第824話 ゲルダさんを呼んで話をしました



「部屋の配置なんかは、後でセバスチャンさんに聞いておいてもらえると助かります。あちらに、見取り図のような物もありまし、さっきの話し合いもまとめてもらっていますので。あ、俺の部屋とかはまだしも、配置としてはあまりこの屋敷と変わらないようです」


 お世話係というか、メイドさんとしてライラさんに働いてもらう事が決まっているから、部屋の配置の事は重要だろうと、後でセバスチャンさんに聞いておくようにお願いする。


「はい、畏まりました。ですが、私が他の方より先に聞いてよろしいのでしょうか?」

「ライラさんが今のところ一番近くて話しやすいですし、頼りにしていますから」

「……は、はい! ありがとうございます! タクミ様の期待に応えられるよう、粉骨砕身尽くしていく所存です!」

「ははは、そこまで意気込まなくても……」


 まだ執事さんも決まっていないし、傍にいる事もあって今一番頼りというか、話すのに適しているのはライラさんだからな。

 他の使用人さんや、クレアが連れて行く使用人さんもいるだろうから、メイド長とするかどうかまではまだ決めていないけど、これまでの事もあって信頼しているし、頼りにしている。

 あまり頼り過ぎるのも、ライラさんに悪いとも思うが……嬉しそうにしてくれているので、今のところは良しとしておこう。

 お世話する事が好きで、頼られたいようにも見えるけど、俺自身はもっとしっかりしないとな……。


「いえ、身に余る光栄です。……あ、申し訳ありません、ゲルダに用があるのでしたね。呼んで参りますので、しばしお待ちを……」


 一度お辞儀をした後、走り回っているレオ達の方へ向かうライラさん。

 俺が頼ると言って喜んでいるのがわかるくらい、その足取りは軽く見えた――。



「タクミ様、私をお呼びのようですが?」

「はい。――ライラさん、ありがとうございます」

「いえ、このくらいはなんでもありません」

「それでゲルダさん。ずっと考えていたんですけど、聞くのが遅くなってすみません。ゲルダさんの考え次第ですけど……よければ、俺やレオ、リーザ達と一緒に、ランジ村に来てもらえませんか? この場合は、ライラさんと一緒に、と言った方がいいでしょうか。クレアもいますので、こことあまり変わり映えはしないかもしれませんけど……」


 まずは遅くなった事を謝りながら、できるだけ強制しないよう、ゲルダさんの意思を尊重するように聞く。

 俺から言う事がそもそも強制と取られるかも、という心配はあるけど……執事さんもいないので代わりにやってくれる人もいないため、今のところ俺が直接聞くしかない。

 ……ライラさんに言ってもらえば良かったかな? という考えも今浮かんだけど、そこまで頼るのも何か違う気がするからな。


「いえ、私もいますが、役割も変わってきますから、やりがいは増えるのではないかと」

「……っ!」


 俺達のお世話をしている今とは、役割というか仕事内容も変わるだろうと付け加えるライラさん。

 まぁ、そりゃそうか。

 ゲルダさんの方は、俺からの問いに衝撃を受けたように目を見開いて、両手を口元に当てて絶句していた……嫌がられてる、とかではないと思うけど……。

 なんて考えていると、見開いた目からポロポロと涙をこぼし始めた……って、涙!? 俺、何か酷い事を言ったかな!?


「ゲ、ゲルダさん!? ど、どうして……もしかして、ランジ村に行くのは嫌でしたか!? それとも、俺達と一緒が嫌とか!?」

「ワフゥ……」


 ポロポロと涙を流すゲルダさんを見て、慌ててしまう俺。

 離れた場所では、走っているはずのレオからため息交じりの声と、非難するような視線が……ジョギング程度の速度だからだろうけど、器用だなレオ……。

 と思っていたら、俺の焦った声が聞こえたのか、ティルラちゃんやリーザ達も足を止めてこちらを見て首を傾げていた。

 レオ以外よくわかっていない様子だけど、なんだか責められているような気がしてしまう。


「大丈夫ですよ、タクミ様。ゲルダは喜んでいますから」

「そ、そうなんですか……?」

「はい。ゲルダ、何も言わずに泣くだけだと、タクミ様に失礼ですよ? 喜んでいるのでしょう?」

「はっ! あ、えど、はい! も、もぢろん……でず!」


 ゲルダさんの横に移動したライラさんが、優しく背中を撫でながら俺にニコリとほほ笑んだ後、ゲルダさんに声をかける。

 驚いた表情のまま泣き始めるって、今までそんな反応をされた事がなかったから、慌ててしまったけど……ライラさんの言う事が正しいようだ。

 声をかけられたゲルダさんは、声を詰まらせながら濁音の多い返事をしてコクコクと首を縦に振る。

 その度に、こぼれていた涙が辺りに散るのが綺麗だなと、関係ない事を考えてしまうのは、嫌がられていないとわかった安心感からだろうか。


「失礼だとかは、気にしませんけど……いきなり泣かれるとさすがに困りますね……えっと、本当に嫌とかではないんですよね?」

「はい……すみみません、取り乱してしまって。私は、タクミ様から誘われないだろうと考えていたので……驚いてしまって」


 少しだけゲルダさんが落ち着くのを待って、その間に用意されたテーブルについて、ライラさんが淹れてくれたお茶を飲みながら話す。

 椅子やテーブルは、最近外で食事をする事が増えたのと、俺やティルラちゃんが鍛錬の合間に休憩するために、いつでも用意できるよう屋敷の出入り口付近に置かれるようになった。

 そのため、一息吐きたい時はすぐに用意されるのがありがたいな。

 ちなみに、ティルラちゃん達はレオも含めてまた裏庭を走っており、今度は後ろの方からコッカー達も追いかけるように走っていたりする……ラーレは空を飛んでいるけど……ともあれ、皆元気だ。

 俺も、話しが終わったら鍛錬しないといけないんだけどな。


「ゲルダは、私がタクミ様に誘われた事も知っていますからね。それで、同じく近くにいるのに自分には声がかからないから、そう考えていたのでしょう」

「ずっと、ライラさんと一緒にゲルダさんも、と考えていたんですけど……すみません、もっと早く誘うべきでした……」

「いえ……」


 ライラさんの言葉に、自分の配慮が足らなかったと反省する。

 屋敷の人達のほぼ全員が、ライラさんが俺について来る事は知っているのに、ゲルダさんに声をかけていないとなれば、そういう考えになってもおかしくないよな。

 ライラさんとゲルダさんは俺達のお世話係だし、毎日顔を合わせている相手でもあるんだから、誘うタイミングはいくらでもあったわけだし。

 他の事ばかり考えていて、忘れてしまっていたというのは言い訳だな――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る