第1018話 それぞれの紹介を終わらせました



 アルフレットさんの言葉に、クレアが首を振る。

 けどまぁ、ユートさんの話が本当なら、ギフトの『疎通言詞』だったっけ……? それのおかげでシルバーフェンリルだけでなく、フェンリルとも意思疎通ができたらしいしなぁ。

 こちらの世界に来てしばらくは、森の中で暮らしていたみたいだし、親しくしていたのは間違いないんだろう。

 一部貴族の当主にしか知らされない事だから、公爵家ではエッケンハルトさんしか知らない事だけど……そろそろクレアには教えておいてもいいんじゃないかな?


 俺だけ知っていて、誰にも話せないのはちょっと心苦しい。

 ……おっと、今はその事ばかりを考えている状況じゃないな。


「今見た通り、レオもフェンリル達も人間に対して、襲おうとかそういう考えはありません。もし人間を襲おうとしていたら、お腹を見せて撫でさせるなんて事もしませんから」

「そ、そのようですね」


 本当に、野生はどこに行ったのかと問いかけたいくらい、無防備な姿をさらしているフェンリル達。

 今も屋敷の使用人さん達にお腹を撫でられて、ご満悦だ……いつの間にか、リーザとティルラちゃんもレオのお腹を撫でていた。

 これ以上ないくらい、危険ではない照明にはなるけど……それでもやっぱり、恐怖心は中々拭えなさそうだなぁ。


「タクミ様の近くには、常にレオ様がおります。そしてあそこにいる……獣人の子供、リーザ様もです。フェンリル達もレオ様が従っている関係でしょう、タクミ様の言う事をよく聞きますな。そして、タクミ様に仕えるという事は、レオ様やフェンリルの近くにいる事にも繋がります」

「とは言っても、基本的には屋敷や本邸と使用人のやる事は変わらないわ。食事の用意など、ちょっとしたお世話をする事はあると思うけどね」

「だから、レオ達と会う事は重要な事でもあったんです。それじゃ、それぞれ紹介していきますよ」

「は、はい……」

「私達、とんでもない方の所に来たのですね……」

「……可愛い」


 セバスチャンさんの言葉をクレアが継ぎ、さらに俺が締めて、フェンリル達にアルフレットさんを紹介するために動き出す。

 頷くアルフレットさんと、呆然と呟くジェーンさん。

 唯一、一人だけ一番若いメイドのチタさんだけは、別の事を呟いていた……ライラさんも初めて会った時に同じような事を言っていたし、これは見込みがありそうだ。

 ……レオ達を恐れない事と、使用人としての能力が比例するかはわからないけども。



 ――それぞれ屋敷に来た使用人さん、フェンリル達の顔合わせを済ませて、今度は裏庭の別の場所へ。

 アルフレットさん達は、体を震わせたながらもなんとか自己紹介をしたけど、フェリー達からも自己紹介とばかりに吠えられた時は、何人かが涙目になっていた。

 さすがに、紹介する時までひっくり返っているわけにはいかないので、フェリー達が大きな体を誇示するように立ち上がっていたからってのもあるんだろう。

 ラーレもその時、ティルラちゃんが自慢するように紹介、コッカー達も一緒だ。


 コカトリスの子供がいる事にも驚いていたようだけど、それ以上にラーレ……カッパーイーグルだという事実に驚愕していた。

 そういえば、ラーレって種族名はそんな名前だったっけ。

 書物で得た知識なのだろう、ヴォルターさんが特に驚いていた。


「ここは? 見た所、薬草が幾つか栽培されているようですが……」

「エッケンハルトさんは、俺の能力の事を伝えていないようなので、説明するより見た方が早いと思うのでここに」

「これらの薬草は、全てタクミ様が作られた物です」


 皆を連れてきたのは、裏庭の隅にある簡易薬草畑……ランジ村に行くまでの間、色々と研究するための場所だ。

 その場所で、キョロキョロと辺りを見回す使用人さん達。

 薬草だとすぐにわかるのは、さすがだ。

 レオ達はさっきいた場所でリーザ達と遊び始めたので、距離が離れてアルフレットさん達もかなり落ち着いた様子だ。


「タクミ様の能力ですか? 薬草が栽培されておりますし、ランジ村でやろうとしている事は聞いていますから……薬師なのですか? いえ、栽培という事は庭師?」

「うーん……どちらでもあってどちらでもない、ですかね?」


 首を傾げ、栽培されている薬草と俺を見比べながら話すアルフレットさん。

 俺自身、自分の職業が何かと問われてもはっきり答える事ができないな……。

 困ってセバスチャンさんに視線を向けてしまった。


「タクミ様は薬草から薬を作りますが、薬師ではありません。そして薬草などの植物を作りますが、庭師などでもありません。タクミ様は言葉通り、植物を作る事ができるのです。端的に言えばそうですな……造植者というところでしょうか」


 造植者……造園家とかとは違うのか。

 まぁ、植物を作る人という意味では、そのままだけど。


「造植者……植物を作ると言いましたが、よくわかりません。そんな事が可能なのでしょうか?」

「セバスチャンさんが言ったそのままです。ちょっと特殊な能力を持っているので、作れるんですよ」


 アルフレットさんの疑問に答えつつ、少し離れて簡易薬草畑の近くにしゃがみ込む。

 後ろの方で、クレアが「ちょっとどころではありません」と言っていた気がしたけど、まぁ、些細な事だと思う。

 一応、これもユートさんの話になるけど、異世界から来た人物が確実に持っていて、その子孫が時折受け継いで生まれる事があるのだとか。

 国に一人いるかいないかというくらいには、珍しい能力だ。


「な、何をされるので……?」

「まぁ、見ていて下さい、すぐにわかりますから」


 何もない地面に手を付いた俺を見て、声をあげるヴォルターさん……アルフレットさんとジェーンさん、ヴォルターさんはそれなりに話していたから、見なくても声を覚えたな。

 ともかく、百聞は一見に如かずだ、『雑草栽培』を見せるために適当な植物を思い浮かべて作り出す。

 ゴム茎にしようと思ったけど、新種っぽい植物だと伝わらないから別のにしよう……まぁ、やっぱり俺が作る薬草と言えばこれだな。

 この世界で色々なきっかけになってくれた薬草だ。


「……よし、できましたよ」

「ラモギ……? 先程まで、確かに何もなかった地面にラモギが……」


 一番作り慣れている薬草、ラモギを数個作って立ち上がり、皆に見せるように手で示すとヴォルターさんが真っ先に反応していた。

 これも書物などで、ラモギの形をよく知っていたからだろう――。



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