第969話 レオを風呂に入れたあと就寝しました



「ワゥ……」

「まぁまぁ、綺麗にしておかないといけないから、我慢してくれ」


 裏庭で遊んでいる時にはしゃぎ回っていたレオも、今はしょんぼりしている。

 夕食後のティータイムの時に決まった事が原因なんだが……仕方ない。

 苦笑しながらレオの体を撫でて慰めつつ、一緒にいる他の皆に顔を向けた。


「ではこれより、レオの体を洗います」

「はい!」

「はーい」

「ワフゥ……」


 溜め息を吐くレオはともかくとして、今俺達がいるのは風呂場。

 そして声をかけた相手は、リーザとティルラちゃん、それにライラさんとゲルダさんに、クレアだ。

 ティータイムの後、ブレイユ村への往復や裏庭での遊びなどで、レオの毛が汚れてきているのに気付いたのが理由。

 お風呂に入れようかなぁ……という事を言ったら、リーザやティルラちゃんがやる気になり、クレアも確認のために参加して、そこからライラさんやゲルダさんも……となった。


 まぁ、以前教えたレオの洗い方講座の確認も含めてだな。

 俺がいない間、一度だけリーザが一緒に入りたがってレオを風呂に入れたらしいんだけど、ついでにその時の事の確認もしたいからってのもあるらしい。

 ブレイユ村にレオが来た時、気になる程汚れたりはしていなかったので、確認しなくても大丈夫だとは思うんだけど。


「えーと、ではまず前回も言ったように、お湯が苦手だからお水をレオの全身に……」


 濡れても問題ない服に着替えた皆に、前回と同様実演しながらレオの洗い方を教えていく。

 ゲルダさんはライラさんから聞いていたんだろうし、クレア達も前回の事を覚えていて、俺がいない間に風呂に入れた経験からか、特に問題なくレオを洗う作業ができている。

 体が大きいので、綺麗に洗おうとするとやっぱり大変だが……人数がいるので重労働と言える程ではなかった。


 ちなみにフェリー達は、風呂の事を知らないので今はまだ保留。

 駅馬とかで多くの人間と接する機会が増えたら、風呂で綺麗にする必要があるかもしれないが、基本は森で川遊びついでに汚れを落とすので十分だろう。

 フェリー達も入るとなったら大変だろうしなぁ……レオよりモコモコの毛なので、洗うのに時間がかかりそうだ。

 それに、レオはともかくフェンリル達が風呂を嫌うかどうかもわからないし……まぁ、レオがいれば暴れたりはしないだろう。

 シェリーは風呂好きらしいので、大丈夫そうではあるけどな。



「今日は、問題もなくなんとかなったか。偉かったぞ―レオ?」

「ワフゥ」


 レオが途中で体を震わせて、誰かがびしょ濡れになる……という事もなく、部屋に戻って綺麗になったレオの毛を撫でながら褒める。

 それでも、レオはいつものように喜ぶ事はなく、そっぽを向いてベッドの近くで丸くなった。

 まぁ、尻尾は少し揺れているから褒められるのが嫌なわけじゃないんだろう。


「ははは、拗ねちゃったか。急に風呂に入る事になったし、裏庭で遊んでいい気分だったのに余計な事をしたかな?」

「ママ、怒ってるの?」

「ワ、ワフ……」

「リーザ、レオは多分怒ってないよ。楽しい気分だったのに、嫌な事があったからちょっと落ち込んでいるだけだから」

「そうなんだ……ママ、元気出してね?」

「ワフ……」


 笑う俺に、首を傾げて心配そうなリーザ。

 リーザに心配されて、レオが戸惑った声を出す……拗ねてるんだけど、リーザに心配を掛けたくなくてどう答えればいいのか複雑なんだろう。

 リーザの頭もレオと一緒に撫でながら、落ち込んでいる事を話す。


 すぐに元気づけるために、レオに抱き着いて励ますリーザ……やっぱり優しい子だなぁ。

 さすがに、リーザ相手に不満げな鳴き声を出したり、拗ねてそっぽを向く事はできないのか、レオは困った様子ではあったけど鼻先を近付けていた。

 これなら、明日には完全にレオの機嫌は直ってくれているだろうな。


「ふわぁ……」

「ワファ……」

「ん……ふぅ」


 レオに抱き着いていたリーザがあくびをし、それがうつったのか、レオや俺も同じく口を開けてあくび……不思議だけど、こういうのってうつるんだよなぁ。

 リーザは基本的に元気いっぱいだし、レオは疲れを感じるのかすら疑問だけど、今日はいつもより多く遊んで走り回ったから、眠気が込み上げて来たんだろう。

 寝る時間でもあるし、そろそろベッドに横になるか。


「さ、リーザ。そろそろ寝よう。明日はまた、きっと面白い事があるぞ?」

「うんー……寝るー……」

「ワフ……」


 目をこすっているリーザを促し、ベッドに寝かせる。

 レオもリーザのおかげで落ち込んだ気分も少しはマシになったのか、ベッドに上がった俺やリーザを見ながら、小さく鳴いた。


「おやすみ、レオ、リーザ」

「ワウ」

「おやすみ……パパ、ママ……すー、すー……」


 レオやリーザにお休みと伝え、俺もベッドで横になってリーザと一緒に毛布に潜り込む。

 すぐに寝息を立て始めたリーザの尻尾、二本あるうちの一本がこちらに伸びていたので、毛布の中で優しく撫でてやる。

 一本は体の前でリーザ自身が抱き締めているけど、二本ともというのは体の大きさ的に無理だったんだろう。


「にゃふふ……すー、すー」


 寝ていても撫でられているのがわかるのか、声を漏らしながら気持ち良さそうに寝息を立てるリーザに微笑んで、目を閉じた。

 今日は鍛錬をしなかったし、遊ぶと言っても俺は枝を投げるくらいだったから、体は疲れていないけど、スラム関連の事で頭を使ったからか、眠気が沸きあがってくるのを感じる。

 撫でているリーザの尻尾が、ふかふかで感触がいいのもあるのかもしれないな……。


「あ……そういえばスラムの事……で……」


 眠気に身を任せて、少しづつ薄れる意識の中でふと思い当たる。

 エッケンハルトさんの許可が取れれば兵士雇用にも繋がって、スラムから人を減らせるけど……街道整備の方で雇うのも含めて、短期的には多くの働き口になってくれるはず。

 だけど、兵士はそれなりの人数になっても全員じゃないし、街道整備はこの先ずっとというわけじゃない。

 整備が終わった後も定期的に点検する必要はあるだろうけど、作る時より人数は少ないはずだしな。


 そうなると結局、仕事にあぶれる人も出てくるわけで……やっぱり継続的な雇用って必要なんだな……何かあればいいけど。

 なんて、まとまらない考えを思い浮かべながら、夢の世界へと旅立った――。



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