第879話 ペータさんは農業知識が多いようでした



 走れなくなった馬は、ずっと世話をしているわけにもいかないが、馬耕をして農耕馬としてならなんとかできなくもない。

 そうする事で、馬を面倒を見る事にも価値が出て来るってわけか……よっぽどの事がなければ、ゆっくり鍬を曳くくらいはできるだろうからな。


「元気な馬はに運びだとかで仕事があるが、老いて走れなくなったり、怪我をした馬はな……」

「そこで、ペータお爺ちゃんが馬に特別な道具を付けて、畑を耕すように提案したんです。私は話しを聞いただけですけど」

「仕事があれば、馬が生き延びれる。畑が広くなって、作物が多く取れれば世話をする余裕も出て来るからな。他の村でもやっている所があるらしいから、ワシが特別凄い発想をしたとかではないんだがな」

「それでも、ペータお爺ちゃんのおかげで助かった馬もいたんです。きっと、馬もお爺ちゃんに感謝してますよ!」

「そんな、馬の気持ちがわかるような事を……あぁ、デリアは獣人だから、馬とも話せるんだったか」

「デリアさんは、馬の事を誰よりも知っているのかもしれませんね」


 リーザと同じく、獣人のデリアさんは馬と会話もできるだろうから、人間よりも馬に感情移入するものなのかもしれないな。

 人間側だって、世話をしてきた馬の事をかわいそうだと思うんだから、話しができるデリアさんは特にだろう。

 ペータさんが提案したのは若い頃で、デリアさんはその時いなかったようだが、それでも馬というか、獣を助けたペータさんの事を凄いと思っているようだ。


「それに、ペータお爺ちゃんはその後も畑の土が痩せて来た時とか、作物が育ちにくくなった時にも色々提案して、皆を助けているんです!」

「ワシはただ、痩せて来たら休ませる。他の土や森の枝葉を土に混ぜたりして、土を肥えさせるよう言っただけだ。これも、他の村でもやっていたようだし、ワシが一人で編み出した方法というわけでもないんだがなぁ……」


 畑を休ませるというのは休耕の事で、土や枝葉を混ぜるのは腐葉土をという事だろうか?

 ずっと同じ作物を作っていたら、必要な栄養分が土からなくなるため、土地を休ませたり腐葉土を混ぜて栄養分を補充する必要があるらしい。

 褒め続けるデリアさんに対し、ペータさんは照れくさそうにそっぽを向きながら、謙遜している。

 でも、他の場所で既にやっている事だとしても、この村で初めてやろうと提案して実際に成功させたのは、ペータさんの功績だと思う。


「一番最初に考え付いた人が凄い、というのは当然ですけど……それでも、今までにない方法を村に伝えて実行させたペータさんは、凄いと思いますよ」

「なんでぇ、客人までデリア側に付いて……」

「タクミさんです、ペータお爺ちゃん」

「お、おう。タクミ、な」


 俺もデリアさん側に回って褒めると、さらに照れくさそうにするペータさん。

 ちゃんと名前を呼ぶように訂正するデリアさんと一緒に、しばらくその場でペータさんと話して過ごした。

 ペータさんは村の発展のためもあるが、畑でちゃんとした作物が育つようにと常に考えているような人で、近隣の農業をしている村から、どういう工夫をしているかの情報を集めたりもしていたらしい。

 今は年を取ったから、あまり積極的には関わらないようにしているらしいけど、それでもよく椅子に座って畑を眺めたりしているようだ。


 畑や土の事だけでなく、作物ごとに栽培の方法等々に精通しているようで、さながら農業の専門家のような人だな。

 最近は、さっき自分でも自虐するように言っていたように、老いたからという理由で、口うるさく意見するのを、畑で作業する若い衆に煙たがられている節もあるようだけど。

 多少若く見えるとしても、確かに見た目は老人だし話していると全然耄碌したとか、そんな事は感じさせないんだけどなぁ……まぁ、自分達で頑張って畑を維持しているのに、横から色々言われたら反発する人がいてもおかしくないか。


 ペータさん自身は、どこかで自分の知識を活用したいと考えているようだから、ついつい口を出してしまうみたいだ。

 ふーむ、土や農業に詳しい人で、自ら体を動かさないまでも知識が多くあるうえ、経験も実績もある人か……。

 本人は、畑の事に拘われれば別にブレイユ村じゃなくてもいいみたいな事も言っていた。

 ……本気で村の事をどうでもいい、と思っているわけではないだろうけどな。


 でも、もしペータさんが考えてくれるなら、ランジ村に来てもらうのもありかもしれないな……あの村では農業をしていないから詳しい人は少ないだろうし、雇う予定の人にも知識がある人がいるけど、ペータさん程詳しい人はいないから。

 とりあえず、勧誘してみるかどうかはじっくり考える事にしよう。

 来てくれるかもまだわからないし、話をするには俺の事や公爵家の事も話さないといけないからな。

 そうして、話を終えた後はまだ畑を眺めるらしいペータさんを残して、デリアさんやニコラさんと一緒に村へと戻った――。



「ほらほら、もっとお食べ!」

「たらふく食べるんだよ。食べないと、ちゃんと育たないからねー!」

「昼から飲む酒は美味いのう……」

「いつもは婆さん達がうるさいが、客人たちがいるおかげで、気にせず飲めるんじゃ」

「まったく、いつもお酒を飲む機会を窺っているんだから……タクミさんや、こんなジジイ共みたいになっちゃいけないよ?」

「誰がジジイじゃ、このババァ」

「あんたの事だよ、このジジイ!」

「あはははは……あ、ありがとうございます。――美味しく食べてますよ、だからこれ以上はちょっと……」


 村に戻ると、お婆さん達がそれぞれの家で用意してくれていたのか、料理を持ち寄って中央の広場で昼食会となっていた。

 お爺さん達はお酒を持ち寄っているけど、昨日も見た蛇酒なのでそちらは遠慮させてもらっている。

 昨日もそうだが、どうもお爺さんとお婆さんが数人以上揃うと、言い合いがよく起こるらしく、気にしても無駄だから放っておけ、と他のお爺さんとお婆さん達に教えられた。

 それはともかく、お酒を飲まない代わりなのか、お婆さん達が大量の料理を持って俺に食べさせようとしていて、それはそれでお腹の容量が辛い……あと、もう食べて育つとかって年齢じゃないです……横に育つかもしれないけど――。


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