第928話 クレア達が来た理由を聞きました



「フェリーやフェン達は、こちらへ出発する前に屋敷へ来て、協力を約束して下さいました。実際に人や物を運ぶのかはともかく、まずは馬との違いを確かめようと、こちらへ乗せてもらったのです」

「運べる荷物に関しては、馬よりも少し少ない程度でしょうか……こちらは少々改善の余地があるでしょう。荷車や馬車を曳いてもらえば、問題と言える程ではないかと。そして、肝心の移動速度ですが、やはり馬よりも早く移動できますね」

「馬で二日かかる移動を、一日で……とまで短縮はできないでしょうけど、数時間短縮するだけでも随分と違うでしょうね」

「はい。ラクトスの方はレオ様で慣れておりますし、フェリー達が入っても少しざわついた程度でしたので、良い案かと。ただ他の場所では、すぐに受け入れられるわけではないでしょうから、追々となるでしょうな」

「そうですね……」


 俺がいない間に、フェリー達は他のフェンリルと協力してくれる事になったようだ。

 馬よりも早く移動できる利点があるから、それだけでも随分人や物の行き来がやりやすくなるとは思うけど、セバスチャンさんの言う通り、レオを見て慣れている人達じゃなければ、今すぐにというのは難しいだろうな。

 わりと人懐っこくて、可愛いフェンリル達ではあるけど……基本的に獰猛な魔物として恐れられているわけだし。

 まぁ、そのあたりは少しずつ慣れる人が増えて行けばいずれ、といったところか。


「そういえばセバスチャンさんは、こちらにクレアが来るのに反対したりは? 俺がブレイユ村に行くと決めた時は反対しましたけど……視察のためとはさっき言っていましたけど」


 最初ブレイユ村へと決めた時、クレアは一緒に来たそうだったけどさすがにセバスチャンさんに止められたのに……と思って聞いてみる。

 まぁ、リーザの事があったから、レオと一緒に任せたかったのもあってそれで良かったんだけど……機会を窺っていたのかもしれない。


「一日や二日程度ですので、問題ございません。村の視察も兼ねてというのもありましたからな」

「それに、リーザちゃんも元気になりましたし、レオ様もリーザちゃんも、タクミ様がいなくて寂しそうでしたから……」

「という理由を付けられましてな? 試しにフェリー達に乗って移動してみる、という案もあって、こうしてこちらへというわけです」

「セバスチャン!」

「ははは、成る程……」


 少し目線を逸らしながら理由を言うクレアに、セバスチャンさんが仕方がない……といった表情で教えてくれる。

 ラクトスからの街道整備が始まり、フェリー達からの協力が得られそうだったので、これ幸いにと考えたのかな。

 村を実際に見るというも、本当のところだろうけど。

 ラクトスの西側まで来れば、あとはフェリーに乗って数時間でこちらに来れるはずだし……色々タイミングが良かったんだろう。


「あ、でもラーレにティルラちゃんが乗ってきたのは、驚いたよ。そういえば、あれもお試しって言っていたっけ?」


 思わずお茶を噴き出して、フィリップさんにかかった事を思い出しながら聞く。


「はい。あれは、私やタクミさんがランジ村に移住しても、ティルラが寂しがらないようにと考えました。まぁ、代替案のようなものですけど」

「寂しがらないように?」


 俺やクレアがランジ村で暮らし始めたら、ティルラちゃんは屋敷で独りぼっち……という程ではないか。

 使用人さんやラーレ、コッカー達もいるからな。

 ただそれでもレオやリーザはもちろん、姉であるクレアとは離れる事になってしまうから、やっぱり寂しいだろうし、実際本人も言っていた。

 その代替案として、今回ラーレに乗ってティルラちゃんが来た、という事らしいけど……?


「ラーレに乗れば、レオ様程ではなくとも同じく馬より早く移動できる事は確認済みですからな。特にラーレは空を飛ぶので、森や山、街などを通らなくても移動ができます。ラクトスを通る我々よりも、大分早く到着できたようですから……おそらくランジ村へも一日で行けるかと」

「もしかして、ランジ村へ気軽に来れるように、という事ですか?」

「そうです。短期間で何度も……とはできなくとも、来ようと思えばすぐに屋敷からランジ村へ来れるのなら、ティルラの気持ちも違うでしょうから」

「それは確かにそうですね」


 穏やかに微笑みながら答えてくれるクレアは、以前の口喧嘩からちゃんとティルラちゃんの事を考えている様子だ。

 実際にどれだけの頻度でランジ村へ来るかは、その時の状況によるだろうけど、馬で数日かかる距離があるため、気軽に移動できなかったのがラーレに乗れば少しは楽になるという事だろう。

 それでも一日程度かかってしまうのは仕方ないけど、数日と一日じゃ大違いだしな。


「それじゃあ、今回ここまで来たのは総じて移動時間短縮のためのお試しだったんですね」

「はい、そうなります。元々、フェンリルに乗れば馬より早い……という事はわかっておりましたが、それでも何も試さず実行するわけにはいきませんからな。レオ様がいらっしゃるおかげで、危険もないと言っていいですし、丁度良いかと」

「それでも、すぐに実行……というわけにはいきませんけどね。ただ、今回の事でフェンリル達は休憩もほとんどなくて良いとの事でした」

「そういえば、レオもそうだけどフェンリル達も疲れた様子はなかったな……」


 魔物だとかは関係なく、生き物なのだから当然疲れというのはあるはずだけど、レオを始めとしてフェリー達は合流した時に疲れた様子はほぼなかった。

 さすがに、舌を出していたり少し息が荒かったりはしたくらいか……レオだけは平気そうだったけど。

 レオはまぁ、ランジ村に行く時もそうだったけど特別だとして、フェンリル達の体力が馬以上にある事は間違いなさそうなので、その点も優れている部分か。


 本来、短距離とか瞬発力は馬より犬や狼の方が優れているのはわかっていたけど、持久力というか長距離は馬の方が……という日本での知識は役に立ちそうにない。

 かと言って、無理をさせ過ぎたりするわけにもいかないけどな――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る