第1017話 レオの芸を皆に見せました



「とりあえずそうですね……ちょっと見ていて下さい」

「な、何をなさるので?」

「レオ達が危険じゃないって事を見せようかと」


 本当に危険ではない、との証明になるかは微妙ではあるけど、こちらの言う事を聞いてくれるのはわかるはずだ。

 そう思って、アルフレットさん達から離れてレオに近付き、声をかける。


「レオ、お手!」

「ワフ!」

「おかわり! からの……おねだりのポーズ!」

「ワウ! ワフー! ハッハッハッハ!」

「よーしよし、ちゃんとできたなー? 偉いぞ!」

「ワフワフ」


 レオの前にまずは右手を差し出し、お手をさせ、次に逆の左手を出しておかわり。

 さらに、後ろ足だけで立たせて前足をクイクイと動かすように指示。

 俺の合図で動いてくれるレオは、久しぶりにやって嬉しいのか、尻尾をブンブンとふりつつ舌を出して楽しそうだ。


 先程お座りさせた時と同じように、フェンリル達も同じ動きをしていたけど……動作を真似するように言ってあるんだろうか? いや、野生を感じさせない代わりに、可愛いんだけどな。

 でも、皆も一斉に動いたらまた怖がらせたりしないだろうか……?


「「「「……」」」」


 レオを褒めるように撫でながら、顔を巡らせてソッと後ろを見てみると、絶句している人々の姿が……。

 視線はレオに行っているようだから、多分フェンリル達を怖がってはいない……と思う、多分。

 怖がっていないといいなぁ。

 こうなったら、やれるとこまでやってやろう!


「レオ……バーン!」

「ワウー」

「よーしよし」

「ワフワフ~」


 皆の前ではちょっと恥ずかしいけど、手を拳銃のような形にして、レオに向かって撃ったように口で効果音を出す。

 すると、コロンと横になったレオがそのまま、お腹を見せる……あ、転がった時尻尾がフェリーの顔に軽く当たった。

 それをきっかけにしたのか、フェリー達も同じように転がってお腹を見せる……一斉に動くと結構壮観だな。

 これはマルチーズの時はやらなかったんだけど、大きくなってからはこちらの意図を察する事ができるのか、反応してくれるようになったんだよな。


 レオを褒めてお腹を撫でながら、視線でライラさんや屋敷の使用人さん達を促し、フェリー達のお腹も撫でてもらう。

 ちなみにラーレは、ブレイユ村のフェルの時にコツを掴んだのか、フェンのお腹をくちばしでつついていた……フェンが気持ち良さそうに声を漏らしていたりする。

 コッカー達はリルルのお腹の上に乗っているな……どさくさに紛れて、自分達も撫でてもらおうとしているのかもしれない。

 さて、やり切ったのを見た皆の反応は……?


「「「「……」」」」


 うん、さっきと同じように言葉を失って絶句している。

 今度は怖いというよりも、戸惑いとか驚きが勝っているようで、ヴォルターさんも含めて皆口をあんぐりと開けている。

 変な方法だったけど、少しは恐怖心が薄れてくれたかな。


「今見た通り、レオ様はタクミ様の言う事に従い、我々にも非常に友好的です。そして、こちらが害をなさない限り襲われる事はありません」


 フォローするように、説明を挟んでくれるセバスチャンさん。

 どう言えばいいのかわからなかったから、正直助かった……ありがとうございます。


「……た、タクミ様だけでなく、この屋敷の使用人も慣れているのですか?」

「友好的ですからな。レオ様もそうですが、フェンリルの皆様も撫でたり食事をする事が楽しいようですので。屋敷の者は皆、恐れる事はありません。それどころか今では、フェンリル達を撫でるのも当番制になる程ですよ」


 そんな当番がいつの間にかできていたのか……まぁ、お腹もそうだけどフェンリル達の毛はふんわりしていて、触り心地がいいからなぁ。

 そういえば、まだレオやシェリーしかいなかった頃、何度も使用人さん達が撫でたそうにしていた事もあったっけ。

 結構、この屋敷にいる人達って物怖じしないところがあるよなぁ……アルフレットさん達も、同じようになってくれたらいいんだけど。


「こ、こんな……シルバーフェンリルやフェンリルが、人間の言う事を聞くなんて。書物にはフェンリルと争った記述はあれど、人間と親しくなったという記録はないのに……公爵家の初代当主様ですら、シルバーフェンリルとだけだったはず」


 問題がない事を示すように、ニコニコしながらレオから離れてアルフレットさん達の所へ戻ると、ヴォルターさんが信じられないと言った様子で呟いていた。

 フェンリルと戦った歴史とかはあるのか……まぁ、物語でとかかもしれないし、昔は本当に争った事もあるのかもしれない。

 初代当主様、ジョセフィーヌさんの事に関しては書物などの記録には残っていないらしいし、ギフトのおかげか、本当はフェンリルとも俺と同じく親しくしていたみたいだけど。

 全部、ユートさんの言葉なので多分真実だろう……実際に見ていた人の言葉だしな。


「初代当主様は、シルバーフェンリルと懇意にしていた……という事は公爵家に仕える者なら、誰もが知っているはずよ。そして、レオ様が仰るにはフェンリルはシルバーフェンリルには本能で従うと。つまり、どういう事かわかるわよね?」

「クレアお嬢様……は、はい……」


 驚きっぱなしの皆を見るに見かねたのか、クレアがシェリーを連れてこちらに近寄り、話す。

 実際に目の前で示されたのだから、否定する材料はないヴォルターさんが頷く。

 二度目のフェンリルの森へ行く前だったか、レオがフェンリルと遭遇しても本能で従うのだから、問題ないというような事を言っていた。

 フェリー達の様子を見ていれば、それが間違いない事なのだとはっきりとわかる事だ。


「初代当主様は、シルバーフェンリルだけでなくフェンリルとも親しくされていた可能性もあると……今、この場でタクミ様がやって見せた事のように」

「それはわからないわ。伝わっている話では、フェンリルの群れに囲まれたところを、シルバーフェンリルに助けられた。それはシルバーフェンリルが蹴散らしたのか従わせたのか……そもそもフェンリルが本当に初代当主様を囲んで襲おうとしていたのかすら、定かではないのだから」



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