第926話 ブレイユ村へ移動しました
「それはそうとタクミ様、先程フェルの話の中で怪我をした右足を、ロエで治療したと仰っておりましたが……?」
「あ、はい。怪我をしたのは随分前ですけど、傷跡ははっきり残っていました。しかも、フェルによるとほとんど動かせない状態だったらしいです。実際に、俺と会った時は右足を使っていませんでした」
「成る程……ですがタクミ様、ロエにそのような効果があるとは……」
「セバスチャン。興味があるのはわかるし、私も話を聞いてみたいけど、いつまでもここで長話をしているわけにはいかないでしょ?」
「おぉ、そうでした。私とした事が、ついつい興味をそそられてしまいましたな。失礼しました」
「そろそろ、村の方での説明も終わった頃だと思うので、丁度いいかもしれませんね」
皆にフェルの事を話す際に、デリアさんを助けて右足を負傷、それを俺が治療してあげたとは話した。
やっぱりセバスチャンさんは、その話の中でロエの効果に興味を持ったようだ……。
俺が見た薬草の事が書かれている本には、傷跡すら消す……なんて効果は書かれていなかったから、やっぱり似ている別物なのかもしれないな。
同じ事を考えたのか、顎に手を当てて考え始めるセバスチャンさんだけど、クレアが注意をして思索を止める。
合流してから結構経っているし、カナートさんやヨハンナさんが村の人達へ説明するのも、落ち着く頃だろうから、そろそろ村に向かわないとな。
屋敷に戻ってから、セバスチャンさんとじっくり話す必要がありそうだけど。
ともあれ、まずは村に行くべきだと、一部を除いてクレアやセバスチャンさんと一緒に、ブレイユ村へと向かった。
この場に残るのは、フェリー達を全て連れて行くと村の人達を怖がらせる可能性があるからだな。
まぁ、レオがいる時点で怖がられるかもしれないけど、数が多いとそれだけ威圧するようになってしまうかららしい。
フェンとリルル、ラーレは数人の使用人さん共にこの場に残り、もう少しフェルと一緒にいる事になった。
シェリーはクレアと一緒にいるし、荷物を運ぶ必要もあるので、フィリップさん達が各自で持つ物以外にも、フェリーが風呂敷包みを括り付けていたりする。
それぞれ同じように風呂敷包みで荷物を運んで来ていたようだ……馬車がない分、運べる荷物が少なくなるのは仕方ない。
駅馬でフェンリルが活躍するのであれば、荷車を曳いたり、人の乗った馬車を曳けばいいだけだしな。
直接背中に乗るのは、速度を重視する時と考えるのが一番良さそうだ――。
「おぉ……おぉ……本当にフェンリルが……」
「あれがフェンリル……」
「小さなフェンリルもいるんだ……可愛いけど、あれもフェンリルなんだ」
「一際大きいのも、フェンリルなのかの? 他のフェンリルとは、少し違うようじゃが」
「爺さん、さっき言われただろうに。あれが、公爵家と親しくされているシルバーフェンリルだよ!」
「あれが……シルバーフェンリル……」
村の入り口に到着すると、多くの人達が集まっていた……村の人達ほとんどがあつまっているんじゃないか?
皆、大きく目立つレオやフェリーの方を見て、戸惑ってざわざわと何やら話している。
中には、クレアの足下にいるシェリーを見ていたりもするけど、大体は人間以外に注目しているようだ。
カナートさんやヨハンナさんが説明してくれていたはずだけど、やっぱり実際に見ると戸惑ってしまうんだろう。
「やっぱり、フェン達を連れて来なくて良かったかな」
「そうですね。皆、レオ様達に注目しているようですから、多く連れて来るともっと大変だったと思います。ほらシェリー? 貴女も注目されているわよ?」
「キャゥ? キュウ!」
「ははは、シェリーは人間に注目されるのは、どうでもいいようだね」
「まったく……人の多い所に行ったら、注目されるから気を付けないといけない事もあるのに。……でも、ある意味頼もしいのかもしれませんね」
村の人達の様子を見ながら、クレアと話す。
足下にいるシェリーに声をかけて、注目されている事を伝えたけど、シェリー自身は一度首を傾げただけでどこ吹く風だ。
シェリーにとっては、注目される事はどうでもいい事のようだな……。
「ワフ、ワフ?」
「うん? あぁ、ちょっと待っててな。とりあえず、皆とクレア達が挨拶してからだ。リーザもな?」
「ワフ」
「うん、わかった!」
「うぅ……子供達が何かしなければいいのですけど……」
「大丈夫だよ、デリアさん。ラクトスでも見たと思うけど、レオは子供に慣れているから」
「ワフー」
シェリーに溜め息を吐きながらも、頼もしそうに見ているクレアとは別に、レオから声をかけられる。
レオの方を見てみると、尻尾を振って入り口に集まった大人達……その後ろにいる子供達を見ている事から、一緒に遊びたいんだろう。
リーザもいるし、ティルラちゃんも一緒に遊べば楽しそうだ。
ただ、まずは挨拶をするのが先だと、少し我慢してもらう。
頷いたレオとその背中に乗るリーザとはまた別に、俺の後ろでデリアさんが子供達が何かレオに失礼な事をしてしまわないか……と戦々恐々としていた。
子供の扱いに関しては、デリアさんも相当なものだったけど、レオはそれ以上だから大丈夫。
安心させるように言った俺の言葉に、レオも同意するように鳴いた。
「クレア様、お初にお目にかかります。村長のヤネサフカと申します。ブレイユ村にようこそいらっしゃいました……」
「ヤネサフカさん……村長さんですね。出迎えご苦労様です」
それぞれと話しながら村の入り口に近付くと、集まった人達の中から、カナートさんに支えられて村長さんが進み出て挨拶。
クレアが柔らかい笑みを浮かべて、村長さんの挨拶を受けた。
ぎっくり腰はもう大分良くなっていたはずだけど、少しふらついている様子なのは、腰の痛みよりも急にクレアやレオがここに来たからかもしれない。
ヨハンナさんは、まだ入り口で村の人達に何やら言っていて、挨拶する順番とか、クレアを迎えるための指示を出しているっぽい。
「タクミ……いえ、タクミ様は公爵家と拘わりの深いお方だとお聞きしました。やはり、只者ではなかったと……」
「まぁ、そういう事です。すみません、隠していて。でも、今まで通りの呼び方と接し方でいいんですけど……ははは」
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