第898話 デリアさんに『雑草栽培』を見せました



「フィリップ、ニコラ。一応、他に人が来ないか、見張っていて欲しい」

「わかった」

「承知しました」

「……何をするんですか? 森の中に入るんじゃ……?」

「森の中に入らなくても、薬草を手に入れる方法があるんだ」

「え? そんな方法が?」

「ちょっと、特殊な方法なんだけどね……とりあえず、見ていてよ」


 念のため、他の人に見られないようフィリップさんとニコラさんに見張りを頼むと、頷いて俺達から少し離れ、それぞれ村の方と森の方へ注意を向けてくれた。

 あんまり多くの人に『雑草栽培』というギフトを持っている事を、知られない方がいいからな。

 首を傾げつつ、俺が何をしようとしているのかわからないデリアさんは、相変わらず不思議そうだけど、とりあえず見ていてもらうように言う。

 あれこれ説明するよりも、実際に薬草が生えてくるところを見せた方が早いからな。


「えーと……ラモギモドキ……と、イヌホオズキ……じゃないや、イヌホツキもついでに……と」

「タクミさん、何を……って、えぇぇぇぇぇぇ!?」


 その場にしゃがみ込み、まずはラモギモドキを幾つか作り出し、成長しきったところですぐにイヌホツキも作る。

 もし温めても効果が出なかった時は、元の薬草湿布に戻すためで、デリアさんが頼まれたイヌホツキもちゃんと持って帰ってもらわないとと思ったからだ。

 『雑草栽培』が問題なく発動し、地面からニョキニョキと薬草が生えて来る光景に、しゃがみ込んだ俺の後ろから覗き込んだデリアさんの驚く声が、周囲に木霊した……。

 って、覗き込んでいるから仕方ないけど、耳の近くで叫ばないで欲しい……キンキンする……。


「で、デリアさん……驚くのはわかるけど、ちょっと声が大きすぎるかなぁ?」

「あ、す、すみません……って、それどころじゃないですよ! ど、ど、ど、どどどどど」

「えっと、『どうして薬草が地面から急に?』かな?」

「っ、っ」


 二種類の薬草ができ上がったのを確認しつつ、地面から手を離して耳を押さえて立ち上がりながら、デリアさんに注意するように言った。

 大きな声を出してしまったのを謝るデリアさんだが、すぐにまた驚きの表情で言葉にならない声を発する。

 ……驚き過ぎて、なんで言えばいいのかわからない、と言う様子かな? と思い、通訳じゃないがデリアさんの言いたい事を代弁してみると、激しく首肯した。


「まぁ、初めて見たら驚くよな」

「某達は、先に聞いていましたし、薬草を渡されたのであそこまでではありませんでしたが、それでも実際に見た時は驚きが勝りました」


 見張りをしていたフィリップさんとニコラさんは、デリアさんの驚きに納得するように頷きながら、こちらに戻って来る。

 そういえば、フィリップさん達には薬草渡すのが先だったっけ……あの時はレオがオークを運ぶ手伝い代わりに、と身体強化の薬草を渡したんだったか。


「えっと、デリアさんは薬草畑の話をしているし、雇うと考えているので教えるけど……俺にはこういう能力が備わっていて、薬草を一瞬で作り出す事ができるんだ。とはいっても、限界があるから畑にして多くの薬草を栽培しようとなってってわけ」

「そ、そうなんです……か? でも、そんな能力って……いえ、実際に見たので疑うわけじゃないですし、レオ様をも従わせるタクミさんなのですから、不思議ではないと思いますけど……」

「タクミ殿、それだけではデリア殿に全て伝わらないでしょう。デリア殿、タクミ殿にはギフトと呼ばれる能力が……」

「『雑草栽培』っていうギフトで、なんでも……」


 簡単に説明したはずだったけど、俺の能力を何も知らないデリアさんには、ちょっと伝わりづらかったようで、ニコラさんとフィリップさんが代わる代わるデリアさんに説明を始めた。

 うーむ……薬草を作れるけど限界があるから、皆に協力してもらって薬草畑を作って、大量に薬草を……と端的に伝えたつもりだったけど、セバスチャンさんのようにはいかなかったらしい。


「えっと、『雑草栽培』がタクミさんで、薬草をギフトが畑にして……」

「ちょっと、色々説明し過ぎたか?」

「ですが、ギフトの事を説明しないと、薬草畑の事にも繋がりません」

「……デリアさん、大丈夫かな?」

「は、はい……なんとか……」


 一気に説明されて、両手で自分の頭を押さえながら、脳内で色々な事がグルグルしている様子のデリアさん。

 混ざってしまって俺が『雑草栽培』になってしまっているけど、整理できれば理解してくれると思う。

 とりあえず声をかけると、ちょっと疲労感のようなものを見せながら、デリアさんが力なく頷いた……身体能力は高いけど、あんまり頭脳労働は得意じゃないのかもしれない。

 いや、労働ではないけど。


「とりあえずそういうわけで、俺は薬草がいつでもどこでも作れるってわけ。今は、そのくらいで考えておいてもらえばいいかな。あんまり広く知られない方がいいから、村の人達にはデリアさんが見つけたって事にしておいて欲しい」

「わ、わかりました。薬草を作れる能力……ギフトの事は、なんとなく聞いた事がありますけど、タクミさんはそんな凄い能力を持たれていたんですね……。これは確かに、多くの人に報せるわけにもいきません。タクミさんの危険が狙われてしまいますから」

「……まだちょっと混乱中かな? まぁ、そのうち落ち着くだろうけど」


 危険が狙われるって何だろうと思ったが、色々脳内で整理中なのだから邪魔はしないように、とりあえず内緒にしておいて欲しいというお願いだけしておいた。


「それじゃ、この薬草を摘み取って……」

「……あ! もしかして、面談の時の質問で薬草を多く根付かせられるのかとか、色々説明不足ながらも大丈夫と言っていたのって?」


 説明も終わった事だしと、もう一度しゃがみ込んで作った薬草を摘み取る。

 その最中、面談での事を思い出したデリアさんは、俺やセバスチャンさんが説明できないけど、問題ないと言っていた理由に気付いたみたいだ。

 『雑草栽培』とかギフトの事は、あの時には言えなかったからなぁ……公爵家が後ろにいるっていう信頼がなければ、単なる怪しい勧誘にしかならなかっただろう。


「そう、このギフトがあるからなんだ。まぁ、まだわからない事も多いんだけど、とりあえず数を増やせる事はわかっているからね。あの時はまだ、誰を雇うか決める前段階だったし、詳しく説明できなかったから。よっと……あとは……ニコラさん、いらない布とかってありますか?」



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