第998話 ラーレが落ち込んでいました



「タクミさん、ライラを泣かせては行けませんよ!」

「いや、泣かせるつもりはないんだけどね……?」


 これ以上、この話を続けるのは危険な気がする。

 この屋敷の使用人さん達は、常にからかったり苦言を呈する機会を窺っているんだ! 嘘だけど。


「と、とにかく。クレア達からも言われていると思うけど、ティルラちゃんはもう少し誰かを頼ったり、相談する事にした方がいいと思う。結果的に、相談しない方が迷惑になったりする事もあるって、覚えておけばいいかな」


 子供だからというのもあるけど、俺含めてティルラちゃんを心配する人は多い。

 それに、公爵家のご令嬢でもあるから、色々と大きな騒ぎになってしまう事だってある。

 あと、ラーレも使えば下手をしたら地獄絵図に……とまで言わなくとも、街一つを混乱に陥れてしまう可能性もあるから。

 まぁラーレは色々と加減してくれるようだけど、そう考えれば、ティルラちゃんとラーレはいいコンビなのかも?


「わかりました。今回の事は反省し、今後は誰かに相談して動く事にします!」

「動く事は決定なんだね……まぁ、相談するだけマシかな?」


 そういえば、似たようなやり取りをこの屋敷に来てすぐしたような気がする。

 クレアが森に一人で行った事を、セバスチャンさんが注意した時だったか……やっぱり姉妹なんだなぁ。

 相談さえしてくれれば、止める事もできるだろうし、その相談された人が誰かに言って無茶な事をしないようにする事だってできるだろうから、とりあえずはいいのかも?

 叱られて反省しているだろうから、今回のような事は起こらないはずだしな……多分。


「それじゃ、レオやリーザに会いに裏庭に行こうか?」

「は、はい。レオ様やリーザちゃん……それからフェン達にも謝らないといけません」

「まぁ、あんまり意気込まなくてもいいと思うけどね」


 レオはともかく、リーザは気にしていなさそうだし、フェン達はむしろ外を走れて楽しそうだったから。

 リーザに関しては、以前スラムに住んでいた事もあって、ティルラちゃんなら大丈夫みたいな感じだったんだろうと思う。

 ラーレもいたしな。

 ともあれ、ライラさんを伴って、ティルラちゃんと一緒に裏庭へ向かった。



 裏庭に出ると、レオがリーザを包むように丸くなって日向ぼっこしており、フェンリル達はお腹を使用人さん達に撫でられている様子。

 コッカー達の姿が見えないが、どこかで植物に付いた虫の駆除をしているんだろう。

 シェリーはフェリーの近くで、布のボールを齧るのに必死になっているようだ、まだ生え変わりでムズムズするのもあるが、おもちゃみたいでお気に入りなんだろう。

 それから、ラーレは……。


「ラーレ、どうしたんですか?」

「あらティルラ。ちゃんとタクミさんには謝れたの?」


 レオ達を見守っていたクレアに近付き、ティルラちゃんがラーレのいる方を見ながら首を傾げる。

 クレアは、ティルラちゃんへのお説教が終わった後ここに来たんだろう……セバスチャンさんがいないのは、事後処理みたいなのがあるからかな?


「はい、謝って許してもらいました」

「ティルラちゃん、反省しているようだったよ」


 ちゃんと謝れたと報告するティルラちゃんと、俺からもクレアに報告しておく。


「そうですか。まぁ、あれだけ色々と言われたら、反省もしますよね。私も、あの状況になりたくはないと、強く感じました……」

「……クレアも、ティルラちゃんを叱る一人だったはずだけど?」

「それが……最初は私とセバスチャンだけだったのですけど……」


 ティルラちゃんが叱られている時の様子を思い出しているのか、少し苦笑いをするクレア。

 聞いてみると、叱っている途中に次々と使用人さんが来たらしい……その時に、ティルラちゃんが言っていた、頼りない云々の話になったんだと思う。

 結局、途中からはクレアもセバスチャンさんも、言いたい事が言えなくなったのだとか。


 最初にちゃんと叱っていて、小言を言うだけになっていたから良かったらしいけども。

 ともあれ、ティルラちゃんの事を心配していたというのが根底にあるとしても、寄ってたかって色々と言っていた光景を見て、自分も同じような状況にならないように、と感じたって事だな。


「それで、ティルラちゃんも聞きたそうにしていますけど、ラーレは一体どうしたんですか?」


 叱られている時の様子を聞いた後、裏庭に来て一番気になる光景……隅の方で項垂れているラーレの事を聞く。

 首を縮めて、大きな体をできるだけ小さくしているラーレは、俺達に背を向けている状態。

 だけど、その背中からは哀愁が漂っているように感じた。


「その……私はティルラに、タクミさんに謝って来なさいと言って送り出してから、ここに来たのですけど……あ、すみません。その後に聞いたのですが、ハルトンが来ていたと? お邪魔じゃなかったですか?」

「スリッパの試作を持ってきてくれたんだ。ティルラちゃんが来たのは、ハルトンさんが帰ってすぐだから、邪魔にはならなかったよ」


 もしかしたら、見送りしているのを見てティルラちゃんが様子を窺っていたのかもしれないけど。


「そうですか、お邪魔にならなくて良かったです。それで、この裏庭に来た時、レオ様が激しく吠えていまして……」

「レオが?」

「レオ様がですか?」


 クレアが教えてくれた事に、ティルラちゃんと一緒に首を傾げる。

 レオが激しく吠えるって、この世界に来てほとんどなかった。

 魔物に対してくらいかな? 遠吠えはあったけど。

 裏庭は、屋敷の玄関や客間とは逆方向にあるから、俺やティルラちゃんには聞こえなかったんだろう。


「シェリーもそうですけど、フェンリル達も怯えてしまって……レオ様が何を言っているのかも、私にはわかりませんでしたけど、ラーレを叱っていたんだと思います」

「ラーレに向かって吠えていたんですね」


 どうやら、レオが吠えていたのはラーレを叱るためだったらしい。

 俺以外はシェリーやリーザの通訳をしないと、レオが何を言っているのかわからないけど、それでもラーレに向かって吠えていたら、叱っているってわかるか。

 多分、レオはティルラちゃんを連れだして危険な目に合わせたとか、心配をかけさせたとかって言っていたんだろうと思う、想像だけど――。



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