第822話 それぞれの部屋の大きさにも意味があるようでした



 真剣な様子のセバスチャンさんやクレアに、部屋の大きさや客室に関する説明を受ける。

 なんでも、俺が薬草畑を始めたらすぐではなくともある程度の身分があるお客さんが来るだろうと予想しているらしく、そのために家の主人は俺で、共同として公爵家のクレアがいる……という位置付けをはっきりさせるためにも、俺が使う部屋は小さくし過ぎない方がいいらしい。


 さらに、客室の数も減らせば対応できなくなるだけでなく、これだけしか用意できないと侮る者もいたりもする……そして、客室を小さくすれば、それだけ余裕がないとか同じく侮られる事があるそうだ。

 俺自身、侮る人がいてもそういう人はそれだけの人なんだから、放っておけばいいかなとも思うんだけど、さすがに公爵家と拘わりが深い状況で、そうなるのはよろしくないとはなんとなくわかる。

 ……面倒だけどな。

 なので、ある程度以上俺やクレアの部屋を大きくしたうえで、侮られないだけの客室数と広さを確保しないといけないとの事だ。


「村へ来るのは、何も薬草を必要だと考えた者だけではありませんからな。噂が広まれば、他領の貴族が来てもおかしくありません」

「現に、王家のユート様がいらしていましたからね。アンネの例もありますし……頻度は少なくとも、それに対して備えておくのは悪い事じゃありません」


 公爵家より偉い人、というのはそうそういないが、それでもそれなりに権力を持つ人物が来る可能性もあるらしい。

 村への訪問者が増える、というのはなんとなく予想していたけど……まぁ、貴族じゃなくてもどこかの村の村長さんとか、ソルダンさんのような大きな街の代表者、とかが来た時の事を考えれば、必要なのかもしれない。

 いや、俺のところに訪ねて来る、というのはちょっとよくわからなかったが、クレアさんもいるしレオだっているから、そういうものだと納得しておいた方が良さそうだ。


 ユートさんは表向き大公爵だが、王家としての身分もあるので、確かに最高位とも言える訪問者だしなぁ……クレア達は教えられてないだろうけど、初代の王様らしいし。

 まぁ、あの人は旅をしてふらふらしている様子だから、俺の所へ訪ねて来る事も多そうだが……部屋数や大きさで見下すような事はしないだろうけど、全員が全員、ユートさんみたいに気さくな人とは限らないからな。

 

「わかりました。それじゃ……間取りとかも考えて、できるだけ小さくして他の部屋もそれに合わせるようにしましょう。もちろん、侮られないようにちゃんと考えますから……」

「わかりました。実際に住むタクミ様が、納得のいかない家にはできませんからな」

「そうね」


 そうして、しばらくの間家を縮小するにはどうしたらいいかを話し合った。

 激論を交わして……とかではないけど、やっぱりちゃんとした家を作るというのは難しいなぁ、というのが感想だ。

 まぁ、一般の家じゃないからなんだろうけど……一般の家への憧れが逆に強くなってしまったのは、余談かな。

 ちなみにだが、俺が住む家が決まったら、次は働く人達が住む場所の話にもなった。


 使用人さん達は基本的に住み込みが多いが、薬草畑の方での従業員となると住み込みじゃない人だっている。

 どれだけの人が住むかわからないが、家の隣、渡り廊下で繋げた先に一軒の共同生活用の建物を建てて、そこで住んでもらう事になっている。

 そちらは特に机上での話で誰かから反論や、意見が出る事もなくすんなりと決まってくれた。

 炊事場や風呂は完備で、部屋自体はそれぞれ似た形と大きさにはなってしまうが、それでも数人が一緒に暮らせるくらいの部屋になっているはずだ。


 話をしながら、別の執事さんが紙に図を描き起こしてくれたんだけど……ちょっと各部屋が大きい、アパートみたいになっていた。

 もちろん、部屋の扉は鍵が締まるし、四畳半の小さな部屋どころではなく、各部屋最低十畳はくだらない広さがあったけど。

 炊事場、トイレ、風呂が共用なのは上下水道の関係上仕方ないんだが、家賃の安い共同のアパートのように見えながらも、中身は広く設備が整っているというちぐはぐな感じも受けた……。

 まぁ、働いてくれる人が不満なく過ごして欲しいから、これくらいは当然かな? セバスチャンさんから、離れて暮らしたくないという人が続出しそうなんて呟きが漏れたけど。


「あ、あと……これはあくまで希望であって、絶対じゃないんですけど……」

「なんですかな?」


 建物自体はなんとか三階までに収まり、利便性の関係から俺やクレアの部屋は二階と決まり、客室は一階、使用人部屋は一階と二階、執務室みたいな仕事部屋は三階と決まった。

 そんな決定を覆すわけじゃないんだが、日本人としてできればこうして欲しいという希望を伝える事にしてみた。

 早い話が、生活様式の違いについて、かな?


「今、この屋敷では靴を履いたまま過ごしています。まぁ、ベッドに乗る時やお風呂に入る時は脱ぎますけど……」

「はい。それがどうかいたしましたかな?」

「いえその……俺が住んでいた場所って、家の中では靴を履かない文化だったんです。裸足……という人も多かったと思います」

「家の中で裸足ですか……ですが、床が汚れていたり、危険な物があったりするのではないですか?」

「危険な物は、ほとんどなかったかと……まぁ、家が狭かったので綺麗に保つのも楽でしたからね」


 危険な物が落ちているなんて、ないわけじゃないが……そこは住んでいる人が気を付ければいいだけだったからな。

 それこそ、自宅にはレオがいたから、床に危険な物なんて置けるわけもないし、何かの拍子にコップや皿を割ったりしてもすぐに片付けるようにしていた。

 汚れたままだったり、破片が落ちていると俺じゃなくレオが怪我をしてしまうから。

 まぁでも、さすがに靴を履いて過ごす文化の人達に、いきなりこれを受け入れられるとは思っていない。


「いきなり裸足、というのは抵抗があるでしょうから……靴の代わりにスリッパを履く、というのを提案したいんです」

「スリッパ……ですか。それはどのような……?」

「靴の代わりになるような物なのですか? 正直なところ、靴を履かずに足を出したままというのは、少々抵抗があるのですけれど……」


 セバスチャンさんはスリッパへの興味、クレアは裸足で過ごす事が恥ずかしいと言った様子だ。

 深窓……ではないかもしれないけど、貴族のご令嬢に裸足で家の中を歩けと言っても、抵抗があるのは当然だな――。



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