第900話 お肉の配布会が開催されました



「まぁ、それならそれで、村に受け入れられているってことだな。アウズフムラへの止めもデリアにいいとこを見せられたしなぁ?」

「いやまぁ……そういういう事にしておきます」


 親方は、俺が村の人たちに受け入れやすいように、という考えだったのかもしれない。

 ともあれ、デリアさんにいいところをではなく、魔物と戦う事で自分の覚悟を少しでもはっきりさせようとしただけなんだけど……ここで話す事でもないので、そういう事にしておいた。

 クレアさんやティルラちゃん、リーザとかが見ている状況だったら、確かに張り切っていたかもしれないし、そういう心の動きは男として理解できるしな。

 ……その時は、大体レオも一緒だから俺の出番はなそうだけども。



「はい、どうぞ」

「おう、ありがとな!」

「あ、こちらをどうぞー」

「すまないねぇ。おぉ、これでしばらく生きられるよ」

「何言ってんだ婆さん。婆さんは芋をそのまま食べても、しぶとく生きるじゃろうに!――おぉ、ありがたやー」

「どうぞ……あははは……」

「爺さんだって、二、三日何も食べないでも、問題なくしぶとく生きるくせに、何言ってんだい!」


 少しして、顔見せをするように集まった人達に挨拶をした後、捌いたアウズフムラのお肉を村の人達へ分ける会が催されている。

 アウズフムラの色んな部位を包んだ物を渡しながら、相変わらず言い合うようにするお爺さんとお婆さん。

 もう慣れたからいいんだけど、お爺さん……お肉をもらったからって、俺を拝むのは止めて欲しい……これは皆で得た狩りの成果ですからね?

 ちなみにこの会、親方さんが捌いたお肉を手渡せばと思ったが、狩りの功労者がやるべきと言われて俺やフィリップさん、ニコラさんが皆に渡す役になった。


 フィリップさんは、村の女性に何やら熱心に話しかけていたりするので、もしかしたら口説いているのかもしれない……後でセバスチャンさんに怒られても知りませんよ?

 ニコラさんは子供達に人気なようで、親子連れが並んでお肉を受け取っていた……昨日、子供達と一緒に遊んだからだろう。

 俺の前にはお爺さんやお婆さんが多いが、中には木こり衆の人達や若い人も混じっているので、まんべんなくといった感じだ。

 なんだけど……。


「おう、タクミ。俺にも一つくれねぇか?」

「いや、親方さんまで並ぶ必要はないんじゃ? そもそも自分で捌いたんだから、その時に確保していれば良かったと思うんですけど?」

「こういうのは、功労者が手ずから分けてもらうのがいいんだ。いつもはデリアがやる事が多いが、珍しく違うのもあるな」

「そういうものですかね……どうぞ」

「おう、ありがとよ!」


 お肉を手渡してしばらく列が進むと、親方さんが再登場。

 いつの間にか、俺の列に並んでいたらしい……まぁ、本人が楽しそうにしているから、いいんだろう。

 でも、いつもはデリアさんがこれをやるのかぁ……狩りの様子を見ていたら、確かに一人だけずば抜けていたから、大体デリアさんが参加した狩りでは、一番の成果を出すんだろうな。



「はぁ……ようやく終わった……」

「後から、先に集まった人以外も参加していたからなぁ。村に住む全員が来たんじゃないか?」

「さすがにそれは……畑でまだ働く人もいるでしょうから、言いすぎでしょう。しかしフィリップ殿、女性にばかり声をかけていたようですが?」

「ま、ちょっと大袈裟に言っただけだよ……って、ニコラも子供達に群がられていたのに、よく見ているな……」


 アウズフムラのお肉を配り終わって、一息吐く。

 同じく配っていたフィリップさんやニコラさんも一緒だが、話しはフィリップさんが女性にばかり声をかけていたという方向へ。

 まぁ、俺は気にしないからいいと思うけど……それこそ、あちこちに手を出して刃傷沙汰とかにならなければな。

 声をかける程度なら、特に問題にはならないだろう。


「それにしても、さすがの大きさなだけあって、あれだけ配ったのにお肉はなくならないもんだなぁ」


 まだ山のように積まれているお肉を見て、独りごちる……フィリップさん達は女性への声のかけ方とか、何故そちらへ行ったのかわからない事を話し始めたからな。

 フィリップさんではないけど、村に住むほとんどの人が来たんじゃないか、というくらいの人に配ったはずだけど、それでもまだ残っているアウズフムラのお肉。

 配ったお肉は各家でそれぞれ保管し、余ったお肉の方で盛大に宴会を開いて食べるらしい。

 なので、今日は広場で皆で夕食を食べる予定になっている……まぁ、さっき聞かされたばかりなんだけど。


 そういえばお昼もまだだった……と教えられた時に言ったら、大量の料理が振る舞われるから、昼食を食べずに我慢してお腹を空かせておいた方がいいとも言われた。

 まぁ、視線の先にある詰まれたお肉を見れば、大量にというのはわからなくもないけど。

 とりあえず、この村では大物が狩れたり作物の収穫が行われた直後は、宴会を催して村全体でお祝いをするらしい。

 作物はともかく、アウズフムラのお肉は村だけで消費しきれなかったら、腐らせてしまう事もあるかららしいけど、保存食にする事もできるので口実だとも言われたっけ。


「タクミさん、お待たせしました!」

「あぁ、デリアさん。村長さんはどうだった?」


 ぼんやりしていると、村長さんに湿布薬を渡しに行っていたデリアさん戻ってきた。

 ちょっと時間がかかったようだから、きっと話し込んでいたんだろう……村長さん、デリアさんを可愛がっていたし、暇そうだったからな。

 その間に、ギフト関連の情報は頭の中である程度整理できたようで、村へ戻る時のような様子はなく、元の元気な表情に戻っている。


「喜んでいましたし、温める方も試してみるって言っていました。……薬草で良かったのに、磨り潰した状態で渡したのは、ちょっと怪しまれましたけど」

「あー、まぁ、確かにそれはそうか。やり過ぎたかなぁ?」

「でも手間が省けて良かったって、村長の息子さん達が喜んでいたので大丈夫だと思います」

「まぁ、あれだけで能力の方には考えが行かないだろうから、大丈夫かな?」

「ですです!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る