第901話 不要な部分は別の方法で活用するみたいでした



 デリアさんが、既に磨り潰されて湿布薬にされた物を村長に渡したため、少しだけ怪しまれたらしい……さすがに『雑草栽培』で状態変化までやるのは、やり過ぎだったかな……。

 でも、すぐに使える状態になっているとしても、ギフトだと考えが向く事はほとんどないだろうから、大丈夫そうだ。

 現状、この国にはギフト所有者は俺だけって事になっているし、公表されている事じゃないから変に怪しまれたりはしないだろう、多分。


 デリアさんも尻尾を振って、楽しそうに同意してくれているのでそれでいいかと思う事にした。

 一部を除いて、反応が犬系なデリアさん……ついつい手を伸ばして撫でたくなるのは、癖になっているからだろうか?


「わふ、わふーん」

「うーん、気分的にはレオを撫でているのと変わらないけど、見た目は完全にあれだなぁ……」


 嬉しそうな声を漏らすデリアさんの頭を撫でながら、傍から見たらどうなのか? と思ってしまうけど、気にしないようにする。

 何がどうあれなのかは、詳しくは言及しない方向で……村の子供達、特に女の子達に見られたら、また興味を持たれるかもしれないが……。



 ――しばらく経って日が沈み始める頃、着々と準備が進む村の広場で、宴会へ向けて人が集まって来ている。

 畑で働いていた人達や、狩りとは別で森に行っていた人も帰って来て、次々に俺と挨拶をして行くのは、デリアさんがアウズフムラを狩った功績者として喧伝しているからだったりする。

 一番の功労者は、ずっと追いかけていたデリアさんのはずなんだけどなぁ。


「アウズフムラを狩れる若いのが、村にいてくれると助かるなぁ。もし滞在中にまた見つかったら、また頼むよ! 宴会もできるし、酒も飲めるからな!」

「あはは、どうもー……」


 大体が、またアウズフムラが見つかったら協力してくれとか、宴会をしてお酒を飲みながら楽しめると歓迎しているようなので、苦笑しながらも当たり障りなく挨拶をしている。


「お、ペータさんじゃねぇか。……あぁ、あれか。ほら、これだ」

「すまんのう。これは畑のもんに渡しておくよ」

「なに、誰も食べない物だからな。こっちは処理する手間が省けて、助かるってもんだ」

「ん?」


 村の人達からの挨拶が途切れたくらいで、近くで知っている話し声が聞こえた。

 ペータさんは、畑を見た時に会ったお爺さんで、もう片方の声は木こりの親方さんかな? そちらに視線を向けると、人を連れたペータさんが親方さんからいくつもの何かを渡されていた。

 ……広場のど真ん中なので、怪しい取引じゃないだろうけど……何を渡しているんだろう?


「親方さん、ペータさん。聞いていいのかわかりませんけど、それは?」

「あぁ、こらぁな……」

「畑にはこれがいいんじゃよ……」


 興味本位ではあるけど、教えてくれるならと考えて二人に声をかけ、何を渡しているのか聞いてみる。

 すぐに教えてくれた親方さんやペータさんによると、布に包まれたいくつかの物は、アウズフムラの内臓……つまりモツらしい。

 牛モツと言えばホルモンとも呼ばれて栄養豊富、好きな人は好きだが、この村では食べられてはいないらしい。

 好き嫌いが別れる物なのはわかるが、そもそもアウズフムラのモツは食べられないとの事。


 オークもそうらしく、アウズフムラも含めて狩りで獲ったモツは、畑の肥料にするためペータさんや作物を育てている人に渡すんだそうだ。

 そういえば、以前クレア達と行った森の中で、レオがオークを捌いた時もモツは別にして食べたりはしていなかったっけ。

 ホルモンが好きな人にとっては、もったいないと思うかもしれないが、食べられないのなら仕方ない……でも、モツを肥料にって、そのまま土に埋めたら虫が沸いたりとか、腐って臭いがとか、色々不都合が起きるんじゃ……?

 深く埋めるならまだしも、畑って耕して掘り起こしたりするからなぁ。


「捌いた後に残った骨と一緒に、煮て乾燥させるんじゃよ。骨は砕くのが手間じゃが、一緒に煮た後に乾燥させて粉にすれば、上等な肥料になるんじゃ。まぁ作る時に酷い臭いが出るから、やりたがるのは少ないがの」

「あぁ、成る程……そういう事ですか」


 肉骨粉(にくこっぷん)だったかな? 内臓など、食べない部分を混ぜて加熱処理して肥料にするっていう……日本では行われていないけど、他の国では今も使っている所があるらしいっていうのを、何かで見た事がある気がする。

 ペータさんによれば、モツやら血液やらを、砕いた骨と一緒に煮込んで乾燥させ、それを土に混ぜれば作物の成長が良くなるらしい。


 肥料と言えば、俺はフンなどのあまり綺麗じゃない物を想像していたけど、そればかりでもないみたいだ……いや、肉骨粉が綺麗だと言えるわけでもないけど。

 やっぱり、文化が違えばやっている事も違うんだなぁ……薬草畑を予定しているから、これは特に勉強になったと思う――。



「それじゃ、アウズフムラを狩れた事。そして、狩りに参加して成果を挙げた功労者である、村の客人であるタクミさん達に……」

「「「乾杯!!」」」

「か、乾杯」


 宴会の準備が整い、広場にテーブルや簡易的な竈の上に鉄板、各家庭から持ち寄った料理やお酒などが集まり、村長の息子さんが台に立って音頭を取り、乾杯と言い合って宴会がスタートした。

 お酒は例のサーペント酒なため、水を飲んでおこうと考える俺は控えめだが、他の村の人達……特にお爺さん達や木こり衆は勢いが凄かった。 

 ちなみに、簡易的な竈と用意された鉄板はバーベキューみたいに、アウズフムラのお肉を焼いて食べるためで、音頭を取ったのが村長さんじゃないのは、まだ腰の調子が悪いためだ。

 本人は悔しがっていたそうだが、年齢も年齢だし、腰が治るまであまり無理しないよう我慢して欲しい……それでも、広場に支えられて来ており、椅子に座ってお酒を飲もうとしているけど。


「かんぱーい! おー、酒が飲めるぞー!」 

「フィリップ殿、この村に来てなんだかんだとお酒を飲んでいますが、飲み過ぎは注意するように」

「わかってるって、ニコラ。けど、村の宴で振る舞われるんだ、飲まないと不自然だろ?」

「それはそうかもしれませんが……いえ、断ればいいだけでしょう。飲めない者もいるのですから、断っても不思議じゃありません」


 控えめな俺やニコラさん違い、お酒が飲めると意気揚々とフィリップさんが、隣で楽しそうに声を張り上げる。

 すぐにニコラさんから注意が入ったけど、フィリップさんはまったく気にしない様子だ――。



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