第870話 考えていたよりも自給自足をしている村のようでした



 オークは買うではなく狩った方が安上がり、というのはともかくとして……ブレイユ村は規模としてランジ村より少し大きいとはいえ、村だ。

 巡回している兵士さんはいても、常に兵士さんがいるわけでもなく、オークの肉を手に入れるにはオークを倒さないといけないんだが、それをデリアさんが担当しているらしい。

 というか、木こりの人達もオークを倒すくらいはできるという事か……。


「まぁ、村の人達が怪我をする事もよくあります。けど、皆は木を伐るのと同じようなものだって言っていますね。木を伐る時も、間違って怪我をする事はありますから。私が知る限りでは、かすり傷くらいで大きな怪我をした人はいませんけど」


 まぁ、気を付ければ一体や二体くらい、人数を集めて武器を持てばなんとかなる、かな? ランジ村でも、森で魔物を発見したら皆でなんとかするって言っていたしな。

 木こりなら木を伐るための斧とかは持っているだろうから、武器には困らなさそうだ。

 でも、デリアさんはどうなんだろう? 


「そ、そうなんだ。でも、デリアさんは大丈夫? 口ぶりから、一人でオークを狩っているように聞こえたんだけど?」

「はい、一人です。オークは単純な動きなので、平気ですよ。むしろサーペントの方がニョロニョロと動いて、キュッとやりにくいくらいです。油断すると巻き付かれますし……咬まれた事は今まで一度もありませんけど……」

「確かに単純な動きだけど……まぁ、デリアさん達が無事なら、それでいいのかな……?」


 オークは何度も戦ったからわかるけど、真っ直ぐ突進してくる、腕を振るう、くらいの単純な行動が多いので知っていればやりやすいのもわからなくもない、かな。

 苦労して倒していたし、二体同時に相手をした時は怪我をした俺って……そして、真っ向から向かって叩き落とされたシェリーも……。

 簡単にオークの動きに対処できたり、サーペントに咬まれた事がないのはデリアさんの反射神経がいいからだろうと思う、猫っぽいから納得ではある。


 巻き付かれたりは……サーペントの体が長いから、咬まれないように口に注意していると、胴体や尻尾の方を動かして巻き付いて来る事があるかららしい。

 草の生えた地面を張っているから見えにくいし、それは確かに厄介なんだろうけど……そういえば、リーザと初めて会った時、獣人は総じて人間よりも身体能力が高いって言っていたっけ。

 ナイフを使って、リーザも小さな体でオークを倒していたし、そういうものなんだろう、多分――。




「それじゃ役割分担も決めたし、村長さんに挨拶しに行こうか」

「はい。すみません、本来は村長が来るべきなんですけど……タクミさん達に行ってもらう事になって……」

「大丈夫だよ。それに、ただ村に滞在するだけの旅人や商人と同じ扱いだから、村長が来るのも変だからね」


 デリアさんのおかげで想像以上に美味しかった昼食を終え、片付けを終えて外へ出る。

 ランジ村のように歓迎されるのであれば、村長が自ら来るのが筋らしいけど、今回は通常の村への来客だから、呼び付けるような事はできない……というかしたくない。

 あと、元々デリアさんは村長を連れて来て、俺と話をさせたうえで事情をある程度伝えておくかどうか、と迷っていたらしいけど、現在ブレイユ村の村長さんは自宅を出られない状況になったようで、単なる客として滞在する挨拶をするだけになった。

 ちなみにその自宅を出られない状況というのは、腰を痛めたかららしい。


 デリアさん曰く「年甲斐もなく張り切って、重い物を運ぼうとしたから」との事……重い物をって事は、ぎっくり腰かな?

 同時に、もっと自分の年を考えて欲しいと結構辛辣な事を言っていたが、それも親しい間柄だからだろう、溜め息を吐くよりも、苦笑していたしな。


「お、デリアと一緒だったのか。ちょうど、これからそちらに戻るところだったんだ」

「カナートさん」

「遅いよ、カナートおじさん」

「デリアが言って回っていたと思ったんだが、そうじゃなかったみたいだからな。村の奴らに客人が来たと報せるのに少し時間を取られちまった」

「あ、忘れてた……お爺ちゃん達に燻製肉をもらって、タクミさん達に食べてもらおうと思って急いだから」

「そんな事だろうと思った。安心しな、村の奴らには俺が報せたおいたから」


 動けない状態の村長さんに挨拶しに行くため、歩き始めようとしたところで、別の方向からカナートさんが戻って来て声をかけられた。

 そういえば、村の人達に報せたら戻ってくるって言っていたっけ。

 デリアさんは、燻製肉やニャックを届ける事で頭が一杯になって、他の事が抜け落ちてしまっていたようだ……リーザも似たようなところがあるから、これも獣人特有? いや、ただ単に個性のようなものか。


「ありがとうございます、カナートさん」

「なに、大した事じゃない。それで、これからどこへ行こうとしていたんだ? デリアが村の中を案内でもするのか?」

「村長のところだよ。村に滞在するって言っておかないといけないから」

「あぁ、そうか。俺もさっき客人が来たと言っておいたんだが、それなら一緒に行けば良かったな。まぁ、大分良くなっているようだし、話し相手にもなってちょうどいいか」


 俺達がどこへ向かうかカナートさんに聞かれ、デリアさんが答えてくれる。

 カナートさん、先に村長さんの所へ行っていたのか……確かに一緒に行けば良かったと思うが、話し相手と考えたら問題なさそうだ。

 良くなっているというのは腰の具合だろう、ぎっくり腰だとしたら安静にしてなきゃいけないし、暇なのかもしれない。



「村長、暇そうにしてた?」

「あぁ。俺が出ようとしたら、別の誰かを連れて来てくれって頼まれたくらいだ。村長も、動けないから手持無沙汰なんだろうさ」

「ブタさんだね」

「……ブタさん?」

「あ……」


 デリアさんも俺と同じ事を思ったのか、カナートさんに聞く。

 苦笑しながら頷き、カナートさんの言葉に続いてデリアさんが呟いた。

 聞きなれないというか、ある意味よく聞く言い間違いの感じだったので、思わずオウム返しするように口に出して首を傾げた。


 それに対し、デリアさんは目と口を開けて「やってしまった!」と言わんばかりの表情……ラクトスの時と違って、慣れている村にいるからか、表情豊かだなぁ。

 ラクトスでは、獣人だとバレたら……って考えていたり、レオやら面談やら公爵家のクレアとかで緊張していたからだろうけど。


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