第1006話 地面に落ちていてもリーザは気にしないようでした



「よし、できたぞー。ほら、フェリー?」

「グル! グルゥ~」


 話しているうちに、温めて混ぜて成形した鍋型のゴムおもちゃの二つ目が完成。

 早速尻尾を振りながら、フェリーが噛み始める。

 うん、大丈夫そうだ。

 明日には、フェルやリルルのも作らないとな。


 だから、俺の方をジッと見ないでリルル。

 伏せの状態で背中にシェリーを乗せて、一緒に見るのは止めて欲しい、ちゃんと明日作るから。

 フェルの方は、フェリーが齧っている様子を羨ましそうに見たり、どう? どう? と言っているような鳴き声をあげている。

 けどリルルは、自分のは絶対に欲しいと主張するように、シェリーも使って俺を見つめていた。


 ティルラちゃんやリーザも、楽しそうなレオやフェリーを見てちょっと羨ましそうなので、こちらも何か作らないといけないかもしれない。

 ……ゴムの用途に関しては、しばらくおもちゃ用になりそうだな。

 手のひらサイズのゴムボールがあれば、子供が遊ぶのに丁度良さそうだ。




「ほら、こうして……ゴムとゴムを合わせて見るとわかるけど、滑らないでしょ?」

「本当ですね、不思議です。くっ付き合っているような風にも見えます」

「ほぉ……」

「あとは、何か他にも使える物があったような気がするんだけど……なんだったかな?」

「他にも……ゴムの用途は、多岐にわたるのですね。ふふ、少し面白いです」


 ゴムおもちゃ作りはまた明日にして、ゴムが滑りにくいのを実演して見せる。

 成型する必要がないので、さっきクレアやセバスチャンさんに渡した物を使ってだ。

 二つのゴムを重ねて滑らないのを、クレア達にも渡して試してもらう。

 クレアは楽しそうに、セバスチャンさんは感心するようにゴムを重ね合わせていた。


「くちゃくちゃ……っ!」

「ん?」

「あー、リーザちゃん!」


 初めてゴムを見るクレアさん達の様子を眺めていると、何やらリーザとティルラちゃんが騒ぎ始めた。

 いや、正確には大きな声を出しているのはティルラちゃんか。


「どうした……って、リーザ?」

「あ、パパ! これ甘くて美味しいよ?」

「タクミさん、ごめんなさい。リーザちゃんが地面に残っていたのを、食べちゃいました」

「え!? リーザ、あのゴム食べたのか!?」

「ううん、まだー。噛むの楽しいし、甘いから口の中にあるよー」

「良かった。……リーザ、落ちている物を食べたらいけないぞ? とりあえず吐き出しなさい」

「えー……わかったよ、パパ」

「はぁ……」


 ティルラちゃん達の方を見てみると、俺が最初にゴム茎を作ったあたりで何やらやっていた……というか、地面に落ちて小さな水溜まりになっていた樹液、もう完全に固まっている物の端を取って、口の中に入れたらしい。

 もごもごしているリーザに焦ったけど、まだじっくり噛んでいたようで安心し、飲み込まないよう吐き出させた。

 地面に出したゴムは、リーザの歯の痕がくっきりついていて、思わずそれを見て溜め息が出てしまった。

 熱していない樹液は、甘い匂いがするから釣られたのだろうか? 夕食の時間も近いし、お腹が減ったんだろう。


 当然ながら、地面に落ちた物をそのまま口に入れるのは、こちらの世界でもしない事。

 だけど、リーザはスラムでの経験があるから、食べられそうな物だと感じたら平気なのかもしれない……子供が何でも口に入れる、という事があるけど、それと合わせて気を付けないとな。


「タクミさん、リーザちゃんが美味しいと言っていましたけど、これって食べられるんですか?」

「いや、ゴムだから食べちゃいけない物だよ。リーザが飲み込んでなくて良かった……」


 ティルラちゃんが地面に残っているゴムを見ながら、首を傾げて聞いて来る。

 ほんの少しくらいなら、飲み込んでも排泄されるだろうから多分害はないと思うけど……さすがになぁ。

 喉に詰まらせてもいけないし、ほとんど消化されない物だったと思うから、大量に飲み込んだら危険だしな。


「パパ、ごめんなさい……」

「ん、リーザ。地面に落ちているのを、かってに食べたらいけないぞ?」

「うん。美味しそうな匂いだったからつい……ごめんなさい」


 俺が険しい顔をしていたからか、俯いて謝るリーザ。

 体が震えているのは、いけない事をしてしまったと気付いたからだろうか。

 リーザを怖がらせるつもりはないので、眉間に寄っていた皺を伸ばすように意識しながら、注意だけはしておく。


「タクミ様、リーザ様が美味しいと言っていたのが気になりますが……このゴムという物は、食べられるのですか? いえ、吐き出させたという事は、食べられない?」

「セバスチャンさん。いや、さすがにゴムは食べられませんよ。人間は消化できないので、場合によってはお腹を壊すだけでは済まないと思います」


 セバスチャンさんから、ゴムについて聞かれる。

 ゴムって人間はちゃんと消化できない成分、だったはず。

 獣人はどうかわからないけど……リーザやデリアさんが、他の人と変わらない食事をしているのを見る限り、内臓機能はあまり変わらないと思っている。

 だから多分、獣人であっても食べちゃダメな物のはずだ。


「ふむ、美味しいのに食べられない。確かに近くに顔を寄せると、甘い香りがしますが……少々独特ではありますが」

「そうなんですよね。レオも言っていましたけど、俺も甘い香りがするのが気になっていたんです」


 セバスチャンさんが、しゃがんで地面で固まっているゴムに近付きながら話す。

 独特と言っているのは、花とかの甘い匂いではなく、かといって砂糖菓子のような匂いでもないからだろう。

 なんというか、添加物が入っているような……この世界ではなく日本で嗅いだ事のある、匂いに感じる。

 うーん、お菓子っぽい甘い香りだけど、どこで嗅いだんだったか。


 ゴムと関係する? いや、お菓子にゴムは入っていないはず。

 飲み込んだらいけないし……噛むくらいなら問題ないけど。

 んー……噛んでも飲み込まない?


「あ、もしかして……」

「どうしましたか、タクミさん?」


 噛んでも飲み込まないお菓子、と思い浮かんで一つよくあるお菓子が思い浮かんだ。

 確かあれは、原料だったり元になっている物だったような――。


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