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第908話 ブレイユ村の墓地に到着しました
第908話 ブレイユ村の墓地に到着しました
女性を口説くフィリップさんの様子を見ていたお婆さん達は、もっと誠実に一途に接したらワンチャンあるかもと言っていたので、少なくともこの村では軽薄な男性よりも誠実な男性が好まれるという事だろう。
あと、お婆さん達がワンチャンとか言っていたのを聞いて、フィリップさんがモテない事よりも衝撃的だったのは、どうでもいい事か……。
「おう、タクミさんや。どれ、新しいお酒はいらんかね?」
「ほらほら、宴会の時のようにいい飲みっぷりを期待しているよぉ」
「あははは、ありがとうございます。今はちょっと用があるので、後でありがたく頂きます」
フィリップさんが落ち込んでいる様子なのを、デリアさんと聞こえないように小声で話しながら、村の中を歩いていると、暇をしているお爺さんやお婆さんが寄って来て、お酒を勧められる。
昼間にすらなっていないのに、お酒を勧めるのはどうかと思うが、好意はありがたく受け取って、もらったお酒はフィリップさんへパスだ。
宴会が終わってから、俺がサーペント酒を飲んだ事が影響して、最初よりもお酒を勧められる事が増えたため、最初は断っていたんだけど、残念そうにするお爺さんやお婆さん達を見ていて受け取る事にした。
好意で勧められている事だし、断るのも気がとがめたしな……受け取る方が、皆喜んでくれるし。
けど、大体勧められるのがお酒なせいもあって、最初は屋敷へ向かうのがフィリップさんの予定にしていたのを、急遽ニコラさんへ変更した。
理由は簡単、勧められてもらったお酒を飲んでもらうためだ。
ニコラさんは多くのお酒を飲まないようにしているし、俺も同様だから、結構助かっている。
ちなみに、痺れる効果がサーペントの毒ではなく、山椒……プリクリィの影響だと知って、ニコラさんもサーペント酒を飲むのに躊躇はしなくなった。
とは言え、さすがにあの味と喉越し、見た目も影響して進んで飲むほどじゃないけど。
そういうわけで、お酒が好きで味に構わずとにかく飲もうとするフィリップさんには助けてもらっているので、セバスチャンさんに怒られないように言っておこう。
今回は、飲み過ぎでの失敗もない事だしな……女性を手あたり次第口説こうとして、失敗している事に関しては擁護できないけど――。
「ここにデリアさんを育てたお爺さんのお墓が……少し高くなっているから、見晴らしは良さそうだね」
案内された場所は、村の東側にある畑から少し南に来たところで、森と畑との間に少しだけ小高い丘……と言えるのかわからないが、数メートルほど高くなっている場所だ。
ブレイユ村では土葬が一般的らしく、簡単には掘り起こせないくらい深く掘った穴に、亡くなった人を入れた棺を埋めるのだとか。
そして穴を埋めた後は、墓標として名を刻んだ木の板を立て、根本を石で囲むという方法でお墓とするらしい。
周辺は南に森の木々、北に畑、北西に村の家々が見渡せて、亡くなった人達にとっても安らげる場所のように思えた。
故人の名前と思われる木の板が無数に立っているが、規則正しくなくても乱雑と感じないのは、村の人達が先祖を大切に思っている事の証かもしれない。
「放っておいたら名もない草が生えて荒れてしまうので、定期的に村のお爺ちゃんやお婆ちゃん達が見に来るんです。その時、村の様子を遠目に見るのが楽しみになっているみたいですよ」
「へぇ~。うん、確かに気持ちはわかるかもしれないね」
雑草一つなくという程ではないけど、見渡す限りちゃんと整備されているみたいだし、石や木の板が朽ちる様子も見られないから、折を見て交換したりしているんだろう。
場所が高くなっている影響か、風の通りも良く、村や畑を見ながらのんびりするにはいい場所と言えるから、デリアさんの言っている事もよくわかる。
まぁ、墓地でのんびりするのが相応しいのかは、微妙なところだが。
「それじゃえーっと、デリアさんのお爺ちゃんのお墓は……」
「あ、こっちで……っ!!」
「デリアさん?」
「……タクミ様、何者かに見られている気配を感じます」
「フィリップさん、口調が……って、それどころではないみたいですね」
早速デリアさんを育てたお爺ちゃんのお墓に案内を、と思った瞬間、デリアさんが目を見開き、尻尾と耳を立てて向かおうとした方向から飛びしざった。
どうしたのかと、デリアさんを呼びながら振り返ろうとする俺にフィリップさんが、真面目な雰囲気になって周囲を警戒しながら声をかけられる。
口調も前に戻っているし、指摘している状況じゃなさそうだ……何者かに見られているって言われてもな……確かに、何か違和感のようなものは感じるけど、そういう気配を感じる訓練なんかしていないから、わかりそうにない。
「た、た、た、タクミ……さん……」
「デリアさんが隠れようとするってのは、相当だと思うけど……一体何が……?」
「私よりも、気配察知に優れているのかもしれません。……ですが、私も体が震えるような気配をどこからか感じます」
耳と尻尾をピンと伸ばしたデリアさんが、体を震わせて怯えた様子で、俺の後ろに隠れる。
フィリップさんもただならぬ気配を感じているようだ。
「えっと、デリアさんが動いた方向から察するに、気配はあっちから、かな?」
「私には方向まではわかりませんが、おそらく」
「た、タクミさん。ど、どうするんですか?」
「とりあえず方向がわからないと、どうもできないからね。フィリップさんもデリアさんも警戒する気配って事は、あまり近付いちゃいけないと思うから、間違った方に逃げないようにしないといけないし」
俺にはなんとなくの気配があるだけで、フィリップさん以上にどこからの気配かはわからない。
そんな中で無暗に動いたら、警戒して逃げるべき相手の方へ行ってしまっている……と言う事も考えられるからな。
デリアさんが向いた方向、そちらとは逆の方に飛びしざった事から、向かおうとしていたお墓がある方からの気配のようだ。
ちょっと、俺の背中にしがみ付いているデリアさんがいるので難しいが、ゆっくりと少しづつ後退りして、この場を逃れればいいけど――。
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