第992話 部屋で荷物の整理をしました



 シェリーを見送った後は、部屋に戻ってリーザが買った物を保管。


「リーザ、この引き出しの中に小遣いの入った箱を入れておくからな?」

「うん、わかった。えっと、外に出る時は箱の中から小さい袋に入れ替えて、持って行けばいいんだよね?」

「あぁそうだ。箱よりも革袋の方が持ち運びが楽だからな。あと、お小遣いを貯める時も箱の中にな?」

「うん!」


 部屋にある机の引き出し、その一番下をリーザ用にする事にして、お金を入れておくための箱と革袋を入れる。

 俺が公爵家から受け取っている、薬草作りの報酬などは別の場所だ。

 そっちはいくつかの革袋に分けてあるけど、引き出しに収まらないくらいになっているから……そろそろ金庫とかが欲しいところだ。

 まぁ、ランジ村での家作りにかかった費用や、家具などの代金を払えばだいぶ減るはずだけど。


「ワフゥ? スンスン……」

「ん、どうしたレオ?」

「ママ?」


 引き出しや小遣いの管理についてリーザと話していると、レオが横から鼻先を引き出しに近付け、匂いを嗅ぐ。

 何か気になる匂いでもあったかな?


「ワフワウ、ワフー」

「成る程な。匂いを覚えておいて、もし誰かに取られても取り返せるようにか……」


 レオが匂いを覚えて、もしなくなったらすぐに探せるように、という事らしい。

 とはいえ、屋敷の人達が取る事なんてないだろうし、なくなったりはしないだろうけど……リーザが持ち出して落とした時に備えて、と考えておくかな。


「ママがいてくれれば、何も心配ないんだねー」

「ワウ!」


 リーザの言葉に、安心しろとばかりに頷いて鳴くレオ。

 頼もしい限りだ。


「ねぇねぇパパ、これはどこにしまっておく?」


 お金の管理に関しての後は、リーザが買った物の入った袋を持ち上げ、俺を見上げて首を傾げる。

 布や包帯、火を点けるための魔法具だな。

 使う事があるかはともかく、布や包帯は取り出しやすい場所がいいだろうけど、火を出す魔法具と一緒に置いておくのはなぁ……火事には気を付けないといけないし。


 同じ理由で、お金をしまった場所にも同様だな。

 まぁ、誰かが触れて魔力を加えなければ、火が出る事はないと聞いたんだけど……なんとなくライターやマッチを保管するような感覚になってしまう。


「それかぁ、うーん……どうするかなぁ……というかリーザ、よく考えたらリーザ用の部屋もあるし、そっちでも……」

「やー! パパやママがいるこの部屋がいいの!」

「そ、そうかぁ」

「ワフゥ……」


 そういえば、リーザが来てすぐの頃に部屋が用意されていたはずなんだが、それはリーザが寂しがるからという理由で、ずっと一緒に過ごしてきた。

 物を保管するくらいなら、そっちでも……と思ったけど、リーザは嫌がるように首を振った。

 うん、リーザに慕われている実感のようなものが沸いて来て、困りながらも嬉しかったりしない……わけはない。

 レオはそんな俺に対して溜め息を吐いていたけど。


「そうだなぁ……布や包帯は、服の棚にわかるように置けば大丈夫かな。もし使う事があっても、すぐに取り出せるだろうし」

「うん! でも、こっちの石は?」

「うーん……大丈夫なんだろうけど、ちょっと気になるなぁ。とりあえず、机の隅に置いておこう。これもすぐに使うわけじゃないけど、日用品とも言えるからわかりやすい場所がいいだろう」

「わかったー!」


 布や包帯は、他の布物と一緒に……わかりやすく保管する事に決め、魔法具は机の隅に。

 大きな机だし魔法具の石も大きくないから、邪魔にはならないだろうからな。


「ワフ……?」

「ママ、どうしたの?」


 まず近くの机に石を置いて、布や包帯をしまうためにリーザが袋から取り出す。

 すると、伏せをした体制のままのレオが急に布へ顔を寄せ、リーザが首を傾げた。


「レオ? あ!」

「あー、ママ駄目ー!」

「ガフ! ワフガフー!」


 袋から出た布の端を、レオが口の先……多分牙に引っ掛けて引っ張った。

 俺とリーザが慌てるが、首を振って布を振り回すレオは、尻尾をブンブン振って楽しそうだ……それ、おもちゃじゃないんだが。

 それに、レオの大きさからすると噛んでいる感覚とかほとんどないんじゃないだろうか?


「もー、ママー! んー!」

「ガフ~。ガフガフ……」


 リーザが大きな声を出しながら、レオが振り回す布を捕まえて引っ張る。

 首を振るレオが、リーザの手が届きやすい場所に来た瞬間に飛びついたから、捕まえられたんだろうけど、よく反応できたなぁ……俺には難しそうだったのに。


「んー! んー!」

「ガフガフ~」


 リーザが両手で布の端を引っ張り、レオが口に力を入れて引っ張る……まぁ、犬と遊ぶときなんかによくやる図になっている。

 全力で引っ張るリーザに対し、レオは余裕すら感じられるけども。


「こらこら、引っ張り合いしていると、布が破れるぞ?」


 なんとなく懐かしい光景に、注意する言葉もあまり強く言えない。

 そういえば、レオとはこうやって引っ張り合いで遊んだっけなぁ……その時は布ではなく、犬用のおもちゃだったが。


「……レオの方が優勢みたいだな。まぁ、体の大きさからして違うから、当然だろうけど」


 引っ張り合いの遊びって、やり過ぎると犬の歯が折れたり傷付く事もあるから、人間側が手加減したりあまり長くやらないものなんだけど、リーザの方が引っ張られ始めているから、平気そうだ。

 シルバーフェンリルになった影響か、剣すら噛み砕けるくらいだから、凄く丈夫な歯……というか牙なんだろう。


「もー、パパも手伝ってー! んー!」

「はいはい、よっと……!」

「ガフ~」


 遊びではなく必死なリーザに請われ、俺も加勢する。

 俺の力も加わったのに、まだまだ余裕が感じられる鳴き声のレオ……敵わないのは当然だよなぁ。

 そんな風に、突発的にレオと遊ぶ事になった。

 リーザは必死なようだけど、笑顔になって来ているから楽しんでいるようだ。



「はぁ……ふぅ……レオ、加減はしたんだろうけど、やっぱり力強いなぁ」

「ワフ~」


 全力で引っ張り合い、荒くなった呼吸を整えながら苦笑。

 レオは満足気な表情で鳴きながら、尻尾を振っている。


「もー、ママってば……布が破けちゃった……せっかく買ったのに」


 当然ながら、そんな引っ張り合いをしていたら破れてしまう布……破れたから遊びは終了になったんだけども。

 ともあれ、二つになった布を持って頬を膨らませているリーザ。

 途中から楽しくなった影響か、悲しんだり本気で怒っているわけでもなさそうだ。

 うぅむ、頬を膨らませたリーザも可愛いなぁ――。



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