第943話 ペータさんの面接が開始しました



 俯いたペータさんが、一人で座っているのを嘆く。

 本来なら、ここにデリアさんとか村長さん同席するはずだったんだけど、セバスチャンさんが言うようにフェリー達が獲ってきた物の処理を頑張ってもらっている。

 タイミングが悪かったというか、まぁ仕方ないか。


「まぁまぁ、別に取って食べるわけではないので、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」

「取って食べるは、フェンリルが近くにいるので冗談になりませんね……」

「あー……ともかく、ただ話を聞きたいだけですし、デリアさんといた時に話していた感じでいいんですよ、ペータさん」

「はぁ……そう言われましても……」


 さすがに、そうは言っても横にセバスチャンさん、向かいに俺だけでなくクレアがいたら緊張してしまうか。

 とりあえずこのままだと話が進まないので、本題に戻そう。


「えっと、ペータさん。話は聞きましたけど、ランジ村で行う薬草畑で働きたいと?」

「は、はい。その……こういってはなんですが、薬草を畑で作るというのは初めての試みだと思います。この村での農作は安定しておりますし、それならばと考えたのです」

「そうですか……」


 セバスチャンさんから聞いていたけど、やはりペータさんは新しい事をやりたいと考えているようだ。

 本当に初めてで他でやってないかどうかはわからないけど、少なくとも今現在この国では行われていない事だから、興味を持ってもおかしくない。


「村での畑では、もう新しい事を考えたり実行したりするのは、余計な事と感じております。もちろん、村の者達に言われたわけではありませんが……もう私はここに必要ないのではないかと」

「必要ないって事はないんじゃないですか? デリアさんも言っていましたけど、ペータさんのおかげで、ブレイユ村の畑が広がって、安定した作物を収穫できるようになったと聞いています」

「私は昨日こちらに来たばかりですけど、それでも村の者達がペータさんを必要ないと考えるような人達ではない……と感じます。これまでの功績があれば、ないがしろにする人達ではないでしょう?」

「は、まぁ……村の者達は優しく、タクミ様やクレア様が仰るように私の考え過ぎなのだとは思います」


 デリアさんのように、働くために村を出ようとする人を引き留める人達じゃないけど、村にいてくれる人をいらないと考えるような人達でもない。

 若いから、というのはあるかもしれないけど……俺やフィリップさん、ニコラさんが来てもほとんどの人が受け入れてくれる村だからな。


「そうですね……ペータさんの考え過ぎというのはそうだと思いますし、村にはまだ必要だと思いますけど……新しい事がしたいために、薬草畑で働きたいと?」

「それは一番の理由ではあります。ですが、公爵家の方々が始める事……というのも大きな理由です」

「私たちが、ですか?」


 新しい事をやりたいのであれば、別に薬草畑に限らず別の事でもいいわけだからな。

 十分な理由ではあるけど、本当にそれだけなのかが聞きたい。

 そう思って質問すると、クレアの方を見ながら公爵家とも関係があるような事を言うペータさん。


「私はこれまで、一人で各地を見て回っていました。とは言っても、数十年前……デリアがこの村に来るよりも以前の話になります」

「若い頃のペータさんって事ですね」


 数十年前って事は、俺やクレアくらいの年齢の時に公爵領内の各地を見て回っていたようだ。


「はい。その……恥を承知で申しますし、若かったからだろうとは思いますが……あの頃は私が世界を見て何か変えてやろう、と考えていました。今思うと、何を変えようとしていたのかすら、定かではありませんが……」

「あー、そういう時ってありますよね。なんだろう、万能感? とはちょっと違うかな……成長して色んな事ができるようになって、自分が特別な感じがしたりとか」

「……私にはよくわかりませんが、タクミさんにもそんな事があったのですね」


 成長して、徐々に色々な事ができるようになっていく過程で、自分は特別だとか、自分はなんでもできる、といったように勘違いしてしまう事もある。

 それが変な方向に行かなければ、そのうち自然と勘違いに気付けるんだけど、ペータさんは行動を起こしたようだ。

 クレアはそんな事がなかったようで首を傾げてこちらを見ているけど、なんとなく俺の事を話すのは恥ずかしかったので、顔を逸らしておく。

 ちなみにセバスチャンさんも深く頷いているので、何か思い当たる節があるようだ……今度聞いてみよう、教えてくれるかはわからないけど。


「まぁ、その各地を回っていた際に、色々な物を見て自分の浅はかさを後悔したわけですが……結局世話になった村などでの農耕知識を持ち帰って、ブレイユ村で役立てようとなりました」

「そのおかげで、今ブレイユ村の畑で多くの作物が無事に収穫できているのですから、各地を回って良かったんじゃないですか?」

「結果的には、ですが。ともあれ、そうした事情で各地を回っていた際に、公爵領ではほとんどが安全に旅をする事ができたのです。それが、他領になると……その……これは言っていいものかどうか……」


 最終的に自分の勘違いに気付けて、ブレイユ村の皆の役に立つ事ができたのであれば、結果的には良かったと思う。

 後悔しなくても、と思う俺に対して頷き、話を続けるペータさん。

 けど何やら、他領の話になると言い淀んで、クレアの方を見た。


「構いません。ここで話される事は他に漏らす事はありませんし、例え私達も含めて貴族への誹謗だとしても、それは領民が不満に思ってしまう治めている貴族側が原因です。とは言え、謂れのない事はどうにもできませんが……」


 ペータさんが言い淀んだのが、貴族に関係する悪口とか誹謗のような内容と考えたようで、クレアは受け止める姿勢を見せる。

 なんでもかんでも、誹謗していいというわけではないと思うが、ある程度の事は受け止めて領民が平穏に暮れらせるように……という考えなんだろうな。


「は、はぁ……それでは。その、他領では街道に魔物が出る事も、そう珍しい事ではない場所もありました。場所によっては、旅をしている者や商隊から金品を奪う集団がいたりもします。公爵領以外の全てとは言いませんが……」



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