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第869話 燻製肉は贈り物にしたい見た目でした
第869話 燻製肉は贈り物にしたい見た目でした
デリアさんのお酒をもらって来るという提案は断るとして、フィリップさんのお酒に関して、ニコラさんもセバスチャンさんから言われていたのか……。
村にはそれぞれ独自のお酒を作ったり飲んだりという文化があるからと、実は俺もこっそりフィリップさんに飲ませ過ぎないよう言われていたりする。
まぁ、ランジ村で酔っ払ってワイン蔵にまで入っちゃったからなぁ……村の人が誘ったのもあって、笑って許してくれたけど、気にする人は気にするだろうし、同じような事があっちゃいけないから。
「それより、デリアさんも一緒に昼食を食べよう。これから戻って支度するのも、手間でしょ?」
「え、よろしいんですか?」
「もちろん。食事は皆で食べる方が楽しいし、食べ物を持って来てくれたからね、そのお礼だよ。でも、燻製肉とかはともかく、作った料理が美味しいかはわからないかな……俺も人の事は言えないんだけどね」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて……」
フィリップさんにお酒の話が聞こえてしまわないように、話を変えてデリアさんも一緒に昼食をどうかと誘う。
一人で暮らしているみたいだし、俺達を迎えに来てくれたので準備はまだだろう……燻製肉やニャックを持って来てくれたお礼もしたいから。
あと、一人で食事をするって経験あるけど、本当に味気なく感じたりもするからなぁ。
レオを拾ってからは、一緒にいて楽しくなったな……最初の頃は、レオが俺の食べている物を狙っているのを避けたり、ジッと見られてあげたくなるのを我慢するのは大変だったけども。
「おぉ……俺が前食べた燻製肉より美味しいぞ。あれより少し固いが、薄く切ってあれば特に気にならないな」
「確かに、美味しいですな。ですが、ただ炒めた食材の中に薄く切った燻製肉をぶち込むというのは、いかがなものかと……」
料理が完成して皆で食べ始めたんだけど、一口食べて燻製肉を絶賛するフィリップさん。
炙ってあるし、ニコラさんの言うように野菜炒めへただぶち込んだだけじゃないんだけど、個別に出ると思っていたから気持ちはわかる。
フィリップさんは昨夜の料理といい、とにかく混ぜて適当に炒めておけば何とかなる派らしく、ある意味男らしい……ニャックも入っていた。
大皿料理が好きというか、それが得意という事にしておこう。
「美味けりゃいいだろ? デリアさんは、ニコラみたいに何も言わずに食べているぞ?」
「んぐんぐ……な、なにか?」
「……いや、気にせず食べてくれ」
口いっぱいに頬張っているデリアさんは、フィリップさんに見られて恥ずかしかったのか、少し耳が垂れ気味。
ニコラさんと顔を見合わせて、微笑ましそうにしながら食べる事に集中するよう促した。
何かを言われるより、デリアさんのように食べてもらった方が嬉しいんだろうな……料理を頬張って頬が膨れているデリアさんが可愛かったのかもしれないけど。
っと、皆をみているだけじゃなくて、俺も食べないとな……。
「確かに、フィリップさんの言う通り固い気もするけど、美味しい。炒めた野菜に巻いて食べてもいいかな」
「うんうん、さすがタクミだ。ニコラと違って小言を言わずに、料理をしっかり味わって食べてくれるなぁ」
「某は小言を言ったつもりは……もう少し、工夫の余地があると思っただけです。気を付けます……」
「おっと、別にニコラを責めるつもりはないんだからな?」
食べた燻製肉は、日本でも食べた事のある固めのジャーキーに近く感じるくらい、歯ごたえがあったけど、薄くスライスされているおかげで食べやすい。
炙ってあるのが、燻製する時に染み込んだ木の香りや、他の調味料などの味を引き出していてそれも美味しく感じる理由だろう。
薄い燻製肉を、炒められた野菜に巻いて一緒に食べると、塩気や他の味が合わさってより引き立てられているような……ニャックの柔らかい弾力のある噛み心地と、固めの燻製肉の噛み心地も面白い。
……なんて、俺は食の評論家じゃないから、あまり無理して言葉を捻り出す必要はないか。
美味しいのは事実だし、考えているのも嘘ではないけど。
ちなみに、薄くスライスした燻製肉は見た目がロースハムみたいだった。
糸で縛られていた塊の時といい、お中元としてお世話になった人に送りたくなってしまうなぁ……。
「……あ、この味ってもしかして……オークの肉を使っているのかな?」
「気付きました? はい、オークの肉を使って燻製するのが、この辺りでは多いんです」
木の香りだったりでわかりにくいけど、なんとなく食べた事のある味を少しだけ感じたので、デリアさんに聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。
オークという事は、豚肉なんだろうけど……増々どこぞのロースハムが思い浮かぶな。
味は違うけど。
「オークの肉を燻製にする事が多いという事は、この辺りはオークが多いので?」
「んー、そんなに多くはいないですね。村に寄って来るほどではありませんし、森の奥へ行かないといけません」
「なのに、オークの肉を使う事が多いと。あぁ、ラクトスで買ってきたのですか?」
ニコラさんが、オークの肉を使っている事に興味というか、気になったようでデリアさんに聞いた。
オークは訓練した人なら、なんとか対処できなくもない程度とは言え魔物。
何度も戦った事があるけど、相手がレオも敵わないとわかるまで逃げずに襲い掛かろうとするので、森が近いこの村では警戒しないといけないと思ったのかもしれない。
けど、デリアさんからの返答は多いとは言えないとの事……ラクトスでは大通りを歩けば、誰かが倒したオークの肉が売られていたりするので、そこで買ってきたのかもしれない。
「いえ、森にいるオークを狩って、それを使っていますよ? 買って来るよりも、狩ってきた方が早いしお金もかからないですから」
「……それは、確かにそうですが……村の人達が狩るのですか?」
「最近は、私が狩って来る事が多いですけど……村の木こりの人達が、森に入ったついでに狩って来る事が多いですね」
「デリアさんが? 村の人も……危なくないかな?」
買ってと狩って……言葉ではわかりにくいけど、明確に違う内容だ。
森にオークがいるのはわかるけど、現地調達だったか……確かに、お金を出して買うよりは仕留めて持ち帰った方が安上がりなのは間違いないけど、うーん――。
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