第925話 フェルの事も皆に紹介しました



 村長さんが聞いた話を伝えると、クレアに対してサーペントの効果を説明し始めるセバスチャンさん。

 男性が実感が得られるうえ、目に見えて元気になるくらいって……もしかしなくても、あれの事だろうか?

 そういえば、蛇というかマムシ酒とかって、滋養強壮とか確かに体にいいと言われたりもするけど、よく聞く話では精力剤と言われる事もある。


 ブレイユ村のお爺さんお婆さん達は元気だったし、ランジ村よりも人口が多かったけど……子供も多かった。

 村の人達がその効果を意識して飲んでいるのかはわからないが、客観的に見てそちらの方向でしっかりとした効果が出ている可能性は高い。

 

「あまり大きな声では言えませんが、クレアお嬢様……」

「……え? あ……っ!」

「はぁ……やっぱりこうなった。セバスチャンさん、半分以上わかっていて説明しましたよね?」

「ほっほっほ、そんな事はありませんよ。ですが、タクミ様のおかげで屋敷や公爵家の関係者も、若返りそうですからな。そういった物も必要な場合があるかも、と考えただけでございます。……タクミ様も、ご入用になりますかな?」

「いえ、俺は遠慮しておきます……はぁ……」


 セバスチャンさんがイタズラをする子供のような表情で、クレアに耳打ちし、サーペントの効果について説明したようだ。

 意味を理解した瞬間、真っ赤になったクレアはチラリと俺を見て、すぐに顔を逸らした。

 やっぱり、俺が考えた効果で間違いないらしい……溜め息を吐きながら、セバスチャンさんに聞くと笑って誤魔化されたけど。

 関係者が若返るというのは、薬草畑や屋敷で新しく人を雇うからなんだろうけど、この場で勧められて頷く事はできないので、遠慮した。


 というより、またあの味を経験するのはできれば避けたいし……それを求めるのは、クレアだけでなくリーザもいる場ではな。

 ……レオ達と一緒にじゃれ合ってて、こちらの話は聞いていないだろうけど。


「あ、そうだ。それともう一つ。――デリアさーん! あと、レオとかもいた方がいいかな、おーい!」

「ワフ?」

「どうしたの、パパ」

「お呼びでしょうか、タクミさん」

「皆を呼んで、どうしたのですか?」


 サーペントの話もそこそこに、村の話を進めてほぼ話し終わった頃、そういえばと思い出した。

 思い出した事を話す前に、デリアさん達もいた方がいいだろうと、少し離れていた皆を呼ぶ……フェリー達も一緒だ。

 俺の前に、首を傾げたクレアさんとセバスチャンさん、さらにレオやリーザにデリアさん。


 さらにその後ろに、フェリー、フェン、リルルと勢揃いし、その横には乗せてきたライラさんや使用人さん、護衛さんなどが並ぶ……あ、シェリーはフェンの背中に乗ってご満悦そうだから、そのままでいいぞ。

 というか、そこまで皆一斉に勢揃いしなくても……呼んだのは俺だけど。


「……そこまで注目する程じゃないけど……まぁいいか。えっと……おーいフェル! そろそろ出てきておいでー!」

「ガフ!?」

「フェル、ですか?」

「あ、フェルの声です!」

「パパ、フェルって誰?」


 皆に注目されて、ちょっとだけ緊張しながらも、森の方へ向いてフェルを呼ぶ。

 呼んだ方の森の中から、フェルのものと思われる驚いた鳴き声がして、俺の後ろではクレア達が疑問に思っている声の声がした……デリアさんだけは声でフェルだってわかったみたいだ。

 うん、やっぱり近くに来ていたか。

 フェルがいるかどうか、俺には確信がなかったんだけど、シルバーフェンリルのレオの気配を感じ取っていそうだったから、様子を見に来ているだろうと考えた。


 あと、フェリーやフェン達もそうだけど、レオも時折森の方を気にしている様子だったからな。

 デリアさんやリーザは気付いていなかったようだけど、ラーレも時折森の方を見ていた。

 まぁ、危険な魔物ならレオ達がもっと警戒していただろうし、気にするだけというのでなんとなくわかりやすかったって事だな。


「ちょっと皆に紹介するから、出て来ていいぞー?」

「ガフ……ガフゥ……」

「あれはフェンリル、ですか?」

「そのようですな。しかし、このように村の近くにフェンリルがいようとは……」


 もう一度呼びかけると、観念した様子というかしょんぼりと項垂れながら、ゆっくりと森から姿を現したフェル。

 クレア達はその姿を見ても、ほんの少し驚いたくらいだった。

 俺は感覚がマヒしているらしいけど、クレア達も慣れ過ぎだよな……レオだけでなく、フェリー達とも一緒にいるから、慣れるのは当然と言えば当然なんだけど。

 ……墓地に行った時、デリアさんやフィリップさんが警戒したように、敵意が向けられなかったら、そんなものなのかもしれない。


「このフェンリルは、フェルと言って……デリアさんが名付けたんですけど……」

「ガフ……」


 森から出てきたフェルの隣に立ち、撫でながら皆に紹介。

 ついでに、デリアさんとの関係や、村の近くにいる理由なども簡単に説明しておいた。

 しかし、どうしてずっと項垂れてしょんぼりしているんだろう……? と思ったら、フェルがずっとレオの方を気にしていた。

 目の前に、匂いとかではなく本物のシルバーフェンリルがいるからかぁ。


「そのような事があったのですね。しかし、やはりフェンリルにとって獣人は重要な存在の様子。理由はわかりませんが、敵対する事はないようですね」

「例が少ないので、はっきりとはわかりませんがそうみたいです。フェルが発見したのが獣人ではなく人間だったら、襲わないまでも助ける事はなかったかもしれません」

「それもこれまでは……となりそうですね、タクミさん」

「クレアさん? ……あぁ、そうかもしれませんね」


 元々、獣型の魔物にとって獣人は特別だと聞いていた。

 デリアさんが助けられた事を考えると、フェンリルは獣人に対して敵意はなく、むしろ助ける側のようになっていると思える。

 もしデリアさんが人間だったら、そうはならなかっただろうなぁ……と想像していると、クレアに声をかけられた。

 レオ達の方を向いている視線を追ってみて、納得。


「ワフ?」

「ガフ……ガフガフ! ガフゥ……」

「グルルゥ」

「ガウ」

「ガウゥ」

「キャゥー」


 何を話しているのか、具体的にはわからないが……レオの前にひっくり返ったフェルが問いかけられ、フェリーやフェン、リルルとシェリーが周囲を囲んで頷いていた。

 リーザやデリアさん、ティルラちゃんもフェルのお腹を撫で始めたから、多分皆に受け入れられたんだろうと思う。

 集団で囲んで、躾けているように見えなくもないけど……。



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