第825話 ゲルダさんとの話も終わりました



「正直に申しますと、私では不相応だと納得していた部分もありました。何度か、タクミ様の前で粗相を致しましたし……」 

「粗相って……まぁ、ないとは言いませんけど」


 気にしているのは、何もない所で転んだりしたとか、ドジな部分の事だろう。

 俺の前で転んだ事もあったし、幸い被害はほぼなかったけど飲み物をぶちまけたりとかも、実はあったりした。

 それでも、緊張したり肩肘を張っていた最初の頃とは違い、最近は少しずつ気を付けて失敗する事も減っていたと思う……エッケンハルトさんと森から帰って来た時の、料理が少ない事への早とちりもあったが……。

 ともあれ、少し前にランジ村へ行っていた間に、メイド長さんからみっちり指導されたのか、ライラさん程とは言わなくても、かなりしっかりお世話してくれていたから不相応なんて事は思わない。


「それでも、最近は気を付けて随分なくなっていたと思いますし、不相応なんて事はないですよ。誘うのが遅くなった俺がいうのも違うかもしれませんけど……」

「いえ、タクミ様……実は昨日……」

「え……?」


 言いにくそうにするゲルダさんの代わりに、ライラさんが説明してくれたんだけど、俺達が知らない所ではそれなりに失敗というかドジをしているらしい。

 まぁ、俺達の前で失敗しないように気を付けてくれていて、実際に失敗していないのなら、いいのかな? 大きな失敗というか、ほぼ誰かに被害を及ぼす事じゃなくて、転んで痛い思いをしたりするくらいみたいだし。

 いや、痛い思いもできればして欲しくないけど……こればっかりは気を付けてと言うしかできない。

 ……なぜか転んでも一切怪我をしないゲルダさんだが、もしものためにロエを用意した方がいいのかもしれない、なんて一瞬考えてしまった。


「ま、まぁ……できるだけ失敗しないように頑張ってもらう、という事で……」

「はい、私もゲルダがドジを踏まないよう、今まで以上に見ておきますので」

「す、すみません……」

「あ、でも、初めてあった時のように、緊張しないようにしましょう。適度な緊張は大事ですけど、行き過ぎるともっと大きな失敗をするかもしれませんので」

「……が、頑張ります」


 もちろん、失敗して覚える事は大事だと思うけど、ゲルダさんの場合それとは少し方向性が違うからなぁ。

 油断しているからドジをするというわけでもなさそうだし、緊張し過ぎていい事はないだろうから、一応注意してみたけど……目元を拭いながら返事をするゲルダさんは、また肩に力が入っているようなので、少し逆効果だったかもしれない。

 とりあえず、ランジ村に行くまでと行ってからも、ライラさんにしっかり見ておいてもらった方が良さそうだな……仕事を増やして申し訳ないけど。

 あ、それはそうと、大事な事を忘れていた。


「とにかく、ゲルダさんには頑張ってもらうという事で……一緒に来てくれますか?」


 言っていて、ちょっとプロポーズっぽい台詞だなぁ……なんて考えてしまうが、もちろん違う。

 ランジ村で働いてもらうのをお願いしたわけだけど、まだゲルダさんから承諾する返事はもらっていない。

 まぁ、ここまでの話の流れでほぼ承諾してもらったようなものだけど、口約束であってもちゃんと相手から聞いておかないとな。

 ゲルダさんが反故にしたりするような人じゃないとわかってはいるが、儀式というか作法のようなものだ。


「ほ、本当に私でいいんでしょうか? もっと、他の方達の方がタクミ様方のお役に立てるのではないかと……」


 すぐに頷いてくれると思ったら、ゲルダさんは自分に自信がないのか戸惑っている様子。

 失敗して相手に迷惑をかけたらとか、色々とマイナスな事を考えてしまっているんだろう……卑屈になったりする必要はないと思うけど、自信満々になられるよりはゲルダさんらしいと言えばらしいのか。


「大丈夫ですよ。多少失敗もあったかと思いますけど……俺がこの屋敷に来てから、ちゃんとお世話をしてくれましたから。もちろん、ライラさんもいたのも大きいんでしょうけど、レオもリーザもゲルダさんに来て欲しいと思っていますよ。――な、レオ?」

「ワフ!」

「私も、ゲルダお姉ちゃんと一緒がいい!」


 ゲルダさんを説得するように話しかけながら、走る鍛錬が終わったのか、俺の後ろに来てお座りをしながらリーザと一緒に待機していたレオに声をかけると、頷いて鳴いてリーザも一緒にお願いしてくれた。

 レオの後ろには、シェリーとティルラちゃんやラーレ、コッカーとトリースもいるけど……こっちの様子が気になって集まったみたいだな。


「ゲルダ、もう少し自信を持ちなさい? 貴女が失敗する理由の一つは、その自信のなさにもあると思いますよ。自信がないからちょっとした事で慌てたり、緊張して体が硬直して、失敗するのではないかと思っています。大丈夫ですよ、貴女はきっと役に立てますし、既に役に立てていますから。さすがに、完璧とは言えませんが、それは私も同じです」

「ライラさん……レオ様やリーザ様も……は、はい! わかりました! 私も、タクミ様達とランジ村に行き、微力を尽くさせて頂きます!」


 追い打ちをかける、というわけではないんだろうけど、ライラさんの説得を受けてようやく頷いてくれたゲルダさん。

 今すぐ自信を持ってもらう、というのは無理だろうけど……これだけ皆から請われたら、頑張ってみようと思えたのかもな。

 ……またちょっとだけ、肩に入る力が強くなったような気がするけど、そこは少しづつ力を抜くようにしてもらおう、ライラさんも協力してくれるだろうし。


「それじゃ、ライラさんもですけど……ゲルダさん、これからもよろしくお願いします!」

「ワウ!」

「ゲルダお姉さん、よろしくー!」

「よろしくお願いね、ゲルダ?」

「は、はい! 頑張ります! っと!」 

「わーい、皆一緒ー!」

「いいなぁ、リーザちゃん……」

「キィキィ」

「そうですね、私にはラーレがいますね! あ、コッカーとトリースも!」

「「ピピィ!」」


 改めて、頷いてくれたゲルダさんに手を差し出して握手。

 そこにレオの大きな前足が乗り、リーザが手を上げて喜ぶ……だけでなく、決意を新たにしたゲルダさんへと抱き着いた。

 受け止めたゲルダさんを見ながら、羨ましそうに呟いたティルラちゃんは、ラーレの自分がいるよ! と言うような主張で思い直し、コッカーやトリースもいるから寂しくないと言い聞かせているようでもあった……。

 ティルラちゃんが寂しく過ごさないように、何か方策を考えないとなぁ……ただ我慢させるだけじゃ、かわいそうだ――。



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