第839話 リーザをセバスチャンさん達に診てもらいました



「横になった後は……えっと、リーザ。お腹が痛いのは、食べ過ぎとかじゃないよな?」

「うん……違うと思う。食べたのって、ちょっと前だし……」

「そうだよな。いつもと変わらない量だったし、食べ過ぎって事はないか……」


 頭に浮かんだ質問をリーザにして、どういった症状なのかを確認する。

 ただ、焦っているせいか、一度自分の頭の中で否定した事も質問してしまったが、リーザは痛みに顔をしかめながらもちゃんと答えてくれた……すまない。


「それじゃ……あ、そうだ! 薬草……『雑草栽培』で腹痛に効く薬草を作れば……!」

「ワフ! ワウワウ!」


 こういう時のために、薬や薬草があるんだと思い出し、腹痛を治したり和らげたりできる薬草を『雑草栽培』で……と思いついた。

 レオも、それだと言わんばかりに、俺に向かって鳴く。


「あーっと……腹痛に効く薬草……痛みを取る薬草……えっと……うーん……」


 だが……実際にどんな薬草がいいのか、焦っている状況もあって思い浮かばない。

 というかそもそも、何が原因でお腹が痛いのかもわからないので、思い付きで薬草を与えても効果が出ない気がする。

 変な効果の薬草をリーザに食べさせてもいけないし……症状を素人が判断してもいけないし……一体どうしたら……!


「タクミ様? 失礼します……何か騒がしいようですが、どうかされましたか?」

「あぁ、ライラさん! リーザが、リーザが!」

「ワフ! ワフ!」


 俺が唸ったり声を出したり、レオが鳴いたりしているのに加え、ドタドタと慌てている音が聞こえて不審に思ったのか、ライラさんが様子を見に部屋へ入って来てくれた。

 情けないと思うが、渡りに船とばかりにライラさんへ縋り付くようにして、窮状を伝える。

 いや、さすがに本当に縋り付いたりはしなかったはずだが、心境的には似たようなものだ。


「……わかりました。すぐに他の者に知らせます! そうですね……タクミ様は、リーザ様のお腹に手を当てて、暖めてあげると良いかと。詳しい症状はわかりませんが、冷やすのは良くないでしょうから!」

「はい、わかりました!」

「ワフ!」


 俺やレオ、横になっているリーザの様子を見て把握したライラさんは、すぐに部屋を出て人を呼びに行ってくれた。

 部屋を出る前に、お腹に手をという助言を残してくれたので、それに従って横になっているリーザの手に俺の手を重ねるようにして、冷やさないよう気を付ける。


「ワウゥ……」

「レオも手伝ってくれるのか、ありがとう」

「ワウ、ワウ……」

「そうだな、心配しているのは俺だけじゃないよな。――リーザ、今ライラさんが人を呼びに行っているから、もう少しだけ我慢してくれ」

「うん……ごめんなさい、パパ、ママ……」


 俺がリーザの手に自分の手を重ねていると、その上から大きなレオの前足が乗った。

 そうだよな、レオも心配だよな……添えられた前足からは、何か特別な事をしているのかレオの体温なのか、包まれるような温かさを俺の手の甲から手の平、リーザの手へと伝えて行っていた――。



「ふむ……ライラさん、ゲルダさん。少々よろしいですかな?」

「はい、セバスチャンさん」

「リ、リーザ様は、大丈夫なのでしょうか……?」


 しばらくして、ライラさんがまだ起きていたセバスチャンさんとゲルダさんを連れて戻ってきた。

 その後ろには、事情を聞いたのか心配そうなクレアとシェリーもいた……さすがにティルラちゃんはいないようだが、夜中に心配して集まってくれて、なんだか申し訳ないな。

 でも、慌てるだけの俺やレオ違い、頼りになる人がこうしてすぐに集まってくれるのはありがたい。


「リーザちゃんは、どうしたのでしょうか……?」

「うーん……わからない。急にお腹が痛くなったみたいなんだ」


 セバスチャンさんがベッドで横になっているリーザの、お腹に触れたりおでこに触れたりするのを、離れてクレアと一緒に見守る。

 レオはベッドを覗き込んで心配そうにしていて、離れる様子はないけど、邪魔になっているわけじゃないからそっとしておこう。

 クレアはリーザの方を見ながら呟いたけど、俺もどうしてそうなったのか見当もつかない……そういえば、本当に急に痛くなったのかどうかすらも確認していなかったな。

 部屋に戻って来た時は何ともなさそうだったし、しばらく我慢もしていたようだから、どんな感じで痛み始めたのはわからないが、俺にとっては急な事だ。


「……クレアお嬢様、タクミ様。少々席を外しましょう」

「リーザちゃんは大丈夫なの、セバスチャン?」

「何か、必要な薬草や薬があるなら、すぐ作りますので、教えて下さい」

「大丈夫です。見たところ、体温が少々高い程度かと。痛みでの汗も出ていないので、深刻な病というわけではなさそうです。それに……いえ、ライラさんとゲルダさんに任せるので、一旦ここを離れましょう。予想が正しければ、薬草や薬は必要ありません」

「そ、そうなんですか……」

「ワフゥ……」


 様子を見守っていた俺とクレアに、そっと近寄ったセバスチャンさんから、部屋を出るように伝えられる。

 クレアと一緒にリーザの容態を訪ね、必要とあれば『雑草栽培』ですぐに何かしらの薬草を作るつもりだったんだけど、ライラさんとゲルダさんに任せて外へとの事だった。

 確かに、リーザは痛がっていても脂汗を流している程でもないけど、体温が高いのは熱があるとかか? 薬草が必要ないとも言われたが、一体リーザはどんな病気に……。

 何もできない俺が、ただ心配して右往左往しているだけなのも邪魔になるので、セバスチャンさんに従ってクレアと共に部屋を出る。

 レオはリーザの横についているようで、相変わらず心配そうな鳴き声を上げていた……。


「……それで、セバスチャン。リーザちゃんは一体どういった病なの? タクミさんの薬草も必要ないと言っていたけれど」

「私は多少知識があるだけで、医者というわけではありません。まぁ、これはシェリーの時にも言いましたが……正確には、病ではないようです」


 部屋を出た廊下で、すぐにクレアがセバスチャンさんを問い詰める……リーザの事を心配してくれているんだろう。

 対するセバスチャンさんは、いつもと変わらず冷静な様子で医者ではないと言いつつ、病を否定する。

 シェリーの時は、獣医では内的な意味もあっただろうけど、執事だからある程度の医療知識があったとしても、専門ではないのは間違いないな……いや、リーザは獣人だから、人間の医者と獣医だったらどっちに診てもらうのが正解なのか、微妙なとこだけど――。



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