第933話 やっぱりハンバーグは大好評でした



「ガ、ガフ……キューン……」

「グルゥ!?」

「これだけ近付いたら、匂いにも気付くかぁ」

「ワフ。ワフッワフッ」


 シェリーとクレアの触れ合いを微笑ましく見ている俺の耳に、フェンの情けない声やフェリーの声が届く。

 フェンやリルルも一緒に、俺の持っている袋に注目しているから、ハンバーグの匂いが届いたらしい。

 レオも催促するように鳴いているし、とりあえず持ってきた物を食べてもらおう……夕食は済んだらしいけど。

 でもレオ、お前はさっきも食べただろうに……お腹を壊さないようにな? とりあえず、ハンバーグは冷めきってしまっているので温め直してからだな。


「ガフ~、ガフ~。ガフガフガフ!」

「ガウ~、ガウ~。ガウガウガウ!」

「ガウゥ……ガウガウ!」

「ははは、まぁ大丈夫だろうけど、喉に詰まらせたりしないようになー」


 使用人さん達が用意した夕食を食べた後なので、あまり入らないかと思ったが、フェルやフェンは競い合うように勢いよく、お皿に盛ったハンバーグを食べている。

 リルルは、フェンが遠慮なく食べているのを、こちらを見て済まなさそうにしていたが、食べ始めると夢中になったようだ。

 ハンバーグは美味しいからなぁ。

 一応、あんまり急いで食べ過ぎて詰まらせたりしないように、注意はしておく。


「ワフ……」

「グルゥ……」

「レオとフェリーは村にいた時食べただろう? だから、あっちよりは少なめだ」

「ふふふ、タクミさんのハンバーグ、人気ですね?」

「喜んでくれるのは嬉しいけど、際限なく食べそうで……」


 自分の前に置かれたお皿を見て、溜め息を吐くのはレオとフェリー。

 こちらは村でも食べているので、フェル達よりも少なめだ……持ってきたハンバーグも限られているからな。

 夕食後でもあるので、向こうは丁度良さそうな量だったようで一安心。

 そんなレオ達を見て笑うクレアに、好きだからといって食べ過ぎられてもなぁと苦笑する。


 ちなみに、シェリーはクレアが抱えているが、ハンバーグを食べたそうにはしていない……まだ体が小さいから、村で一緒に食べた分で満足したんだろう。

 体が大きいと、消費エネルギーも多くてお腹が空くのかもしれない

 シェリーも最初に見つけた時より、少し体が大きくなっていて、今では抱える程になっているけど。


「ガフ……ガフゥ……」

「キィ? キィキィ」

「……ラーレ、結構器用なのかな?」


 ハンバーグを食べた後、満足そうにするフェルに対して、レオが改めてつまみ食いをしないよう鳴いて教える。

 その後はそれぞれゆっくりした雰囲気で、フェンやフェリー、リルルはシェリーと一緒に伏せの体勢でウトウトし始め、フェルはまたお腹を見せて使用人さんやラーレに撫でられていた。

 ラーレが撫でるとは……と思うけど、猛禽類のくちばしを器用に動かしている。

 フェルが気持ち良さそうな声を漏らしているのを見ると、いいツボに入っているらしい。


 お腹を俺やクレア、使用人さん達に撫でられるのは、敵ではなく仲間になった証のようなもので、もはや儀式みたいな事だとか。

 元々フェルがいた群れとは違うけど、別のフェンリルの群れを束ねるフェリーが決めてレオが認めた、と教えられた。

 いつの間にか、そんな事が決まっていたらしい……。

 次々と、フェンリルの野生がどこかへ放り投げられている気がしなくもない――。



「ふふふ、こうしてタクミさんと二人でレオ様に乗るのは、初めて会った時以来ですね?」

「確かに、そうだったかもしれないね」

「ワフ、ワフ~」


 ハンバーグは届けたし、フェルも問題なく馴染んでいるのも確認したので、村へと戻ろうとした時、レオが乗せて送ってくれると主張した。

 村の入り口までだから距離が短く、レオに乗って走れば数分もかからないけど、俺を乗せたかったらしい。

 楽しそうに走るレオと、後ろから微笑んでいる様子のクレア……そういえば、初めてクレアと会った時に、屋敷までレオに乗ったんだったか。


 それ以降は、ティルラちゃんが乗ったり、リーザが乗ったりと、クレアと二人だけで乗る事はなかった……はず。

 あれから数カ月くらいか……ちょっと懐かしいな。


「ありがとうございます、レオ様」

「言う必要はないんだろうけど、暗いから気を付けるんだぞ?」

「ワフ!」


 懐かしい気分も束の間、すぐに村の入り口に到着してレオから降りる。

 送ってくれたお礼にクレアと一緒に撫で、注意するだけして森の方へ向かうレオを見送った。


「もう見えなくなりましたね」

「レオが早いのもあるけど、暗くて遠くまで見えないからね。それじゃ、戻ろうか。早く戻らないと、セバスチャンさんにからかわれそうだし」


 時間がかかり過ぎると邪推というか、またからかう材料を与えてしまいそうなので、早く戻ろうと村へ入り滞在している家へと歩きだす。


「そうですね。……最近、セバスチャンによくからかわれている気がします」


 クレア、それは気がするじゃなくて本当によくからかわれているんだよ……。


「ま、まぁ、クレアの反応を見て楽しんでいるっていうのは、間違いない……かな?」

「むぅ、いつか私がセバスチャンをからかって見せます……」

「それは……頑張るのはいい事だと思うよ、うん」


 セバスチャンさんが相手だと考えると、やり返される未来しか見えない気がするけど、頬を膨らませて頑張ろうとするクレアは可愛いので応援はする。

 最近は、こういう表情をよく見せてくれるから、セバスチャンさんもからかいたくなってしまうんだろうなぁ……。

 ちなみにエッケンハルトさんも別の意味で、セバスチャンさんによく注意されていたりするけど、ふと執事がそれでいいのかな? と思って聞いてみた。

 対外的には、エッケンハルトさんやクレアといった貴族家に仕えているので、従う時は従うし、公の場ではちゃんとしているんだけど、血の繋がった家族と言わないまでも、使えてくれている使用人さん達は家族のように思っているらしい。


 なので、行き過ぎなければ問題ないとの事だ……でも、悔しいのでいつかは自分がセバスチャンさんからかって楽しむ、なんて息巻いていた。

 多分、孤児院から人を多く雇っているのもあって、家族のように接しようとしているって事だろう。

 初代当主、ジョセフィーヌさんから続く公爵家の伝統でもあるとかなんとか……。



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