぷりソーセージを食べさせてやるからなー!」

「ワッフー!」

「ママ、嬉しそう」

「レオ様が美味しそうに食べるところ、私好きですよ」


 クレアに促されて、レオのご褒美としてソーセージを約束しつつ、昼食をとるために移動。

 ソーセージと聞いて尻尾をブンブン振るレオに、大人が少なくなって安心したリーザとティルラちゃん。

 機嫌のいいレオを連れて、まずは以前に行ったカフェに向かう。

 常連とは言わないまでも何度か行った事があるので、店員さん達もレオに慣れているし、オープンカフェなのでレオがいられるスペースがあるからな。


 ソーセージはライラさんとエルミーネさん、ニコラさんが屋台で買って来てくれるので、俺達は先に席の確保だ……昼食時を少し過ぎているから、混んではいないと思うが。

 俺達の飲み物や食べ物は、カフェで頼むけど。


「それにしても、ティルラちゃんには少し驚いた」

「私ですか?」

「そうですね、私もタクミさんと同じく驚きました」


 移動しながら、解散前の一幕を思い出して呟く。

 ティルラちゃんは首を稼げているけど、クレアは俺と同意見だったのか頷いた。

 タイニーライトを渡した後、皆のこれからの働きに期待する……みたいな事を皆の前で行った後、ティルラちゃんが俺やクレアの前に出たんだ。

 それ自体は予定になく、空き地へ皆を連れてくる前にティルラちゃんの紹介を済ませていたから、どうしたのかと思ったけど……。


「『姉様とタクミさんをよろしくお願いします』だもんなぁ」


 実際にはもう少しティルラちゃんが皆に向けて話してはいたんだけど、要約するとそういう事だ。

 ティルラちゃんはティルラちゃんなりに考えたのか、皆に俺やクレアの事をお願いして頭を下げたってわけだな。

 公爵家のご令嬢……直接関係しているわけではないと言える、ティルラちゃんが頭を下げた事に皆だけでなく、俺やクレアどころか、セバスチャンも驚いていた。

 でも全員、なんとなく穏やかな気持ちでティルラちゃんの言葉を聞いていた……背伸びをして頑張る子を見るような心境だったからだろうか?


「でもティルラ、どうして突然あんな事を皆に言ったの? いえ、責めるわけでも問い詰めるわけでもないのだけど……」


 ティルラちゃんに聞くクレアは、確かに責めたりするような口調ではなく、むしろどこか成長を喜ぶような雰囲気だ。


「それはその……姉様も、タクミさんも……リーザちゃんやレオ様もですけど。皆に頑張って欲しかったから……です?」

「……どうして最後が疑問形なのかしら? でも、ありがとう。嬉しかったわ」

「そうだね、俺も嬉しかったよ。ありがとうティルラちゃん」


 答えづらそうな、ちょっと詰まりながら話すティルラちゃん。

 どうも言っている内容とは別の事を考えているようにも見えるけど、俺やクレアの事を思っての行動、というのは間違っていないだろうから、クレアと一緒に感謝を伝えた――。



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