第1053話 リーザにも意見を聞いてみました



「それにしても、ある意味壮観……なのかな?」

「ワフ?」

「いや、なんでもないよ」


 フェンリル達が並んで伏せをしている首には、唐草模様の風呂敷が巻かれており、そこに荷物が入っているんだけど……ちょっと面白い光景だった。

 呟いた俺に、レオが首を傾げたので誤魔化しつつ、それぞれに乗って屋敷を出発。

 レオには俺とクレアとリーザ、フェンにはチタさんとシャロルさん、リルルにライラさんとティルラちゃんがそれぞれ乗っているんだけど……。

 フェリーにはヴォルターさんとキースさんにアロシャイスさんという、男三人でぎゅうぎゅうになりながら乗っているので、落ちないか少し心配だ。


 こうなったのは、今は大丈夫だけどヴォルターさんが降りたがって暴れた時、おとなしくさせるための配慮だとか。

 前にキースさん、後ろにアロシャイスさんで挟んで抑えるつもりらしい。

 ヴォルターさん……頑張ってください……。


 ちなみに、クレア達が行くのに護衛がいない……と思いきや、先に馬に乗ってフィリップさん達が出発しているらしく、ラクトスの街で合流予定だ。

 レオやフェンリル達がいれば、道中の安全は保障されているようなものだしなぁ。

 代わりに、おとなしくしておかなきゃいけない街中は、フィリップさん達が護衛するって形に落ち着いた。



「そういえばタクミさん、使用人は誰にするかもう決められましたか?」

「いや、ぼちぼち考えてはいるんだけど……まだ決まってなくて」


 ラクトスの街への道中、レオの背中に一緒に乗っているクレアから聞かれる。

 使用人候補の皆さん、ある程度それぞれと話をしたり、シャロルさんやアロシャイスさん以外にも、個別に話を聞いたりしたけど……まだはっきりとは決めかねている。

 アルフレットさんを選ぶとしたら、奥さんのジェーンさんも選ばないといけないだろうし……ヴォルターさんはセバスチャンさんが何か言いそう。

 他にも、チタさんはレオやフェンリル達の近くにいる方が楽しそうではあるけど、ちょっとそちらに夢中な感じで他の事が疎かになりがちな事がある。


 エミーリアさんはほんわかした雰囲気の人なのだけど、ちょっと動きが遅かったり……いや、動きが遅くてもちゃんとやってくれるのなら十分なんだけど。

 対照的にシャロルさんは、完璧主義なところがあるのか、何かをするにしても全ての手順などを確認してからとか、キースさんはちょっとセバスチャンさんに雰囲気が似ているなどなど……。

 使用人候補の皆さんは、当然ながらそれぞれに個性があって、あの中から誰かを選ぶというのが難しい……数日見ただけでも、まったく失敗しないわけじゃないけど、皆屋敷の使用人さんに交じって仕事ができるのを確認しているから。

 一応、本人達と話したり、ある程度俺の中で基準を作って決めた方がいいかな? とは考えているし、セバスチャンさんとも相談したりして全く決まっていないわけではないんだけども。


「そうなのですね。タクミさんがランジ村での薬草畑を運営するうえで、やりやすい人を選ぶのが一番だと思いますが……リーザちゃんは、どう思う?」

「んー、どうしたのクレアお姉ちゃん?」


 後ろで、何事かを考えている様子だったクレアは、俺越しで前にいるリーザへと問いかける。

 リーザにはあんまり詳しく話していなかったから、よくわからず首を傾げていた。


「タクミさんと一緒に仕事をするのは、誰がいいかな? って話よ。ここしばらく、タクミさんやリーザちゃんの周りに、人が増えたでしょ? あの中から、タクミさんが選んで一緒に仕事をするの」

「一緒にいるから、リーザも拘わる人達だよ。リーザは、最近屋敷に来たあの人達を見て、どう思った?」

「うーんとね……皆、優しくしてくれるよ?」


 クレアの説明に補足し、俺もリーザに問いかける。

 耳をピクピクとさせて、少し考えてから頭を思いっきりうしろに倒して俺を見上げ、答えてくれた。

 まぁ、基本的に皆物腰は穏やかだし、教育されているのか礼儀正しい……むしろ、そのあたりをよくわかっていない俺が失礼な事をしているんじゃないか、と思うくらいだ。

 リーザにももちろん優しく接してくれているし、俺が見る限りでは獣人に対して差別的な視線を向けたりもしていないはず。


「あ、でも……」

「何かあるの、リーザちゃん?」

「えっと……いいのかな? パパと一緒にお仕事する人なんでしょ?」

「リーザが思った事を言っていいんだよ。全員と仕事をするわけじゃないし、それを選ぶために今考えているんだからな」


 ふと、何かを思い出した様子のリーザ。

 クレアが聞くと、少し躊躇する様子で俺を窺った……何か言いにくい事でもあるのかな?

 ともかく、リーザが思った事を聞いて参考になればとも思うから、優しく諭して促した。


「うん、えっとね……名前は、なんだったかな。忘れちゃったんだけど……ちょっと、嫌な感じがする人がいたの」

「嫌な感じ? えっと、それはどんな人? 今、フェンリル達に乗っている人?」

「ううん、フェリー達には乗っていない人だよ。お兄さん? おじさん? うーん、なんだかわからないけど、ちょっとだけ変な感じがしたの」


 フェンリル達に乗っていないって事は、屋敷に残った人達の中にいるのか。

 お兄さんやおじさんなら、男性で……リーザから見てお兄さんと呼んでいいのか、おじさんと呼んでいいのか迷うって事は、そこまで若くもない……。

 屋敷に今残っている男性は、アルフレットさんとウィンフィールドさんと、ジルベールさんか。

 アルフレットさんは、年齢を感じさせる皺があって、ロマンスグレーと言っていい感じなので多分違う。


 ジルベールさんは、童顔で年齢的には俺と同年代だけど、少年にも見えるからこちらも違う。

 となると残っているのはウィンフィールドさんか?

 あの人は、アロシャイスさんと同年代でリーザから見れば、おじさんと呼んでいいのか迷いそうだ。

 リーザから見て、二十を過ぎていれば大体おじさんと呼ぶ、なんて基準がなければだけど。


「リーザちゃんが嫌な感じ……なんとなく気付いた事を、変な感じや嫌な感じとして受け取っているんでしょうけど……ウィンフィールド、かしら?」

「……俺も同じくその人が思い浮かんだよ。今屋敷に残っていて、年齢的にリーザがどう呼ぶか迷いそうな人は、その人かなって」


 消去法で考えて出たのが、ウィンフィールドさんだったんだけど……クレアも同じように考えたんだろうか……?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る