第942話 フェンリル達にご馳走する事になりました



「ガウガウー、ガウガウー!」

「グルルゥ、グルルゥ!」

「ガウゥー、ガウゥー!」

「えーっと、ハンバーグ! ハンバーグ! だって―パパ!」

「ありがとうリーザ。そうかぁハンバーグを食べるためかぁ」


 まさかフェンリル達によるハンバーグコールが聞けるとは思わなかったが……よっぽど気に入ったらしい。

 あんまり手の込んだ料理ではないんだけど。

 まぁ、斬り裂いたりや焼いたりはなんとかできても、捏ねて他の物と混ぜたり、ソースを作ったりとかフェンリルには難しいか。


「ハンバーグが食べたいから、獲物を持ってきたそうです」

「……少々数が多いような気はしますが……わかりました。とりあえず、村の中に運び込みましょうか」

「そうですね。――あ、親方さん!」


 獲物を取ってきた理由を聞くと、さっきのコールでもわかるように、ハンバーグを作って欲しいとおねだりするためだったらしい。

 まぁ、ハンバーグの素材になるのは間違いないから、調達してくれたんなら作るのもいいんだけど……さすがに量が多いし、とりあえず村の中に運んでおこうとニコラさんが提案。

 頷いて、運ぶのをレオ達に手伝ってと頼もうとした時、様子を見ている村の人達の中に、親方さんを発見したので呼びかけた。


「お、おう。ど、どうしたタクミ……じゃない。どうしましたか、タクミ様」

「今まで通りの話し方でいいんですけど……」

「いや、公爵家と関係が深い方と、今までのように話したりは……俺、失礼な事を言っていませんでしたか?」

「大丈夫ですよ。公爵家の方々はともかく、俺は高い身分とかではないので……親方とそう変わりませんって。それはともかく、アウズフムラを捌くの得意でしたよね? 手伝って欲しいんです。ちゃんと村の人達にも分けますから」

「そ、そうなのですか? 良かった……分けてもらえるのなら、村で文句を言うのはいません。アウズフムラやオークは歓迎されますし、貴重な食料ですから。あ、他の奴らにも手伝わせましょう!」

「すみません、お願いします」


 そうして、急遽アウズフムラやオークを村の中に運び込み、捌いて村の人達に分けるのと、ハンバーグ作りが行われるようになった。

 親方さんは元の話し方に戻らないようだけど、そこは仕方ないと諦めるとして……他の木こり衆と一緒に運ぼうとしたさい、シェリー以外のフェンリル達がさっそうと口で咥えたり、凍ったままの魔物を押して転がしたりして運び始めた。

 親方達は手を出せずに呆然としていたけど、代わりに運んでくれるらしい……ハンバーグのためだから、率先して動いてくれるのは助かるな。

 まぁ、元々フェンリル達が取ってきた獲物ではあるけど。


「ヨハンナ殿はタクミ様やクレアさんと一緒に。フィリップ殿! いつまでも情けない状態ではなく、そろそろ動いて下さい!」

「はい」

「はいはーい。はぁ……まだ足がちょっと震える気がするが、これくらいならなんとか動けるか」

「ガフ?」

「あぁ、フェルはあっちを手伝って欲しい。こっちは俺達がなんとかやっておくから。えっと……さすがに村の人達にも手伝ってもらうか」

「ガフ!」


 村へと運ぶフェンリル達を見守っていると、ニコラさんがヨハンナさんとフィリップさんに指示。

 フェルに寄りかかっていたフィリップさんが、ふらふらと動き出す。

 手伝おうか? という感じで近くにあったトロルドを咥えるフェルに、運ぶ方を手伝ってと言うフィリップさん……あっちは、フェルと本当に仲良くなったみたいだなぁ。


 そうして、村の中に運び込むフェンリル達と、村の広場でアウズフムラとオークを捌く親方達、食料にならない魔物の片づけを担当するフィリップさんや屋敷の使用人さん達と、村の人達。

 それぞれに別れて作業を開始した。

 ちなみに、数が多過ぎて親方達だけでは捌くのが間に合わないため、レオが爪で斬り裂いていたりもした……そういえば、森でオークを捌いたりもできていたもんな。

 レオが爪を振るう度に、見ていた村の人達や子供達から多くの歓声が上がっていた。


 凍ったままの部分は、フェリー達が手分けして魔法で解かす作業をしてくれているようだ。

 捌いて村の人に配る際には、量が多くて食べきれないため長期保存できるように、再び凍らせていたりもする。

 そちらではシェリーが母親のリルルから指導されながら、頑張っていた。

 まだまだレオだけでなく、フェンリル達にも懐疑的というか怯えている人もいたようだけど、今回の共同作業みたいな事で少しは打ち解けたような気がする――。



「村長達と話して外へ出てみれば、想像以上の騒ぎになっていましたが……」

「「あははは……」」


 セバスチャンさんの言葉に、乾いた笑いしかできない俺とクレア。

 誰かが指示したわけじゃなく、フェンリル達が自主的に狩りをしてきたんだから、文句は言えない。

 思わぬ騒ぎになってしまっているけど、悪い事は起こっていないので大丈夫だろうけど。


「あちらは問題ないようなので、レオ様達に任せるとして……こちらはこちらで話をしましょう」

「そうですね。……ペータさん、大丈夫ですか?」

「は! いえ、だ、大丈夫です!」


 ハンバーグ作りは村の人達に教えてあるので、捌いたりなどの事も含めて任せるとして……捏ねる段階になったら、俺やリーザも加わる予定だ。

 ともかく、俺やクレアは村長やペータさんと話をしてきたセバスチャンさんに連れられ、滞在している家に。

 そこで、ペータさんと話をしておこうというわけだ。

 予定では、明日屋敷へ向かう事になっているので、今くらいしかちゃんと話ができないからな。


 俺とクレアが並んで座り、テーブルを挟んだ向かいにセバスチャンさんと緊張でガチガチになったペータさんが座っている。

 これまではデリアさんと一緒に、気安く話してくれていたんだけど、さすがにクレアがいたり俺が公爵家と拘わりがあるという事で、緊張してしまっているようだ。

 あと、面接のような感じでもあると考えれば、緊張するのも当然かもしれないか。

 俺達で囲んで、村長さんとかペータさんに身近な人がいない状況だしな。


「うぅ、まさかワシ……いえ、私一人だとは……」

「仕方ありませんよ。今村の者達はほとんどが、フェンリル達が持ってきた獲物にかかりきりですから。村長も、そちらの対応をしてもらっています」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る